「特別過ぎない者たち」の「身内の物語」/映画『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』

ワイルド・スピード/ジェットブレイク (監督:ジャスティン・リン 2021年アメリカ映画)

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ワイルド・スピード/ジェットブレイク』である。大人気カーアクション映画「ワイルド・スピード」シリーズもこれで9作目となるのらしい。最初は単なるストリートレーサー同士のいざこざや犯罪を描いていたこのシリーズも、回を重ねるごとにどんどんド派手になってゆき、最近じゃあ元特殊部隊だの国際犯罪組織だのと大立ち回り、前回では潜水艦と戦ったかと思うと今回はなんと宇宙にまで飛び出してしまうのらしい。さすが「ジェットブレイク」と言うだけある! 

 ドミニクはパートナーのレティや幼い息子ブライアンと3人で平穏な日々を過ごしていたが、否応なく自身の過去の罪と向き合うことに。ドミニクの実の弟ジェイコブの存在が初めて明かされ、その因果はファミリーを窮地に追い込んでいく。ファミリーは世界を揺るがす陰謀を阻止するため、凄腕の殺し屋で超一流の運転技術を持つジェイコブとの戦いに身を投じる。

ワイルド・スピード ジェットブレイク : 作品情報 - 映画.com

今作の目玉となるのはまず「主人公ドミニクの弟が初登場!だがなんと敵役だった!?」というのと、「死んだはずのワイスピ・メンバー、ハンが再登場!?」という部分だろう。「弟もハンも今までなにやってたんだ!?」とは思うがシリーズを進める上では何かと新機軸が必要なのである。まあとりあえず「血縁」や「仲間」の連帯あるいは反目の濃さで物語を構成してゆくこのシリーズらしい展開ではある。とはいえ、この新展開が今回の物語を面白くさせているのも確かだ。

物語は主人公ドミニクの少年時代から始まり、オートレーサーだった父の死を巡る弟ジェイコブとの愛憎半ばする対立の様が描かれる。この人間ドラマが結構見せるのである。同時にこれまで多くを語られなかったドミニクの過去に光が当てられるといった点で、これまでイケイケドンドンだった「ワイスピ」シリーズの中でも異彩を放っているのだ。一方、ハンの再登場については、いささか牽強付会とは思えたものの、東京を舞台とした過去・現在の事件へと繋がってゆき、それは今作で描かれる巨大な陰謀の核心へと導かれてゆく。このあたりのストーリーテリングはなかなか丁寧だ。

とはいえ、何と言ってもこのシリーズの見どころはとことん限界突破したカーアクションシーンにあるだろう。今作でも物理法則を全く無視しているとしか思えない荒唐無稽に過ぎるアクションが連打され、「お前ニュートンさんに100万回土下座しろ」と言いたくなるような無茶であり得ないシーンがこれでもかと描かれるわけである。とはいえ、その度を起こしたバカバカしさこそがこのシリーズの魅力であり面白さでもあるのだ。

特に今作において大活躍する「超強力磁石」は、その利用法や挙動において「ありえねー!」としか思えない力を発揮するし、例の「車にジェットエンジン付けて大気圏脱出!」についても、「ありえないとか無茶とかいう以前にそれは普通に嘘だと思うの……」とは感じたが、なんにせよそれらの小道具・大道具の登場により物語がどこまでもギンギラギンに盛り上がってくれるので、「こまけーことはいーんだよッ!」とばかりにこちらも大いに乗せられてしまうのである。他にも「巨大装甲車アルマジロ」だの「強力磁石付き戦闘機」だの、「とりあえずなんだか凄いだろ!」というのが登場するが、「そうですね、なんだか凄い!」とこちらも強引に頷かされてしまうのだ。

それにしても、一介の走り屋でしかなかったような連中が最終的に世界を救ってしまう、というこのシリーズはなんなのだろうと思うのだ。この物語の基盤となるのは「ファミリーの結束」だが、要するに「ファミリーは世界を救う!」というのがこのシリーズなのだ。例えばこれまで世界を救う者とは、スーパーパワーを有する超人だったりとか、強大な国家権力の後ろ盾があるスペシャル・エージェントだったりした。つまりそれは「特別な者たち」であった。しかし「ワイスピ」に登場するのは「ちょっと車の運転にはうるさいが基本はその辺のおっちゃんお姉さん」であり、そんな「特別過ぎない者たち」の「身内の物語」なのだ。そんな身近さを感じる連中が世界を救うほどの大活躍を演じる。ここに大いなる共感を生んでいるのではないか、とそんな気がするのだ。

ところで、本作のヴィン・ディーゼル、なーんだか精気を感じなかったんだが気のせいなのかな?だいたいのシーンでむっつりしているだけで、殆ど木偶の坊状態だったんじゃないか。ドウェイン・ジョンソンとの確執が顔に出ちゃってるんだろうか?

