『エルム街の悪夢 Blu-ray Box-Set』を観た (その2)


前回に引き続き『エルム街の悪夢 Blu-ray Box-Set』のあまりにざっくりした感想をお送りします。例によって粗筋は全てWikipediaからパクってきました。

エルム街の悪夢5 ザ・ドリームチャイルド (監督:スティーヴン・ホプキンス 1989年アメリカ映画)

前作でアリスに倒されたフレディは、彼女が身籠った赤ん坊の夢の中に侵入して、体を乗っ取って生まれ変わることを企んでいた。やがてアリスはフレディの野望に気付き、戦いを挑む。

まだまだ続くエルム街の悪夢!というわけでこのシリーズも5作目となります。監督は『プレデター2』『リーピング』のスティーヴン・ホプキンス。しかしこの作品、『エルム街』シリーズで一番収益が低かったんだそうですね。主要登場人物がそんなに多くないので、持たせるためかなかなか殺されず、フレディの夢に引き込まれても逃れてしまうこと、殺されるシーンも残虐さと言うかエグさが足りなかった、さらに殺される数が圧倒的に足りない、ということが原因かもしれませんね。それにフレディの正体も生い立ちももうすっかり描かれ、登場人物も前作からの続きで、新鮮味が無かったからと言うこともあげられるでしょう。特典映像で監督が言うに、人を切り刻むシーンよりももっと違う面白さを盛り込みたかったので、非現実的な要素を加味したけれどもそれが受けなかった、ということみたいなんですよね。確かにエッシャーそのまんまの不思議空間とか面白いことは面白いけど、ホラーじゃないもんなあこれ。しかしフレディがお腹の中の子供に入り込むことで生まれ変わりを企む、というコンセプトは悪くなかったと思うんですけどね。だから最後は妊婦対フレディということになりますが、子供のために戦う女は強い!という部分でなんだか『エイリアン2』を思い出しましたね。


エルム街の悪夢 ザ・ファイナルナイトメア (監督:レイチェル・タラレイ 1991年アメリカ映画)

フレディが消えて暫く経ったある日、エルム街の近くの町の更生施設でマギーはホームレスの若者のカウンセラーをしていた。マギーはかつてエルム街でフレディを目撃したという少年ジョンと出会い、話を聞くと、それが自分が見た悪夢と酷似していると気づく。そしてマギーは、フレディが作った悪夢の街・スプリングウッドへと旅立ち、戦いを挑もうとする。

映画の原題は『Freddy's Dead: The Final Nightmare』、「フレディが死んじゃう最後の悪夢だよ!」というわけでいよいよフレディの最後です。もうこれだけ引っ張ってきたんだからここらでおさらばしてもいいでしょう!そもそもフレディも出るたびに結局やられて地獄に落とされちゃうんだから、ある意味難儀なキャラとも言えるでしょうね。監督はレイチェル・タラレイ、日本での知名度はあまりないと思われますが、さまざまなTVシリーズ監督や製作を手掛け、『エルム街』にもこれまで製作などの形で参加していた方のようですね。物語はこれまでの登場人物が再登場ということが無く、新キャラを配したあくまで独立した形での続編となっているんですね。
そしてこの物語、意外と設定が面白いんですよ。「オハイオ州スプリングウッド、動機不明の連続殺人と自殺で未成年者全滅、残された大人たち集団で精神錯乱、ティーンエイジャー一人生存か」といったものなんですよ。一つの町で10代の若者が全滅、ってこりゃあホラーというよりもSFですよね!というかそんな事態になったら全米大騒ぎだろ!そしてその町から逃れてきた少年が辿り着いた先の厚生施設の少年少女、さらにカウンセラーと共に再び町を訪れる、というものなんですが、町中の大人たちは子供がみんな死んじゃって頭がおかしくなってるんですね!町ひとつの住人が頭がおかしい、ってこれはハーシェル・ゴードン・ルイスの『2000人の狂人』じゃないっすか。実はオリジナルは観たことはないんですが、これのリメイク作『2001人の狂宴』は観た事があって、そしてそのリメイク版にフレディことロバート・イングランドも出演してるんですね。さて映画のほうは、町を訪れた登場人物が町から出られなくなる、というシュールな展開がいいですね。そして町に閉じ込められたまま一人また一人と屠られていくんですね!なにより主演女優さんが美人なのが嬉しい!やっぱりホラー映画の主人公は美人女性ですよ!
ところでネタバレになりますけどこの作品、フレディの生前、子供がいた!という新設定で、ロバート・イングランドがメイク無しの顔でパパやってるのが楽しかったですね。でも前の作品で畸形児みたいな姿で生まれたはずなのに、ある意味普通のロバート・イングランドの顔なんですよね。そもそもあんな呪われた出生を持つヤツが表面的とはいえ普通の家庭を持っていたことがちょっと解せませんが。というわけでまあ、最後は殺されちゃうフレディなんですが、この程度の殺られ方ならこれまでもあったはずだから、もっと凄惨で劇的な死に様して欲しかったような気もしますね。


