最近読んだコミック:『MATSUMOTO』『金正日の誕生日』他

■MATSUMOTO/LF・ボレ, フィリップ・ニクルー, 原 正人

MATSUMOTO (G-NOVELS)

かつて日本を震撼させたカルト教団オウム真理教をフランス人漫画家が描くバンドデシネ作品がこの『MATSUMOTO』だ。オウム真理教は様々な恐るべき事件を引き起こしたが、この作品ではその最初のものとなる松本サリン事件をクローズアップして描くことになる。すなわちタイトル『MATSUMOTO』は事件のあった長野県松本市麻原彰晃の本名である松本智津夫にかけたものなのだ。それにしても物語がいきなりオーストラリアから始まることに驚いた。ここにオウムのサリン研究施設があったということなのだが、これは知らなかった。その後も物語は教団の洗脳やテロの下準備に暗躍する教団メンバーなどが描かれるが、うっすらと記憶にあったこれらの事実も、こうしてコミックの形で読むと実に具体的な形として眼前に提示され、改めてその恐ろしさを知ることとなった。また、松本サリン事件に特化したこの物語は、その捜査の初動の遅さゆえに後の大きな悲劇を巻き起こしたことを看過しており、短い物語ながら非常に重要なポイントを突くことになっていたと思う。今更、ではなく今だからこそ、こうして読む事の意義を感じた作品だった。 

MATSUMOTO (G-NOVELS)

MATSUMOTO (G-NOVELS)

  • 作者:ボレ,LF
  • 発売日: 2017/02/17
  • メディア: コミック
 

 金正日の誕生日/オーレリアン・デュクードレ, メラニー・アラーグ, 原 正人

金正日の誕生日 (G-NOVELS)

金正日の誕生日』は金正日が最高指導者の地位に就いた時代の北朝鮮の現実を生々しく描いたバンドデシネ作品だ。主人公は8歳の少年ジュンサン、彼は北朝鮮の反米・反資本主義教育に骨の髄まで浸りながら、貧しいながらも優しい父母、姉のいる家庭で健気に生きていた。しかし、旱魃による食糧不足は一家を餓死寸前まで追い込み、遂に彼らは脱北を図ることになる。そしてその後続くおぞましいばかりの地獄絵図がジュンサンをひたすら追い詰めてゆくのだ。北朝鮮における一般家庭の窮乏は耳にすることはあるが、こうして物語として目の当たりにすると、その恐ろしさは想像を絶するものがあった。家族の離散、強制労働、暴力と密告と夥しい死、ここで描かれるのは北朝鮮という名の血も凍るような陰鬱な監獄だ。物語は少年の視点で描かれ、グラフィックも優しく馴染みやすいものだが、だからこそこの世界で生きる事の悲劇と恐怖が否応なく伝わってくる。そして、ただ単に悲惨で終わるだけではないことがこの作品を長く記憶に残るものとして完成させている。

金正日の誕生日 (G-NOVELS)

金正日の誕生日 (G-NOVELS)

 

 西遊妖猿伝 西域篇 火焔山の章(1)/諸星 大二郎

西遊妖猿伝 西域篇 火焔山の章(1) (モーニング KC)

西遊妖猿伝 西域篇 火焔山の章(1) (モーニング KC)

 

 諸星大二郎の大河伝奇コミック『西遊妖猿伝』、なにやら新章なのらしい。この作品、どのくらい大河なのかというと1983年から描き始められてまだ続いている程なのだが、遅筆と中断があって37年経っても単行本はこれ含め17巻しか出ていないのだ!構想では完結済みの第1部大唐篇(全10巻)、現在進行中の第2部西域篇(現在7巻)のあと第3部天竺篇があるらしいのだが……作者存命中に終わるのか、というよりオレが存命中に終わるのか!?余談ばかり書いたがこの巻でも物語最高です。

■水木先生とぼく/水木プロダクション

水木先生とぼく (怪BOOKS)