『AKIRA』の世界観を支えたクリエイターの初作品集『高畑聡 アニメーション精密背景原画集』

アニメーション精密背景原画集/高畑聡 

高畠聡アニメーション精密背景原図集

本書はアニメーション制作現場における「背景原図」という素材に着目した書籍である。 背景原図とは、背景美術を制作するために必要な前段階の作業にて生まれる素材であり、背景原図の出来の善し悪しがそのまま背景美術の出来に影響を及ぼしてしまう、決して目立つことは無いが、作品世界を支える大切な素材だ。そんな背景原図を手がけるクリエイターのひとりが高畠聡である。 漫画『AKIRA』アシスタント時代に培った正確で緻密な線とデジタル技術を駆使して描かれた美しく複雑な背景原図の世界を楽しんで頂きたい。

Twitterのフォロワーさんが呟いていて知った作品集。著者である高畑聡氏はなんでも大友克洋AKIRA』の背景画を担当していた方なのらしい。 その高橋氏が『AKIRA』以降に携わった様々なアニメーション背景を集大成したのがこの『アニメーション細密背景画集』となる。

もう本を開いて「うおっ」とうめいてしまった。「細密背景原画集」と言うだけあって、どこまでもひたすら緻密に描きこまれたビル群、その内装、そして街並みが描かれているからだ。その細かさは見ているだけで眩暈がしそうなほどだ。これほどまでにおびただしい正確な線を、息が詰まりそうになる程に、びっしりと描き込むことの労力と技術力と忍耐力、それを想像しただけで気が遠くなってしまう。

その「細密背景」の完成度は、なにしろ『AKIRA』に登場する様々なビル群、さらにその倒壊した有様など思い浮かべてくれるといい。巻末のコラムを読むと、『AKIRA』の背景画の多くを、当時アシスタントだった高畑氏が手掛けていたのだという。このコラムで指摘されている高畑氏担当のシーンを見ると、「え、このシーンも!?あのシーンも!?」と驚かされること必至だろう。

さて『AKIRA』に関する言及はこのコラムだけであり、画集に収められているのは『AKIRA』以降の高畑聡氏の仕事という事になる。全14作、その全てがアニメーション背景であり、アニメに疎いオレには知らない作品のほうが多かったが、それでも十分にその凄まじい仕事ぶりは堪能できた。

これら背景画は手書きのもの、CGを使ったもの、そしてその二つを融合させたものと様々だが、手書きの作品ですらCGではないかと思わせるほどに細密極まりない完成度でなおさら驚かされる(下に掲載した2枚目の図版、『FREEDOM』における背景画は手書きなのだという!)。確かに見比べるとCGでの背景画は緻密な線ながらスッキリとしており、手書きのものは重々しい存在感を感じさせる。また、CGで作成した後手書きで”汚し”を入れる作業をすることもあるのだという。

この画集で紹介されているアニメに興味がなくとも、『AKIRA』に登場した迷宮の如き緻密なビル群の描写に目を奪われた方なら、是非手に取って欲しい画集である。 

収録内容

Chapter01『メトロポリス

Chapter02『スチームボーイ

Chapter03『FREEDOM』

Chapter04『鴉-KARAS-

Chapter05『true tears

Chapter06『鬼神伝』

Chapter07『青の祓魔師

Chapter08『劇場版 BLOOD-C The Last Dark

Chapter09『攻殻機動隊 新劇場版

Chapter10『十二大戦

Chapter11『チェインクロニクル ~ヘクセイタスの閃~』

Chapter12『HELLOW WORLD』

Chapter13『ドロヘドロ

Chapter14『Nyanster』(企業CM)

・SPECIAL COLUMN 「人生を変えた大友克洋との出会い」 txet by 鈴木淳

・高畠聡インタビュー

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ミュージック・ビデオ全盛期の80年代に生まれたポップなSFラブコメディ映画『エレクトリック・ドリーム』

