ディズニー実写ファンタジー『アラジン』は青いウィル・スミスが最高過ぎる映画だったッ!?

■アラジン (監督:ガイ・リッチー 2019年アメリカ映画)

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いつもは「マッチョがドンパチ」だったり「いろんな意味でゲロゲロ」だったり「基本的にバカアホマヌケ」だったりと不遜かつしょーもない映画ばかり観ているオレなんですが、なんとこのあいだ"夢と冒険のディズニー・ファンタジー“『アラジン』なんぞを観に行ってしまったのですよ。似つかわしくないよねー。

でもねー、予告編観た時に「あ、これ観たい」とちょっと思っちゃったんですね。その理由としてはまず「エキゾチズム溢れるアラビアな光景に心ときめかされた」というのと、「青いウィル・スミスが見たい!」というのがあったんですね!

物語の内容は特に説明するまでも無いでしょう。古のアジア都市アグラバーを舞台にビンボー人青年アラジンが魔法のランプから飛び出した魔人ジーニーと共に王女ジャスミンに恋のアタックを仕掛けたり邪悪な大臣ジャファーと対決したりするという冒険ファンタジーなんですね。『千夜一夜物語』の『アラジンと魔法のランプ』を基にディズニーが1992年に製作した長編アニメ作品『アラジン』の実写リメイク作品がこの作品という訳です。ちなみに研究によると『アラジンと魔法のランプ』の逸話は実はオリジナル『千夜一夜物語』には含まれていない物語なんだそうです。

さて結論から書きますと、なにしろ楽しかった!物語の舞台となる都市アグラバーの心奪われるようなエキゾチックな光景は言うに及ばず、地中から空中まで縦横無尽に展開するアラジンのアクションには興奮させられましたし、王女ジャスミンとのロマンス展開は微笑ましかったですし、大臣ジャファーの強大な魔法には大いに恐れ戦かされました。しかし、そんなことよりなにより、青いウィル・スミスが最高だった。

ウィル・スミス映画は『インデペンデンス・デイ』と『スーサイド・スクワッド』ぐらいしか印象に残ってないんですが(『メン・イン・ブラック』は無視)、この『アラジン』における青いウィル・スミス(といか魔人ジーニーなんだけど)の楽しさはいったいこれまでのウィル・スミスはなんだったのかと思わされるほどの素晴らしいキャラであり、もはや映画『アラジン』はウィル・スミスの最高傑作だという事にしていいんではないのか、とテキトーかつ無責任に思ってしまいました(そして多分一週間後は忘れている)。ていうかウィル・スミス、これからもうずっと青くていい。それぐらいインパクトの強い役で、もしも『アラジン』にこの青いウィル・スミスが出ていなければきっと別物の映画になっていたでしょう。

ところでですね、映画を観てふと思ったことがあるんですよ。それは、魔人ジーニー(青いウィル・スミス)とは、実はドラえもんだったんじゃないのか?ということなんですね。

まずなんと言っても、ジーニーもドラえもんも青い。そして、頼りないアラジン/のび太の願望を叶えるために、夢の様な魔法/ひみつ道具を登場させ、アラジン/のび太にとことん尽くしてゆく。ジーニーはふわふわ浮いていますが、ドラえもんも実は地面から3ミリ浮いているんです!ジーニーの願望は魔法のランプからの開放ですが、ドラえもんも役目を終えてのび太から解放され未来に帰ってゆく、という物語展開がある。そう考えるとジャスミンはしずかちゃんでジャイアンはジャファーということになりますね。魔法の絨毯はタケコプターですね。いやーしかしどこもかしこもぴったり符合しますね!……ってかこじつけだって!

そんな映画『アラジン』ですが、ディズニー十八番の歌のシーンが多くて、時々踊りのシーンも入るのですよ。舞台となるアグラバーは架空の都市ですが、タージ・マハルもあるインドの都市アーグラをモデルにしてるんじゃないかという話もあるんです。実際のビジュアルはインドと中東の合体したような折衷的な架空世界なんですが。なにしろ「歌と踊り」、そして「インド」と来たら、こりゃもうインド映画しかないじゃないですか!?そう、映画『アラジン』はオレの中で「これもうインド映画でいい」と認識された映画でもあるんですね!(メチャクチャ雑) (ていうかアメリカ映画です)

ところで余談ですがそのインド映画に「アラジン」をテーマにした作品が存在してるんですよ。タイトルは『アラジン 不思議なランプと魔人リングマスター』、なんと出演がアミターブ・バッチャンとサンジャイ・ダットとリテーシュ・デーシュムクとジャクリーン・フェルナンデスという豪華メンツ、さらに日本版がDVD販売されておりますのでインド映画好き、アラジン好きの方は探してみられるのもよろしいんじゃないでしょうか。

www.youtube.com

アラジン 不思議なランプと魔人リングマスター [DVD]