水木先生とぼく (怪BOOKS)

 

水木しげるのアシスタントを40年勤めたという村澤昌夫のコミック『水木先生とぼく』は水木センセと永らく付き添った作者との数々の思い出を描き綴ったもの。そしてこれが絵のタッチも物語口調も鬼気迫るほど水木先生そのままで、作者にはこのまま水木プロで水木的コミックや妖怪画を出し続けて欲しいなと思うし、まだまだエピソードはたっくさんあると思うから続編も是非描いて欲しい。

GANTZ:E (1)/花月

GANTZ:E 1 (ヤングジャンプコミックス)

GANTZ:E 1 (ヤングジャンプコミックス)

  • 作者:花月 仁
  • 発売日: 2020/08/19
  • メディア: コミック
 

作画・花月仁の手により奥浩哉原作の 『GANTZ』を江戸時代を舞台に描いたコミック。最初全然期待していなかったのだがこれが結構イイ。絵も悪くないし展開のスピード感やゴア表現も本家にひけをとっていない。少なくとも『GANTZ:G』なんかより全然いい。主人公の動機が単純なのもいい。これは期待できるか? 

■GIGANT (6)/奥 浩哉

GIGANT(6) (ビッグコミックス)

GIGANT(6) (ビッグコミックス)

 

巨大化したAV女優がモンスターと戦う!?という大バカコミック『GIGANT』、この巻では例によって奥浩哉お得意のダラダラしたロマンス展開と生々しいセックス描写が垂れ流され(それも無意味な大ゴマで)、いつも通りの無内容さなのだが、オレくらい長く奥浩哉ファンやってると「いつもだいたいこんなもんっすよー次巻あたりでグロいモンスター対決あるんじゃないっすかね?」と余裕で読んでいられるのである。 

いとしのムーコ (16)/みずしな孝之

いとしのムーコ(16) (イブニングKC)

いとしのムーコ(16) (イブニングKC)

 

柴犬ムーコと飼い主小松さんとの心温まる触れ合いを描くアニマルコミック、毎回楽しく読んでいてこれが永遠に続いてくれればいいのに、と思ってたのに、次の17巻で完結ですか!?なぜ!?なぜなの!?

ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』を読んだ

■蠅の王 / ウィリアム・ゴールディング

蠅の王 (新潮文庫)

未来における大戦のさなか、イギリスから疎開する少年たちの乗っていた飛行機が攻撃をうけ、南太平洋の孤島に不時着した。大人のいない世界で、彼らは隊長を選び、平和な秩序だった生活を送るが、しだいに、心に巣食う獣性にめざめ、激しい内部対立から殺伐で陰惨な闘争へと駆りたてられてゆく…。少年漂流物語の形式をとりながら、人間のあり方を鋭く追究した問題作。

ノーベル賞受賞歴もあるイギリス作家、ウィリアム・ゴールディングが1954年に発表した問題作『蠅の王』を読んだ。なんで読んだのか?というと、オレの大好きなSFホラーコミック『漂流教室』や望月峯太郎の『ドラゴンヘッド』への多大な影響がうかがえるし、スティーブン・キングですらその影響を述べていたりするぐらいだからだ。その辺りでモトネタをきちんと確認したくて、随分前から「読んどかなきゃなー」と思っていたのだ。

今回『蠅の王』のテキストとして選んだのは新潮文庫から出ている平井正穂訳のもの。英文学研究家でもある平井正穂の訳はミルトン『失楽園』でも接したことがあったが、格調が高いのと同時に分かり易い訳文だった。とか言いつつ実際は新潮文庫の古本を相方が持ってたので借りて読んだというのが本当のところだが。

『蠅の王』の物語は近未来の世界大戦の最中、疎開中のイギリス少年たちを乗せた飛行機が南海の孤島に遭難したところから始まる。生き延びた10数人の少年たちは救助を期待しながら自給自足の生活を営み、最初それは上手く行くかに見えた。しかし少年グループ同士の対立は次第に深刻の度合いを深め、いつしかそれは殺意へと発展し出すのだ。