エレクトリック・ドリーム (監督 スティーブ・バロン 1984年イギリス・アメリカ映画)

エレクトリック・ドリーム デジタル・リマスター版 [DVD]

MTVが世界を席巻した80年代、ポップ・ミュージックを大きくフィーチャーした映画作品が多数公開された。『フラッシュダンス』『フットルース』『ステイン・アライブ』などなど、それぞれ映画もサントラもヒットしたみたいだけど、今振り返ってみると「ま、80年代だったよねえ」程度の感慨しか湧かなかったりする。個人的にあんまり80年代にノスタルジーを感じないんだよな。

そんな中、「あれは素敵な映画だったな」とちょっと記憶に残っていた作品がある。1984年公開のイギリス・アメリカ製作映画『エレクトリック・ドリーム』だ。アパートの別々の部屋に住む男女が、意識を持ったPCを切っ掛けに仲が深まってゆく、というちょっとSFチックなお話だ。監督はa-haやマイケル・ジャクソンなどのミュージックビデオ監督として知られるスティーブ・バロンでこれが初監督作。この後『ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズ』や『コーンヘッズ』なんかを監督している(『コーンヘッズ』好きだったなあ)。

この映画を知った切っ掛けは、まずサントラアルバムからだった。この作品、ヴァージン・レコードが映画製作のために設立したヴァージン・ピクチャーズの第1回作品で、ヴァージンからサントラが出ていたのだ。そしてこのサントラのメンツが凄かった。まずあのジョルジョ・モルダーが音楽担当という所で既にとんでもない。楽曲を提供しているのはヒューマン・リーグのフィル・オーキー、カルチャー・クラブ、ヘヴン17、ELOのジェフ・リン、ドン・ウォズがプロデュースしたP・P・アーノルド。ジョルジョ・モルダー参加という事もあって完成度が高く、当時は相当にお気に入りのアルバムで、日本での映画公開を楽しみにして聴いていた。

オレはこの作品を、後楽園のあたりにあった名画座で観た記憶がある。若い人たちでいっぱいで、当時もそれなりに認知のあった作品なのかもしれない。売店で「オットット」という名前のお菓子を買ったことまで覚えてるよ。そして映画の内容も大満足だった。

この物語、まず主演の二人がいい。嫌味のない、どこか控えめで奥ゆかしいところがよかったのだ。まず主人公マイルズにレニー・フォン・ドーレン。清潔感のあるオタク男子を清々しく演じていた。この作品以外で日本公開作は無いようだが、TVドラマ『ツイン・ピークス』にハロルド・スミス役として出演していたらしい。ヒロインのマデリーンにヴァージニア・マドセン。彼女も溌溂とした清潔感があってよかったな。チェリストという役どころも惹かれるじゃないか。彼女はこの後も多数の作品で活躍している。 

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物語はオクテの建築家マイルズがアパートに越してきた音楽畑の女性マデリーンに恋してしまう、というのがそもそもの始まり。で、マイルズの部屋には買ってきたばかりのPCがあったんだが、彼がお酒をこぼした事が原因で意識をもってしまう。この意識を持ったPCが二人に何かとちょっかいを出しているうちに二人は恋仲になるんだが、実はPC自体もマデリーンに恋してしまっており、マイルズと衝突を始めちゃう、といった流れになる。

キーボードにお酒をこぼしたら回路がショートしてPCに意識が生まれた、という設定は、今なら小学生でもそんなバカな、と笑ってしまうだろうが、要は「AIを切っ掛けにして男女に恋が芽生える」というある種の「フシギ感」を持たせたファンタジー作品だと思えばいいのだ。このPC君、スペックはそれなりなんだろうが、企業の大型コンピューターに侵入し様々な知識を得るなんて場面は、なかなかにSFしてたんじゃないかな。

なによりよかったのは、サントラが物語内容にきちんと結合しており、上手に生かされてた、という点だろう。二人の知り合う切っ掛けが音楽だったし、その二人の心の移り変わり、高揚や悲しみに音楽がきちんとフィットした形で使用されており、そういった部分で、音楽映画としての完成度が高かったのだ。ヒロインの奏でるチェロにPC君が参加してきて、チェロ+電子音楽のセッションが始まる、というシーンなんかわくわくさせられた。この辺り、ミュージック・ビデオ出身の監督の面目躍如ってところじゃないかな。なにしろ映画全体がミュージック・ビデオみたいなキラキラ感に溢れてるんだ。