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映画『アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲』は清々しいほどに心洗われる駄作だった

アイアン・スカイ第三帝国の逆襲 (監督:ティモ・ブオレンソラ 2019年フィンランド・ドイツ・ベルギー映画)

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世紀の極悪軍団ナチスは生きていた!?それも月の裏側で!?第2次大戦を密かに生き延びた彼らは、秘密の月面基地を築き、地球征服の機会を虎視眈々と狙っていたのだッ!?……というストーリーの映画『アイアン・スカイ』、大変面白い映画でしたね。「月刊ムー」をバイブルと崇める中学生が片眉毛をそり落とし雪山に籠ってヒグマと戦いながら作り上げたような、根性と情熱に満ち溢れた素晴らしい怪作でありました。

そしてなんと、その続編が公開される!?と聞いた日にゃあ、こりゃもう観るしかないじゃああ~りませんか(チャーリー浜風)!?タイトルは『アイアン・スカイ第三帝国の逆襲』、前作で滅んだ筈のナチの皆さんがまた大暴れするのかッ!?しかもトレーラー観たらヒトラーがティラノザウルスに乗って襲い掛かってきちゃったりしてるじゃないですか!?こりゃもう「馬鹿が戦車(タンク)でやってくる」どころの騒ぎじゃないですよ!?前作以上に頭の悪さが炸裂するのかッ!?これ以上頭が悪いと脳死状態と一緒じゃないのかッ!?様々な憶測と期待と不安をない交ぜにしながら我々は現場(映画館)へと急行したッ!?

《物語》

人類は月面ナチスとの戦いに勝利するも、核戦争で自滅し、地球は荒廃してしまった。それから30年後、人々はナチス月面基地で生き延びていたがエネルギーが枯渇し、滅亡の危機を迎えていた。主人公オビは地球の深部に新たなエネルギーがあることを知り、人類を救うため、前人未到の<ロスト・ワールド>へと旅立つ。しかし、そこはナチスヒトラーと結託した秘密結社ヴリル協会が君臨する世界だった。ヤツらは人類絶滅を企て、恐竜とともに地底から攻めて来るッ!!

公式サイトより)

……とまあそんな『アイアン・スカイ第三帝国の逆襲』なんですがね、実際観終ってみると、これがもう清々しくなるほどの駄作で、むしろ心洗われ魂の階梯が一個上がったんじゃないかと思ってしまうほどの涅槃の境地に達してしまいました! 

まあなんといいますかねえ、「なんだよ、どこもかしこも出オチだらけじゃんかよ」ってな気分にさせられたんですよねえ。

まあオープニングの辺りはいいんですよ、期待させられちゃうんですよ、「地球滅亡後の人類生き残りが月面で細々と暮らしていたが資源は既に枯渇し……」なーんて導入部、なんかスッゴくディザスターSFしててワクワクさせられるじゃありませんか。オレは去年読んだ傑作地球滅亡SF小説『七人のイヴ』を思い出したぐらいですよ。前作の主人公だったレナ―テ・リヒターが老婆役で出てきたのも嬉しかったですね。そして今作の主人公はその娘であるオビということになってるんですね。世代交代ですね。

ただねえ……その後がもうずっとグダグダでねえ……。まず「ジョブズ教」なる連中が出てくるんですが、これがまあアップル信者をおちょくってることは分かるんですけど、「これってただおちょくりたいだけで映画と関係ないだろ?」と思っちゃうんですよ。それと主要キャラとしてハゲマッチョとロシア難民マッチョが出てくるんだけど、『ワイルド・スピード』じゃないんだからマッチョキャラ2人いらないだろ?しかも2人ともそれほどマッチョじゃないし。その後も繰り返しが多くて段取りの悪い無駄なシークエンスがあちこちで散見し出すんだけどあれ実は笑わせたかったのかあ。

さて地球に新たなエネルギー資源を取りに行く事になるオビ様御一行なんですが、なんとその場所というのが「センター・オブ・ジ・アース」、つまり「地球空洞説」ということなんですね!この着想はいい! しみじみと噛み締めたくなるほどに頭が悪くていい!そしてその「ロスト・ワールド」にはハチュウ人類が住んでいた!?というゲッターロボの「恐竜帝国」みたいな設定もいい!なんだやるじゃん!?伊達に「月刊ムー」とマンガばっかり読んでねえな(根拠のない憶測)!?