平たく言うなら『蠅の王』の物語は「絶海の孤島に取り残された子供たちが最後に殺し合いを始める物語」ということができる。十分ショッキングな内容だし、ある意味ホラーサスペンス的な物語の様に取り沙汰することもできるが、しかしこの作品の本質にあるのはホラーサスペンス的側面では決して無い。むしろ(というか言うまでもないことだが)、読んでいてその文学的側面において非常に優れた作品性を感じた。

オレが文学を語るのは100年ぐらい早いのだが、それでもやはり「ああやはり文学だな」と思えたのはその描写のきめ細かさと的確な表現、時として心を鷲掴みにして放さない、人間存在への深く核心的なフレーズだったりする。それとは別に、物語の持つ高度な寓意性のあり方にもそれを感じた。

『蠅の王』は一見シンプルな物語構成と具象的な描写の背後に、実に深い寓意性を擁している。例えばこの物語は「孤島に遭難した飛行機に乗っていた少年たち」を描くが、具体的にどう遭難したかは書かない。遭難したのが少年だけで、大人や女性/少女は登場しない。その孤島は過ごしやすく嵐や止まない豪雨も無く、果物は食べ放題、少年たちは病気も怪我も無く、ひょっとしたら無限にここで生活できるのではないかとすら思わせる。後半から島に棲む豚の狩猟が始まるが、他の動物は殆ど描かれず、また、豚の狩猟はするが海で魚介を採取する様子は全く描かれない。

これらについて「リアリティがない」と言いたいのではなく、実は作者は巧妙に、島の中に物語が必要とするもののみを配していることがうかがわれるということなのだ。そしてこれら「物語が必要とするもの」とは、作者が意図した寓意へと導くためのものなのだ。ではその作者の意図した寓意とは何なのか。

……とか言いつつ、ここで「はい、これが作者の意図した寓意の本質ですッ(キリッ)!」とやりたいわけではない。そういうことではなく、様々な読み方が出来て、様々な意味が汲み取れるといった形の、多義性のある寓意が本作の面白さなのだと思う。

例えば何故登場するのが少年ばかりなのか?ということについて、それは少年の無垢さとか無原罪性とか、逆に無知ゆえの愚かさとか経験の無さとか、「少年のみ」ということについては男権性の歪みの胎芽であるとか、あるいは物語をシンプルにまとめる為の方便であったとか、解釈の仕方は様々に膨れる。

そして彼らが最後になぜ殺戮という最悪の選択しかできなかったのか、ということについても、やはりそれは子供ゆえの愚かさなのか、それともそもそも人間の本質は愚かだという事なのか、あるいは殺戮を善しとしない主人公との対比を描くことで人間が持つべき尊厳を描こうとしたのか。

「豚の狩猟」という血生臭い行為についても、それは原始的退行を意味するのか、生贄の祭祀を示したものなのか、などなど考え付く。では彼らが生贄にした本当のものはなんだったのか。物語では屠られて木の枝に刺された豚の首が「蝿の王」と呼ばれる事になるが、この魔族の王の名が屠殺された豚の首に付けられる、という事はどういう意味合いとなるのか。

そして宗教的に言うならどうなのだろう。孤島はそれは、創世記の楽園だったのか。確かに少年たちは最初「蛇」を恐れていた。それはその後「獣」という名の漠然とした恐怖に変わった。「獣」に怯え騒乱に至り最後に殺戮へと走る少年達の姿は楽園追放を意味するのか。しかし当初から主人公たちはこの島から救出を願っていた。それは楽園からの意図的な逃走なのか、あるいは「孤島=モラトリアム」からの脱出であり、それを拒む狩猟チームは成長を忌避した者なのか。