また、PC君の様々なアニメーションを見せるディスクトップ画面は、この時代にしては上手に演出されていた。PC君が部屋で一人コンサートを開いちゃうシーンとかもあって楽しいよ。ただし物語的に、主演二人とPC君を無理矢理三角関係にしなくてもよかったんじゃないかな、とは思ったな。こうでもしないとドラマが生まれないんだろうけど、別のアプローチがあってもよかったんじゃないかな。とはいえ、完成度の高いサウンドトラックと、さわやかな主演二人の好感度で、今観てもなかなかに楽しめた作品だったよ。

Electric Dreams - Soundtrack

Electric Dreams - Soundtrack

  • アーティスト:OST
  • 発売日: 1993/07/01
  • メディア: CD
 

プリンス未発表アルバム『ウェルカム2アメリカ』がリリースされた

ウェルカム2アメリカ/プリンス

ウェルカム・2・アメリカ (完全生産限定盤/デラックス・エディション) (CD+Blu-Ray) (ライヴ映像付2枚組) (特典なし)

プリンス未発表アルバム『ウェルカム2アメリカ』

2016年に急逝したプリンスの、なんと未発表アルバムが発売である。プリンスの死後、未発表曲のコンパイル・アルバムや、既発アルバムのデラックス版などは発売されていたが、まるまる1枚未発表のアルバムとなるとこれは話が別である。タイトルは『ウェルカム2アメリカ』、2010年にレコーディングされたままお蔵入りになっていたものだという。

2010年というとアルバム『ロータス・フラワー/MPLサウンド』(09)、『20TEN』(10)がリリースされた後であり、『アート・オフィシャル・エイジ』(14)、『プレクトラムエレクトラム』(04)がリリースされる以前という事になる。また、その後に『ヒット・アンド・ラン フェーズ・ワン』(15)『同 フェーズ・ツー』(15)という生前最後のアルバムがリリースされたことを考えると、これはプリンス後期のアルバムとして位置づけられるものだろう。そしてこれはプリンスの45枚目のオリジナル・アルバムでもある。

ロータス・フラワー/MPLサウンド』と『20TEN』における特殊なリリース形態(通販と雑誌付録)は音楽ビジネスに対するプリンスの批判と態度を示したものだが、それが気分的に一段落着いたのだろう、『ウェルカム2アメリカ』には上記2アルバムとは違う落ち着きと真摯なメッセージ性を感じる。ミディアム・テンポで和やかな曲が多く、殿下得意の轟音ファンクや絶叫ロックの片鱗は余り感じない。また、コーラスとの合唱が多く、殿下がピンで歌う曲にも強烈な自己表示は感じない。殿下が引いてる、というよりもセッションを楽しんでいる、といった感じだ。

アレンジも素朴であっさりしたもので、案外一発撮りだったり作りこんだりせずに素材のまま使っているのかもしれない。そういった部分で、この前後のアルバムと比べるならおとなしめであるし、強烈なアピールのないアルバムということもでき、お蔵入りはその辺りが理由のような気もする。つまり、地味なのだ。とはいえそこはプリンス、楽曲の完成度は当然高く、強烈なポイントのない分、実は何度繰り返して聞いても旨味がある、和める作品となってる。

そういった部分で、必聴の1作!とまでは言わないけれども、プリンス・ファンなら当然聴くであろう作品だし、同時に愛着を感じるアルバムだと思う。しかしそれにしても、アルバムジャケットにしても収録のブックレットにしても見たことのない写真ばかりで、「よくもまあこれだけ残っているものだな」と感心してしまった。

至高の『ウェルカム2アメリカ・ツアー』ライブ映像

さてこの『ウェルカム2アメリカ』、CD1枚の普通盤とは別にCD+Blu-ray同梱のデラックス・エディションがあるのだが、このBlu-rayがとてつもなく素晴らしいのだ。内容は2011年の『ウェルカム2アメリカ・ツアー』における、カリフォルニアでの公演を収録したもの。これがもう超絶的に激カッコイイのだ!