エルム街の悪夢 ザ・リアルナイトメア(監督:ウェス・クレイヴン 1994年アメリカ映画)

映画『エルム街の悪夢』のリメイクが決定したことにより、ウェス・クレイヴンは脚本を執筆し、オリジナルのスタッフとキャストを再結集させた。するとクレイヴンが書いた脚本の通りのできごとが起こり始め、主演女優ヘザーの周りにはフレディが次第にその姿を現し始める。現実と夢の境界が侵食されるかのように曖昧になっていき…。

エルム街の悪夢』10周年を記念して番外編として製作されたこの映画は、御大ウェス・クレイヴンが再び舞い戻り監督した本当の意味での完結篇ということが出来るのではないかと思います。最初に書くとこの映画、1作目と並ぶ傑作ホラーとして完成しています。実は今回観るのが初めてだったのですが、この作品を観られただけでもBoxSet買ってよかったなあと思えました。
さてこの『エルム街の悪夢 ザ・リアルナイトメア』、メタ構造の物語として構成されているんですね。『エルム街の悪夢』の監督ウェス・クレイヴン、フレディ役のロバート・イングランド、1作目のヒロインだったヘザー・ランゲンカンプ、その父親役だったジョン・サクソンが本人役で登場し、『エルム街の悪夢』の新作を撮る、というわけなんですよ。そしてその現実の世界に、フレディの魔の手が忍び寄る、というお話になっているんですね。しかしただ単にメタ構造にして目新しさを出してみました、というのではなく、『エルム街の悪夢』と言う物語が「夢なのか現実なのか?」というシチュエーションで成り立っていたところを、この『リアルナイトメア』では「虚構なのか現実なのか?」とシチュエーションでもって成り立たせようとしているところが面白いんですね。この辺、監督ウェス・クレイヴンには非常に高いインテリジェンスを感じました。
そして劇中クレイヴンは、「ホラーの役割」といったことを語るんです。それは、「ホラー=恐怖というものは、映画などのフィクションで物語られることによって抑止される、しかし、これが物語られなくなったとき、本当の恐怖が世界を覆ってしまう、だから自分はホラーを物語るのだ」といったことなんですね。これはホラーというものの役割を語っているのと同時に、昨今のホラー規制のことを牽制しているんですね。つまり、ホラー作品は人の恐怖や不安と言うもののガス抜きなんだから、逆にそれを封じ込めてしまうと、人は本当の恐怖や不安を世界に振り撒いてしまう、ということなんですね。
そして映画では、「物語られなくなったことで現実世界に姿を現した恐怖」が即ち【フレディ】という形に具現化されて人々を襲う、という構造になっているんですね。つまりこの映画は、ホラーの役割と同時に、【物語ることの意味】にまで迫った考察の成された作品であり、それがラストシーンで見事に結実しているのが実に素晴らしいんですよ。この映画の背景には、当時アメリカを不安に陥れていたノースリッジ地震(ロサンゼルス地震とも呼ばれる。1994年1月17日発生。マグニチュード6.7。死者57名、負傷者約5,400人)の爪痕が濃厚に残されており、劇中でも何度も地震が起きたり、実際の地震被害の瓦礫が映し出されているんですよ。つまりこの映画において地震の恐怖、不安がフレディであった、ともいえるんですね。
映画のほうはなによりオチャラケキャラじゃなくて残虐で怖い怖いフレディが登場するのがいいですね。特殊メイクの顔も"焼け爛れた顔"というよりも悪魔じみたものに変えられ、そしてコート着て登場するのもまたお洒落っぽい。主演のヘザー・ランゲンカンプはすっかり大人の色気がついた美人女優さんになっていましたし、ベビーシッター役の女優さんも可愛かったなあ。やっぱりホラーは美人が出てナンボだよなあ(しつこい)。ヘザーの子供役の男の子は時々『シャイニング』みたいに何かに(といってもフレディなんですいが)取り付かれて怖い演技を披露していました。ロバート・イングランドウェス・クレイヴンはもったいぶった演技していて可笑しかったけど。それと1作目『エルム街』がTV映像として度々登場したり、1作目を髣髴させるシーンが再登場したりといったくすぐりも堪りませんでした。