書き出すとキリがなく、さらにどれにも当てはまりつつ、正解は無いのだと思う。むしろ「これはなんなのだろう?なぜこうでなければならなかったのだろう?」と考える事の汲めど尽きせぬ広がりに、考えることの有意義さに、この物語の面白さ、興味深さがあるような気がした。そしてそれが寓話というものの本質なのかもしれない。

 余談となるが『蠅の王』はこれまで2回映画化されている。1つ目はピーター・ブルックス版(1962年)、2つ目はハリー・フック版(1990)となる。なぜかピーター・ブルックス版の日本版DVDジャケットは楳図かずおが担当している(下のAmazonリンク参考)。 

蠅の王 (新潮文庫)

蠅の王 (新潮文庫)

 
蝿の王 [DVD]

蝿の王 [DVD]

  • 発売日: 2003/04/11
  • メディア: DVD
 

アンソロジー『中国・SF・革命』はなんだかなあって感じだったなあ

■中国・SF・革命 / ケン・リュウ

中国・SF・革命

売店続出の「文藝」春季号特集を大幅増補の上単行本化。新たにケン・リュウ、郝景芳 (ハオ・ジンファン)の初邦訳作品と柞刈湯葉の書き下ろし「改暦」を収録。 劉慈欣『三体』の世界的大ヒットに代表される 中国SFの現在と、中国をめぐる想像力の先端に挑む、 日中米の作家たちによるオリジナルアンソロジー

もう何度も書いているのだが、最近中国SFの元気がいい。劉慈欣による『三体』シリーズも人気を集め、ケン・リュウや立原透耶による中華SFアンソロジーも実に新鮮な作品が溢れている。そんな中、『中国・SF・革命』というタイトルのアンソロジー河出書房新社から刊行されたので、早速手にしてみたのだが、これが、ええと、う~ん……。

『中国・SF・革命』は雑誌「文藝」2020年春季号で特集された「中国・SF・革命」の作品・エッセイに、ケン・リュウ、 郝景芳の初訳、柞刈湯葉の描きおろしを加えて単行本化したオリジナルアンソロジーである。で、読むまで気付かなかったんだが、このアンソロジー、中華SFだけを網羅した中国SFアンソロジーって訳では全然なかったんだよな。日本人作家による中国を題材にした作品や、中国作家でもSF作品とは呼べないもの、さらにエッセイでも中国には関わっているがSFとは関係ないものが収録されているのだ。要するに、「中国・SF・革命」ではあっても「中国の革命的なSF作品」を扱っているわけではなく、「中国だったりSFだったりなんとなく革命っぽくもある」というのが本書なのである。

ラインナップに日本人作家がいる段階で気付けばよかったんだが、単行本タイトルだけ見たら「中国SFのアンソロジー」って思っちゃうじゃないか。まあ雑誌出版段階で好評だった企画に新作を幾つか足して単行本化しました、というものなんだろうけど、「文藝」なんていう雑誌を知らない単なる市井のSFファンとしては普通に中国SFアンソロジーだと思ってしまうし、確かに中国に関わりのある内容でまとめてあるとはしても、『中国・SF・革命』ってタイトルの付け方は牽強付会過ぎはしないだろうか。日本人作家による作品も非SF作品/エッセイにしても、別にクオリティが低いとは言わないが、例えば英国文学短編集と銘打たれて「かつて英国の植民地だったから」という理由でインド文学入れられても面食らうだろう。そんなちぐはぐさを感じてしまったよ。

