映画『キャビン』はホラー映画のジャングル・クルーズだったッ!?

■キャビン (監督:ドリュー・ゴダード 2012年アメリカ映画)


注:映画の構造についてちょいネタバレしてますのでこれから観る方は読まないほうがよろしいかと存じます。観た方がみんなおっしゃってますが、「この映画に関する情報を全てシャットアウトしてから観たほうが面白い」ことは確かではあります。実は予告編観てさえ「ああこういう映画か」となんとなく勘付いちゃうので観ることをお勧めしません。
5人の若者が山奥の小屋に遊びに出かけたら、そこで出遭ったのはあれやこれやのどうにもお馴染みすぎる定番ホラー展開だった!?というジャングル・クルーズ状態のホラー映画、『キャビン』でございます。この映画、ホラー映画を多少知っている方ならこの作品だ、あの作品だ、と次から次に列挙できるほど、ホラー映画じゃお馴染みのシチュエーション、モンスターをあらん限り"意識的に"ぶち込んで成り立っております。「ホラー映画の常套展開」を逆手にとって成功している、といった点では『タッカーとデイル 史上最悪にツイてないヤツら』とコインの裏表みたいな関係なんですね。しかし『タッカーとデイル』が「ホラー映画の常套展開」を羅列することで秀逸なホラー・コメディとして完成しているのに対し、この『キャビン』では『なぜ「ホラー映画の常套展開」がここに"意識的に"持ち込まれるのか?』ということが、この映画の"大ネタ"となっているわけなのでございます。
ただ個人的な感想としては「アイディアは非常に独自で斬新なものだということは認めるけれども、この映画の真の"大ネタ"が冒頭からすぐ勘付くように配置されていて、その"大ネタ"に気づいたらお話に興味がなくなってしまった」というのが正直なところです。
【ここから核心に触れるので注意】
この映画の構造はざっくり申しまして【メタ構造】を成しているんですね。この映画で言うならば「ホラー映画の常套展開」が繰り広げられる下位世界が存在するのに対し、その「ホラー映画の常套展開」を運用しさらに監視している謎の組織、という上位世界が存在している。この「謎の組織」に関しては映画冒頭から細かなシークエンスがちりばめられ、観ている者に「この映画はよくあるホラー映画に見せかけた本当は別の展開が用意された映画なんですよ」と丁寧に教えている。ただもちろんその組織が何を目的にしているのかはすぐには分からない。そしてその目的が徐々に明らかになってゆき、そしてそれがどういう結末を迎えるのか、がこの映画のキモとなるわけです。
ただ自分、この【メタ構造】な物語ってなんだか好きじゃないんですよ。上位世界が存在していることが分かってしまうと、下位世界で起こっていることが陳腐に感じてしまう。下位世界において上位世界とは"神の見えざる手"でありデウス・エクス・マキナでありますから、下位世界で起こることに謎も緊張も個人の意思も感じなくなってしまう。要するになにがあったってそれは上位世界のやることですから、当たり前ということになってしまう。さらに上位・下位世界の【メタ構造】を成した物語にオチを付けるためには上位世界の徹底した蹂躙または下位世界の窮鼠猫を噛む反撃のどちらかしかなくなってしまう。つまり【メタ構造】と分かった途端ラストが読めてしまうんです。
というわけで驚きの連続にしたかったであろうこの物語、実は結構最初の段階で構造が読めてしまう上にさらに結末も予想がついてしまう。ホラーに【メタ構造】というアイディアを持ちこんだのは斬新でしたが、それによりホラーならではの恐怖感・不安感は後退してしまっている、何が起こるのか、というのがわかってしまうホラーになってしまっている。そういった部分においては期待していたほどに楽しめなかった。ただし、後半からの【爆裂ホラーフェスティバル&カーニバル】は相当楽しんでみることが出来ました。映画ポスターのルービック・キューブ状になった山小屋の意味も、映画を観終わってみると意味が分かりますね。

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