そしてここで「実はかつて人類の歴史に暴君として刻まれた圧政者の多くは異星人(だかハチュウ人類だか)だった!?人類は操られていたのだ!?」ということで、見たことのあるような方々がいっぱい出てくるんですね。それがまずヒトラーだったりチンギス・ハーンだったりビン・ラディンだったり北の大将軍様だったりするんですよ!何故だかマーク・ザッカーバーグスティーブ・ジョブズもいるんですが!ビル・ゲイツジェフ・ベゾスはいなかったと思ったな!とりあえずこの映画の監督がアップルとフェイスブックが大嫌いだということは十分に伝わってきます!この辺りのシーンは予告編でガンガン流れてて大いに期待を持たせてくれたんですがね!

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……でもねー、結局「出てきただけ」で、物語になんにも役に立ってない賑やかしにしかなっておらず、単なるコスプレ大会で終わってるんですよ。その登場のさせ方だってダ・ヴィンチの「最後の晩餐」を模したかったんでしょうが、最初から全員横並びで画面に登場させてしまったら面白味もなにも無いでしょうに。

その後のアクションも「世界空洞説!謎のハチュウ人類!超エネルギー!」とかブチ挙げた割にはなんだか妙に狭い範囲でいじましい程みみっちくジタバタするだけでまるで盛り上がらない。「出オチ」した後のお話を物語るのに精いっぱいで息切れしてるんですね。結局、大風呂敷の広げ方が大きかったばかりにその後のしょっぱさが目に染みて、「悲しくて悲しくてとてもやりきれない!」と思わず涙腺を緩ませながら口ずさみたくなってしまった傷心のオレがそこにいたというわけなんですよ。

ってかなー、なんか書けば書くほど「え、でもなんだか面白そうに思えてきちゃうよ?」と誤解されそうなんですが、結局ひとつひとつのアイディアは面白い方向へどうとでも発展出来そうだったのに、その料理の仕方が拙い、アイディアの活かし方や展開のさせ方にまるで注力できていないなんですよ。「こことここが惜しい」というよりも根本的に作り方が間違っちゃってる気がするし、監督単なる「一発屋」だったんじゃないかと思わされちゃいましたね。でもまあ嫌いになれない作品であることも確かで、ホントに作るのかどうか分かんない3作目が出来たとしたらまたノコノコと観に行っちゃうでしょうね、多分。


映画『アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲』7月12日(金)公開

アイアン・スカイ Blu-ray

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最近聴いたレゲエやらダブやら

なんかもうムキになって聴いていたので相当大量の音源となり、面倒なのでアルバム毎の説明は割愛させてください……(手抜き)。

 

■Derrick Harriott Reggae, Funk & Soul 1969-1975

Derrick Harriott Reggae, Funk & Soul 1969-1975 [国内盤CD] (DSRCD009)

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  • アーティスト: V.A.,Derrick Harriott,デリック・ハリオット,Chosen Few,I Roy,Junior Murvin,Bongo Herman & Les,他
  • 出版社/メーカー: Dub Store Records JPN
  • 発売日: 2016/10/14
  • メディア: CD
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 ■This Is Augustus Pablo / Augustus Pablo

This Is Augustus Pablo

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 ■Gee Baby + No More Running / Al Campbell

GEE BABY + NO MORE RUNNING

GEE BABY + NO MORE RUNNING

 

■Insight / Blackstones

Insight

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Star Wars Dub / Phill Pratt

Star Wars Dub

Star Wars Dub

 

 ■Dub Plate Style remixed by Prince Jammy / Delroy Wilson

Dub Plate Style remixed by Prince Jammy [日本語解説付き国内盤]

Dub Plate Style remixed by Prince Jammy [日本語解説付き国内盤]

 

■Book Of Revelation + Variation On A Theme / Revelation

BOOK OF REVELATION+

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■The Magnificent 7 + Rough Road / V.A.

V/A

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■Jah Loves Everyone + Impressions / Leroy Smart

JAH LOVES EVERYONE + IMPRESSIONS

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 ■Little John/Unite + Anthony Johnson / Reggae Feelings

LITTLE JOHN & ANTHON

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 ■Guerilla Dub / Aggrovators and Revolutionaries

GUERRILLA DUB

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■Dancehall: the Rise of Jamaica

Dancehall: the Rise of Jamaica

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■Rise of Jamaican Dancehall Culture Vol. 2

Vol. 2-Rise of Jamaican Dancehall Culture Part.1 [12 inch Analog]

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■Rainy Days + Diamonds / Al Campbell

Rainy Days/Diamonds

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■Soul Man Dub + Sings for the People / Junior Soul

Soul Man Dub/Sings for the Peo

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■Harder Shade Of Black / V.A.

Harder Shade Of Black

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  • アーティスト: Gregory Isaacs,Augustus Pablo,Dirty Harry & Santic All Stars,Leonard Santic All Stars,Santic All Stars,Horace Andy,Big Joe,Jah Woosh,King Tubbys & Santic All Stars,I Roy,Paul Whiteman,Roman Stewart
  • 出版社/メーカー: PRESSURE SOUNDS
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■Studio One Dancehall - Sir Coxsone In The Dance: The Foundation Sound / V.A.