文句ばっかり言ってもしょうもないから幾つかの作品の感想を。ケン・リュウ「トラストレス」は短いながらも相当サイバーかつ現実と直結した快作。でもやっぱりもうちょっと長い作品を読みたい。 柞刈湯葉「改暦」は元王朝時代の中国を舞台にした非SF作だが伝奇な匂いがなかなか読ませる。郝景芳「阿房宮」は現代を舞台に不老不死化した始皇帝と出会ってしまった男の顛末を描く奇想SF。この単行本で最も読み応えがあり、最近訳出された中国SFの中でも結構な傑作ではないか。王谷晶「移民の味」は無理にSFしなくても成立しちゃう話だよなー。閻連科「村長が死んだ」はあえて言うならマジックリアリズム風の歴史作だが退屈。佐藤究「ツォンパントリ」は孫文を主人公に据えた力作だがテーマに無理が感じる。 上田岳弘「最初の恋」は要するにエモ文学。樋口恭介「盤古」 は幻想的な筆致で描かれたロマンチックな作品だが大風呂敷過ぎたかな。エッセイの感想は省略。 

【収録作】

■小説 ケン・リュウ「トラストレス」(古沢嘉通 訳) *初邦訳  柞刈湯葉「改暦」 *書き下ろし 郝景芳「阿房宮」(及川茜 訳) *初邦訳  王谷晶「移民の味」 閻連科「村長が死んだ」(谷川毅 訳) 佐藤究「ツォンパントリ」 上田岳弘「最初の恋」 樋口恭介「盤古」 

■エッセイ イーユン・リー「食う男」(篠森ゆりこ 訳) ジェニー・ザン「存在は無視するくせに、私たちのふりをする彼ら」(小澤身和子 訳) 藤井太洋 「ルポ『三体』が変えた中国」 立原透耶 「『三体』以前と以後」

 

スーパースター・ラジニカーント最新主演作『Darbar』を観た!

■Darbar (監督:AR.ムルガダース 2020年インド映画)

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スーパースター・ラジニカーント主演による今年1月に公開されたばかりのタミル語アクション映画『Darbar』がDVD化されたというので早速購入して視聴してみた。内容は復讐に燃える警察長官が巨大麻薬組織のドンと全面対決する!というもの。監督であるAR.ムルガダースはタミル・ヒンディー語両方で活躍し人気を博す監督で、オレも幾つかの作品を楽しんで観た記憶がある。 

【物語】悪党ばかりが連続して殺害される事件が勃発する。事件を起こしたのはムンバイ警察長官のアディティーヤ(ラジニカーント)。いったい何が彼をこのように暴走させたのか。過去、彼は人身売買組織を相手に熾烈な捜査を展開していた。その狡知に長けた作戦で組織を撲滅させたアディティーヤだったが、それと繋がりのある巨大麻薬組織の恨みを買い、一人娘ヴァッリ(ニウェーダー・トーマス)を殺害されてしまったのだ。燃え上がる憎悪に鬼神と化したアディティーヤは超法規的な手段により麻薬組織のドン、ハリ・チョープラー(スニール・シェッティ)に肉薄してゆくが、ハリもまた、恐るべき計画を用意してアディティーヤを叩き潰しにかかるのだった。

大枠ではこうした非常に血生臭い警察アクション作品ではあるが、映画では時系列を前後させながら、アディティーヤと娘ヴァッリとの楽しく幸福な日々、アディティーヤが恋した娘リリー(ナヤンタラ)との嬉し恥ずかしロマンス・シーンを交え、もちろん歌と踊りもありなバラエティー豊かなマサラ映画として完成している。コメディ・リリーフとしてインド映画の人気者ヨーギ・バーブが登場しているのも見逃せない。それにしたってラジニカーントの描かれ方が若い若い!もはや70に手が届かんとする彼だが、特殊メイクで肌はツヤツヤ頭フサフサの精気漲る中高年男を演じている。アクションなども代役を立てているのだろうが、本人が演じるシーンでも矍鑠とした動きを見せていた。

