ミュージック・ビデオ全盛期の80年代に生まれたポップなSFラブコメディ映画『エレクトリック・ドリーム』

エレクトリック・ドリーム (監督 スティーブ・バロン 1984年イギリス・アメリカ映画)

エレクトリック・ドリーム デジタル・リマスター版 [DVD]

MTVが世界を席巻した80年代、ポップ・ミュージックを大きくフィーチャーした映画作品が多数公開された。『フラッシュダンス』『フットルース』『ステイン・アライブ』などなど、それぞれ映画もサントラもヒットしたみたいだけど、今振り返ってみると「ま、80年代だったよねえ」程度の感慨しか湧かなかったりする。個人的にあんまり80年代にノスタルジーを感じないんだよな。

そんな中、「あれは素敵な映画だったな」とちょっと記憶に残っていた作品がある。1984年公開のイギリス・アメリカ製作映画『エレクトリック・ドリーム』だ。アパートの別々の部屋に住む男女が、意識を持ったPCを切っ掛けに仲が深まってゆく、というちょっとSFチックなお話だ。監督はa-haやマイケル・ジャクソンなどのミュージックビデオ監督として知られるスティーブ・バロンでこれが初監督作。この後『ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズ』や『コーンヘッズ』なんかを監督している(『コーンヘッズ』好きだったなあ)。

この映画を知った切っ掛けは、まずサントラアルバムからだった。この作品、ヴァージン・レコードが映画製作のために設立したヴァージン・ピクチャーズの第1回作品で、ヴァージンからサントラが出ていたのだ。そしてこのサントラのメンツが凄かった。まずあのジョルジョ・モルダーが音楽担当という所で既にとんでもない。楽曲を提供しているのはヒューマン・リーグのフィル・オーキー、カルチャー・クラブ、ヘヴン17、ELOのジェフ・リン、ドン・ウォズがプロデュースしたP・P・アーノルド。ジョルジョ・モルダー参加という事もあって完成度が高く、当時は相当にお気に入りのアルバムで、日本での映画公開を楽しみにして聴いていた。

オレはこの作品を、後楽園のあたりにあった名画座で観た記憶がある。若い人たちでいっぱいで、当時もそれなりに認知のあった作品なのかもしれない。売店で「オットット」という名前のお菓子を買ったことまで覚えてるよ。そして映画の内容も大満足だった。

この物語、まず主演の二人がいい。嫌味のない、どこか控えめで奥ゆかしいところがよかったのだ。まず主人公マイルズにレニー・フォン・ドーレン。清潔感のあるオタク男子を清々しく演じていた。この作品以外で日本公開作は無いようだが、TVドラマ『ツイン・ピークス』にハロルド・スミス役として出演していたらしい。ヒロインのマデリーンにヴァージニア・マドセン。彼女も溌溂とした清潔感があってよかったな。チェリストという役どころも惹かれるじゃないか。彼女はこの後も多数の作品で活躍している。 

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物語はオクテの建築家マイルズがアパートに越してきた音楽畑の女性マデリーンに恋してしまう、というのがそもそもの始まり。で、マイルズの部屋には買ってきたばかりのPCがあったんだが、彼がお酒をこぼした事が原因で意識をもってしまう。この意識を持ったPCが二人に何かとちょっかいを出しているうちに二人は恋仲になるんだが、実はPC自体もマデリーンに恋してしまっており、マイルズと衝突を始めちゃう、といった流れになる。

キーボードにお酒をこぼしたら回路がショートしてPCに意識が生まれた、という設定は、今なら小学生でもそんなバカな、と笑ってしまうだろうが、要は「AIを切っ掛けにして男女に恋が芽生える」というある種の「フシギ感」を持たせたファンタジー作品だと思えばいいのだ。このPC君、スペックはそれなりなんだろうが、企業の大型コンピューターに侵入し様々な知識を得るなんて場面は、なかなかにSFしてたんじゃないかな。

なによりよかったのは、サントラが物語内容にきちんと結合しており、上手に生かされてた、という点だろう。二人の知り合う切っ掛けが音楽だったし、その二人の心の移り変わり、高揚や悲しみに音楽がきちんとフィットした形で使用されており、そういった部分で、音楽映画としての完成度が高かったのだ。ヒロインの奏でるチェロにPC君が参加してきて、チェロ+電子音楽のセッションが始まる、というシーンなんかわくわくさせられた。この辺り、ミュージック・ビデオ出身の監督の面目躍如ってところじゃないかな。なにしろ映画全体がミュージック・ビデオみたいなキラキラ感に溢れてるんだ。

また、PC君の様々なアニメーションを見せるディスクトップ画面は、この時代にしては上手に演出されていた。PC君が部屋で一人コンサートを開いちゃうシーンとかもあって楽しいよ。ただし物語的に、主演二人とPC君を無理矢理三角関係にしなくてもよかったんじゃないかな、とは思ったな。こうでもしないとドラマが生まれないんだろうけど、別のアプローチがあってもよかったんじゃないかな。とはいえ、完成度の高いサウンドトラックと、さわやかな主演二人の好感度で、今観てもなかなかに楽しめた作品だったよ。

Electric Dreams - Soundtrack

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  • アーティスト:OST
  • 発売日: 1993/07/01
  • メディア: CD