1曲目からただならぬ緊張感と優美さを湛えながら歌い演奏する殿下の姿、その殿下を支える鉄壁のコーラス隊と演奏陣、シンプルかつモダンなステージ構成、初っ端から延々と続くクライマックス、絶え間なく続くコールアンドレスポンス、これもうプリンスが観客を殺しに(昇天させに)かかってるとしか言いようがない。双子のダンサーの踊りがまたヤヴァイ。これらがパキパキのblu-ray映像で収録されているのだが、もうなんだかとんでもないものを見せられている気分だ。オレが今まで観たプリンスライブ映像の中でも最高の部類に入るぞこれは。

ステージはアリーナの中央に設えられた例の「シンボルマーク」の形をしており、客席はそれを取り巻く形となっている。演出的には難しそうだが、しかしこの変則的なステージ形状により、誤魔化しや目くらましのない、真に実力のあるパフォーマンスを発揮しているのだ。

演奏は途中からコーラス隊の皆さんによるソウルバラード展開になってやっと人心地付くのだが、コーラス隊の皆さんの歌がまたパワフル。そして中盤、レッツゴー・クレイジー、デリリアス、1999、リトル・レッド・コルベット、パープルレインと、殿下の名曲が乱れ打ちだ。こんな名曲を連打で聴かされると至福のあまり悶死しそうだ。オレは悶死した。ちなみにパープルレインの演奏時間は至福の15分!

そこからなだれこむ後半は観客をステージに上げての大ダンス大会!カヴァー曲を織り交ぜながら執拗に観客を挑発しまくる殿下の姿に会場はもう興奮の坩堝だ。最終曲はロック史に燦然と輝くロキシー・ミュージックの名盤『アヴァロン』から「モア・ザン・ディス」。「これ以上のものは無い」というその歌詞は殿下と観客が一体となったライブの至上のひとときを言い表してもいるのだろう。これはもう必見、アルバム『ウェルカム2アメリカ』はこのライヴ映像を観るためだけにも購入すべきだろう。

《収録内容》

[CD]

Welcome 2 America (5:23)

Running Game (Son Of A Slave Master) (4:05)

Born 2 Die (5:03)

1000 Light Years From Here (5:46)

Hot Summer (3:32)

Stand Up And B Strong (5:18)

Check The Record (3:28)

Same Page Different Book (4:41)

When She Comes (4:46)

1010 (Rin Tin Tin) (4:42)

Yes (2:56)

One Day We Will All B Free (4:41)

 

[Blu-ray]

Joy In Repetition

Brown Skin (India.Arie cover)

17 Days

Shhh

Controversy

Theme From “Which Way Is Up" (Stargard cover)

What Have You Done For Me Lately (Janet Jackson cover)

Partyman

Make You Feel My Love (Bob Dylan cover)

Misty Blue (Eddy Arnold cover)

Let's Go Crazy

Delirious

1999

Little Red Corvette

Purple Rain

The Bird (The Time cover / Prince composition)

Jungle Love (The Time cover / Prince composition)

A Love Bizarre (Sheila E cover / Prince composition)

Kiss

Play That Funky Music (Wild Cherry cover)

Inglewood Swingin' (version of Kool & the Gang's Hollywood Swingin')

Fantastic Voyage (Lakeside cover)

More Than This (Roxy Music cover) 

 

 

最近読んだコミック

機動旅団八福神(1)~(10)/福島聡

機動旅団八福神』は月刊漫画誌コミックビームにおいて2004年から2009年にかけて連載された戦争SFコミックである。近未来、日本は中国に侵略され属国となり、アメリカとの戦争に邁進する。主人公名取は環東軍に入隊して第一機動旅団に配属され、奇妙な人型兵器「福神」に乗り込み、アメリカのロボットと戦うことになる。いわば「中国主導の新アジア共栄圏に組み込まれた日本と、敵国アメリカとのロボット戦闘物語」なのだが、これはイデオロギー的な予見というよりは単に日本とアメリカを戦わす理由をひねり出した結果の設定であろう。

それより面白いのは、この作品がよくある「ロボットSF」の定石をことごとく覆していることである。まず人型兵器「福神」が、「真っ赤なガマガエル」みたいに不格好で、少しも格好良くないということである。さらにこの「福神」、原爆にも耐えうる特殊構造をしているにも関わらず、戦闘は今一つで、特に特殊武器を有しているわけでもない。そして、主人公である名取が、どん臭い上に不戦主義者で、さらにルックスもどん臭くて、これも全く格好良くないということである。そしてこの物語の特殊なのは、日本アメリカ双方が、「人の死なない戦争」を遂行しようとしていることであり、それが主人公の不戦主義とも呼応していることだ。とはいえ、ロボット同士の戦闘も巻き添えの死も、それ以外の死も夥しく巻き起こっており、この設定自体がひとつの「大きな矛盾」を抱えたまま物語が進行してしまっているのだ。