映画の規模としては中程度のスケールで、ラジニカーント主演作としては大人し目に見えるかもしれない。しかし逆にオレにはこの程度のスケールのほうが安心して観る事が出来た。というのは最近のラジニカーント作品は彼を神格化し過ぎているような空気があり、それは彼のカリスマ性を十分映画の中で発揮させることができてはいるが、あまりに神懸りなので時々シラケてしまうことが多かったのだ。この『Darbar』においてもラジニカーントはダーティーハリー顔負けの唯我独尊振りと切れ味のいい機転、そして快刀乱麻なアクションで悪党どもを次々と叩き潰してゆくが、それでも娘を失くして悲しみに暮れる人間的要素もしっかり兼ね備えている。シナリオはラジニカーントのカリスマをきっちり生かすが、そのカリスマ頼みの物語に堕していない。なんとなれば主演がラジニカーントでなくても物語が成立するような性質を持っている。

そういった部分で、ナンバーワン俳優主演による「お祭り映画」としての派手さには欠けるのだが、作りが非常に手堅く、アクション映画として及第点ではないかと思う。AR.ムルガダース監督による演出はスピード感たっぷりで緩急自在、時として奇想天外な物語展開を見せ、スニール・シェッティ演じるマフィアのドンの凶悪さも物語を大いに盛り上げていたと思う。ヒジュラたちの楽しげな歌と踊りと同時進行して緊迫のアクションが炸裂するシーンなどは大いに魅せられた。ただしリリーとのロマンスのその後がうやむやになってしまうのがちょっと惜しく感じた。

ところで今回購入したDVD、タミル語による輸入盤なのだが、これがなんと日本語字幕が入っていて、視聴が実に楽だった。部分的におかしな翻訳があったがそれも些末なもので物語理解には支障は無かった。調べるとタミル語映画DVDにはこのような日本語字幕付きのものがちらほら見られ、理由はわからないが(日本人ファンの尽力もあるのらしい)今後も増えてくれればありがたい。いや最近インド映画DVDとか全く観なくなったのは、英語字幕を解読するのが相当かったるくなってしまったのもあったもんだから。こちら(↓)などで購入できる。

インド映画DVD・CD販売 Ratna - Bollywood Style Shop ラトナ ボリウッドスタイルショップ


www.youtube.com

最近ダラ観した韓国映画あれこれ

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■毒戦 BELIEVER (監督:イ・ヘヨン 2018年韓国映画

毒戦 BELIEVER [Blu-ray]

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  • 発売日: 2020/03/03
  • メディア: Blu-ray
 

謎の麻薬王を追う刑事と組織に見捨てられた青年とが協力し、 闇の世界へと分け入るという映画『毒戦 BELIEVER』、もうなにしろ冒頭から圧倒されっぱなしの大傑作だった!非情なる描写が得意の韓国ノワールの中でも群を抜いて非情な世界が横たわっており、延々と続く苛烈かつ冷徹な描写を通じて「善悪の彼岸」に肉薄してゆく様は、これは韓国映画版の『ダークナイト』ではないかとすら思わせた。映像的にもリドリー・スコットの影響を感じさせ、禍々しくもまた甘美なシーンがあちこちで炸裂し、非常に芸術性の高い映像と撮影からは製作者の並々ならぬ才気を感じさせた。この禍々しさと甘美さとの拮抗は物語にも反映され、ドロドロと狂ってゆく世界とそこで鮮烈に迸る登場人物たちの生きざまとに大いに魅せられてしまった。これはもう一筋縄ではいかない完成度を誇っていると思う。ちなみにジョニー・トー監督による香港・中国合作映画『ドラッグ・ウォー 毒戦』のリメイク作品だとか。

■悪のクロニクル (監督:ペク・ウナク 2015年韓国映画

悪のクロニクル [DVD]

悪のクロニクル [DVD]

  • 発売日: 2015/11/04
  • メディア: DVD
 

昇進間近の刑事が襲ってきた暴漢を殺してしまい隠蔽するも、その後次々と不可解な出来事が起こり、何かの陰謀が動いていることを知る、というサスペンス。正当防衛を隠蔽するというのが今一つ説得力がないのだが、その「何かの陰謀」の真相が次第に明らかになってゆく過程が非常に面白く、その思いもよらない展開に興奮させられ、さらに心掻きむしり、よくもまあこんなシナリオを考え付くな、と思わせた。これも傑作でいいのではないかと。

