ローズ・イン・タイドランド (テリー・ギリアム監督 2005年 カナダ・イギリス映画)

ママはメタドンのやりすぎでくたばっちまったわ。パパはヘロイン打ったまま”長い休暇”から帰ってこないの。だから私は草原の真ん中に立つおばあちゃんの実家で親友のバービーの生首たちといっしょに過ごしてるの。お隣さんは片目が潰れた幽霊みたいな女で、たまに来るお客さんと物置で”スコスコ”をしてるわ。彼女の息子は私のボーイフレンド!脳のシュジュチュをしたから動きもお喋りも変わってるんだけれど、キスがとっても上手いの。そうそう、彼ったら世界を終わらせる爆弾を持ってるのよ!


テリー・ギリアム監督の最新作、「ローズ・イン・タイドランド」。イギリス製作映画、この間「ブラザーズ・グリム」を撮り、舞台が黄金の草原に建つ一軒家、主演が少女で、「不思議の国のアリス」が好きで…という所から、当然「アリス」をモチーフにしたファンタジックでメルヒェンなギリアムお得意の夢想譚が繰り広げられるのか!と大変期待して観に行きましたが…。ええと…。そんな生半可な物語ではありませんでした。「アリス」と被ってるとしたら”きちがい帽子屋のお茶会”の狂ったドタバタがもっと生々しく1000%ぐらいパワーアップして映画全体に繰り広げられている、といった所でしょうか。


物語は常に主人公の少女ジェライザ=ローズの視点から描かれ、「サイレントヒル」で好演していたジョデル・フェルランドがまたもや素晴らしい演技を見せます。彼女を取り巻く現実はあまりにも過酷なのですが、彼女はその想像力と溢れるような生命力で、そのような現実など存在しないかのように生き抜きます。物語り全てが一人の少女の”一人遊び”を描いているのだといってもいいでしょう。そういったテーマは物凄く好きなんだけどね。でもね…。描かれる”過酷な現実”なるものがあまりにもエグいのですよ…。出てくる人間に一人もまともな人間がいない、といった意味でおそろしく狂気じみた世界なんです。ええ、先日観た「サイレントヒル」なんて、ホラーとはいえ美術畑の優等生が作ったような映画にしか見えないぐらい、グチャグチャの悲惨さと異常さが延々と描かれてゆくんです。


でね。映画観ながら気づいた。これは「不思議の国のアリス」なんかじゃない。
これ、ルネ・クレマンの「禁じられた遊び」のモチーフをトビー・フーパーの「悪魔のいけにえ」の世界観で描いた凶悪映画じゃねーか!!
剥製!知能の止まった大人!ど田舎の狂気!ギャオー!
あのね。オレは思うに、ギリアムは「現実を強く生きる」なんてテーマなんかどうでもよかったと思うんですよ。
原作はあるとはいえ、物語で描かれる異常さは半端じゃない。
多分ね、ギリアムはかつて自らも参加した「モンティ・パイソン」的な狂気が全開になったどす黒い映画を作りたかったんじゃないですかね。
もうね、殆ど嫌がらせといっていいぐらい、遣りたい放題のどす黒さですよ。絶対鬱憤溜まってますよー、いろいろあったからなー、この人。
だからね。これ、メルヒェンとファンタジーを期待しちゃダメです!
ギリアムがどれだけ気違いじみたことをやってくれるか期待している人が観る映画なんだと思います。


とまあ、おそろしくダークな映画ではあります。ただ、これはオレがこういった状況的心理的ヘヴィネスを描いたものを好まない人間だから、という部分で辛い評価になったのかもしれない。同じように孤独な幼少時の体験を持つ方、同様なヘヴィネスを抱えた事のある方なら共感できる部分もあるかも。


(↓人形の生首を指した中指をおっ立てているもう一つの「ローズ・イン・タイドランド」ポスター。こっちのほうが映画のイメージに近いです。)