とはいえ、主人公以外の登場人物は結構な戦闘能力を有していたり、「福神」以外の、軍用機にしろアメリカ製ロボット「リカオン」にしろ、きちんとSF的に格好いいフォルムをしているのである。これは作者が、ロボットSFの定石を取っ払い、戦争SFのセオリーを取っ払った中で、何が描けるのかを模索した結果なのだろう。そして作者が描こうとしたのは、夥しい死の中にあっても「人を殺してはいけない」とはどういうことなのかということなのではないだろうか。その結論は結局曖昧なままであり、クライマックスにおいても不完全燃焼感を残したまま終わってしまうのだが、少なくともロボットSF、戦争SFに一石を投じた秀逸なSF作品であることは間違いないだろう。 

電話・睡眠・音楽/川勝徳重

うわあこれは相当ユニークだな。一言でいえば青林工藝舎的な「オルタナティヴ・コミック」ということになるのだろうが、独特なのはその技法だ。往年のガロ作品を思わす筆致だが、作者自身は1992年生まれと非常に若い。にもかかわらず古い漫画や古典の題材を好み、そのモチーフを活かしているのだが、同時にバンドデシネにも造詣が深く、その技法を使った作品もある。それぞれの作品で画風が固定されず、さらに多数の画風をひとつの作品でミクスチャーしている節もある。これは1992年生まれならではのサンプリング・カルチャーの一端という事なのか。最もモダンなのは表題作『電話・睡眠・音楽』となるが、やはりこの辺りの作風のほうが落ち着いて読める。クラブの雰囲気やそこに集う人々の様子がとてもよく描けていた。

妖怪ハンター 稗田の生徒たち 美加と境界の神 / 夢見村にて / 悪魚の海 /諸星大二郎 

この『妖怪ハンター 稗田の生徒たち 美加と境界の神 / 夢見村にて / 悪魚の海』は以前単行本で出版されていた『妖怪ハンター 稗田の生徒たち 1 夢見村にて』の文庫版となるのだが、未収録作品「美加と境界の神」が収録されている。作者あとがきによると「稗田の生徒たち」はシリーズ化したかったものの続けることができず、そのためシリーズ未収録作を含めた文庫版刊行という形になったのだという。諸星作品は判型を変えての再発売が多く、それに未収録作が加わったりと、古いファンとしてはなにがなにやらといった感があるが、今回はそれなりに事情があったのらしい。とまあなにしろ未収録作品が収録されているんだから『稗田の生徒たち 1』の単行本は持っているけどこれはこれで購入しなければならないというわけなのである。あ、未収録作はいつもの諸星伝奇作で面白かったですよ。

ゴールデンカムイ(26)/野田サトル

次第に集まる「刺青人皮」 、敵味方一堂に会する登場人物たち、そして暗号解読のカギを握るアシリパに迫る魔の手。札幌ビール工場における大規模衝突はビール臭い戦いへと発展し、誰もが半分酔っぱらいながら死を賭して睨み合う。敵味方の趨勢が相当ごちゃごちゃしてきてちょっと分からなくなってきているのが正直なところなんだが、それでもぐいぐいと終章へ邁進しているような気はしている。 

プリニウス(11)/ヤマザキマリとりみき

前巻まで皇帝ネロの権勢とその最期を描いた歴史コミック『プリニウス』だが、大きな山場が終了したからか、この巻では時代を遡り幼少期・青年期のプリニウスの姿が描かれることになる。若き日のプリニウスについては資料が残っておらず、ここで描かれる事柄は作者がその想像力を大きく膨らまして描いたものだという事だが、どうしてどうして、なかなかに説得力のある物語となっている。そしてなんと次巻は最終巻になるのだそうな。結構楽しめた物語ではあったが芯になる部分が掴み難いどこか茫洋とした部分があり、どの辺に落としどころを見つけるのだろうかと思っていたが、それが描かれる最終巻を待っていようと思う。