■スゥインダラーズ (監督:チャン・チャンウォン 2017年韓国映画

スウィンダラーズ [Blu-ray]

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  • 発売日: 2019/03/06
  • メディア: Blu-ray
 

 謎の大物詐欺師を追う検事と、逮捕作戦に協力させられる羽目となった詐欺師チームとの息詰まる捜査を描くクライム・ドラマ。検事も詐欺師チームも一筋縄ではいかない連中で、騙し騙されの虚々実々の駆け引きが展開し、誰が仲間で誰が敵なのかが錯綜し、その先行きの見え無さが面白いドラマを形作っていた。 

■PMC:ザ・バンカー (監督:キム・ビョンウ 2018年韓国映画

PMC:ザ・バンカー [Blu-ray]

PMC:ザ・バンカー [Blu-ray]

  • 発売日: 2020/07/03
  • メディア: Blu-ray
 

近未来を舞台に朝鮮軍事境界線地下施設で北朝鮮要人誘拐作戦に駆り出された傭兵達が出遭う地獄の戦闘を描いた韓国ミリタリー映画『PMC ザ・バンカー』がとんでもなく凄まじかった!米・中・北鮮・韓国の4つ巴の思惑が交差する冷徹な戦場で仲間を守り抜こうとする主人公の戦いはまるでMGSを彷彿させた!

■王の男 (監督:イ・ジュンイク 2005年韓国映画

王の男 デジタルリマスター版 [Blu-ray]

王の男 デジタルリマスター版 [Blu-ray]

  • 発売日: 2019/11/08
  • メディア: Blu-ray
 

王を風刺した寸劇が切っ掛けで宮廷に招かれた大道芸人たちと気まぐれな王との愛憎を描く韓国の歴史映画『王の男』を観た。幼少時のトラウマに苦しむ残酷な王と命懸けで風刺劇を演じる芸人たちの間には常に複雑な感情が渦巻き、先が読めず重厚で文学性の高い素晴らしいドラマに仕上がっていた。傑作。

■新しき世界 (監督:パク・フンジョン 2013年韓国映画

新しき世界 [Blu-ray]

新しき世界 [Blu-ray]

  • 発売日: 2014/08/02
  • メディア: Blu-ray
 

犯罪組織に潜入捜査中の刑事の葛藤を描くドラマ。犯罪組織もクソだが警察組織もクソで、板挟みどころか「もうなにもかもうんざりだ」といった風情の潜入捜査官の絶望感が何より重く、さらに潜入捜査官の炙り出しにかかった犯罪組織の追及にキリキリと胃が痛む思い。こうして訪れる驚嘆のラストはまさに「新しき世界」だった。 

■無垢なる証人 (監督:イ・ハン 2019年韓国映画

無垢なる証人 [DVD]

無垢なる証人 [DVD]

  • 発売日: 2020/05/08
  • メディア: DVD
 

殺人事件の目撃者は自閉症の少女だった、という韓国映画『無垢なる証人』を観た!少女役キム・ヒャンギの演技力に魅せられ正義と良心というテーマに感銘しクライマックスの裁判シーンに鳥肌が立った!でも主人公弁護士の最後のアレは掟破り過ぎて物語の立脚点壊してないかなあと思った。

■反則王 (監督:キム・ジウン 2000年韓国映画

反則王 [DVD]

反則王 [DVD]

  • 発売日: 2013/07/12
  • メディア: DVD
 

ダメダメサラリーマンが一念発起しプロレスジムに入門するが館長に悪役レスラーで試合に出ろと言われ?!韓国映画『反則王』はクソみたいな現実を打破する為もがき苦しむ一人の男の生き様を描く熱くそしてちょっと可笑しい異色のプロレス映画だ!壮絶なラストファイトに誰もが驚き涙するはず!