■(おまけ)エルム街の悪夢(リメイク版) (監督:サミュエル・ベイヤー 2010年アメリカ映画)

エルム街の幼稚園で園児たちが性的な悪戯を受ける事件が起きる。容疑者として挙げられたフレッド・クルーガーは無実を主張するも、何の証拠もないまま親たちよって生きたまま火あぶりにされてしまう。時は経ちナンシー、クエンティン、ジェシー、クリス、ディーンの5人は同じ悪夢にうなされていた。そしてメンバーの1人が夢と同じ死を遂げたことで恐ろしい悲劇が始まる。

最後におまけとして、Blu-ray Box-Setとは関係の無い『エルム街の悪夢』リメイク版の感想を書いておきましょう。あまりに評判が悪くて全然観る気がなかったんですが、今回のエントリをあげるためにわざわざ借りて観ましたよ!しかし実際観てみると評判ほど悪くない、という気がしましたね。なによりも登場する若手俳優たちがフレッシュでいいんですね。特に女優さんがよかったですよ。主人公の友人役の女子はリブ・タイラーケイト・ベッキンセールを足して大衆的にしたようなルックスでしたし、主人公女子はちょっと地味でメンヘラっぽいけど憂いの含んだ表情とスレンダーなルックスがよかったですね。やっぱりホラーは美人が出て(以下略)。男優の皆さんも目つきがナイーブそうだったりナードな雰囲気だったりといい感じでしたね(こちらはあっさり)。
ただフレディに関しては俳優が別だと言うことを抜きにしても顔つきがなんだかイタチっぽくて怖くない、というか可笑しいんですよ。なんかこう、人肉食らってそうな悪逆さが足りないんですよね。そして物語の設定も変えられていて、変えること自体はいいんだけど、それが『エルム街』という物語の必然性を無くしているのが駄目な理由ですね。それはどこかというと、人間だった頃のフレディが殺人鬼ではなく小児性愛の変態に置き換えられていることなんですよね。変態であることでまた別の怖さが醸し出されており、それはそれでいいのですが、そうするとカギ爪付けて人を殺す殺人鬼としてのフレディ、という意味と理由が無くなってしまうんですよね。で、フレディのターゲットが自分を殺した親たちではなくてその子供である、という根拠も薄弱となってくるんですよ。つまりシナリオがなってないんですね。フレディの殺し方も至極あっさりしたもので、人気ホラーのリメイクなんですからもっとしつこく残虐にしてもいい筈だったと思いますね。
撮影や配役(フレディは除く)、そして『ラスト・サマー』みたいな若手俳優を配した青春ホラーとしての雰囲気はとってもよかったのに、やっぱり評判通りちょっと残念な部分が多かった、と言わざるをえないですね。


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