Studio One Dancehall - Sir Coxsone In The Dance: The Foundation Sound

Studio One Dancehall - Sir Coxsone In The Dance: The Foundation Sound

 

■M.P.L.A. / Tappa Zukie

M.P.L.A.

M.P.L.A.

 

■What A Gathering + One Love / Mike Brooks

WHAT A GATHERING + ONE LOVE

WHAT A GATHERING + ONE LOVE

 

■Innocent Lover + One And Only / Trevor Hartley & Earl George

INNOCENT LOVER + ONE AND ONLY

INNOCENT LOVER + ONE AND ONLY

 

■Long Shot / Battle Of The Giants: Expanded Edition / The Pioneers

LONG SHOT / BATTLE OF THE GIANTS: EXPANDED EDITION

LONG SHOT / BATTLE OF THE GIANTS: EXPANDED EDITION

 

橋本治の『父権制の崩壊 あるいは指導者はもう来ない』を読んだ

父権制の崩壊 あるいは指導者はもう来ない/橋本治

父権制の崩壊 あるいは指導者はもう来ない (朝日新書)

今年1月に亡くなった橋本治さんの本はこの間出た『思いつきで世界は進む――「遠い地平、低い視点」で考えた50のこと』が最後なのかと思ったらまだあるのらしい。この『父権制の崩壊 あるいは指導者はもう来ない』は「小説トリッパ—」で2017年秋季号から2018年冬季号で連載されていたものをまとめた時評集なのらしい。ちなみに7月には『黄金夜界』、8月に『お春』という小説が刊行される。

さてこの『父権制の崩壊 あるいは指導者はもう来ない』は現在の日本の政治状況の体たらくとその根幹にある「男たちの論理」で作られた日本社会の終焉を「父権性の崩壊」を切り口に喝破した、実に橋本さんらしい時評集となっている。この橋本さんらしさは論旨展開のくどくどしさにも顕れるが、「言われなくても漠然とそういうことなんじゃないかと思っていたようなことを徹底的に例を挙げ連ねてはっきりさせる」というのが橋本さんの文章なので、「いつもの橋本節だあ」と楽しませるのだ。

さらに橋本さんらしさは論旨の寄り道と脱線の仕方にも顕れるが、橋本ファンにとってはこの「寄り道と脱線」が一番面白かったりする。なんといっても今回の「寄り道と脱線」は様々な映画作品を挙げている点で、一人の映画ファンであるオレにとっては実に楽しい。それはまず歴代『スター・ウォーズ』シリーズで、橋本さんは新3部作『フォースの覚醒』『最期のジェダイ』、そして『ローグ・ワン』まで触れているので楽しいったらありゃしない。

さらにスーパーヒーロー映画にも触れていて、ティム・バートン版『バットマン』やリチャード・ドナー版『スーパーマン』から始まり現在のDCEU作品『マン・オブ・スティール』『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』まで触れつつ、スパイダーマンあたりにもちらちら言及している。これら様々な映画作品は今回の時評集における「父権性の崩壊」を軸に取り上げられたものだが、橋本治独特の映画評としても思いもよらぬ切り口を見せており映画ファンにも一読の価値があるのではないか。特に「スーパーヒーローには(基本的に)父親がいない」という部分からの論理展開は括目すべきものがある。

この時評集ではこうして「父権性の崩壊」、「男の論理の終焉」を扱うが、返す刀で「じゃあ女はどうなんだろう?」ということにも触れている(そしてそれが『最期のジェダイ』におけるレイアやレイの活躍と重ね合わされる)。しかし橋本さんは別に「じゃあこれからは女の時代だ」と言ってるわけではなく、「「男の論理」の中で永らく支配されてきた女たちにはまだ「女の論理」は確立されえていない」と説く。そしてそこから女系天皇の歴史を説いてゆくクライマックスからが今回の醍醐味かもしれない。

例によって橋本さんなので、「これからはこうなるよ!」と結論を出すわけではなく、「もう全然違う時代がやってくるんだから覚悟しなよ!」と投げっ放しとなるんだが、この「変わってゆくし、変わってしまうんだ」というのが橋本流であり、実の所投げっ放しというよりは「全部説明したからあとは自分でしっかり見極めるんだ!」ということなのだ。

というか今回も思ったのだが、橋本さんの時評集というのはくどくどしさや脱線も含めた橋本さんの思考の流れと歴史から拾ってくる膨大な参照例の列挙を浴びることの楽しさだったりする。鋭い時評を述べながらも実の所最後まで橋本さんが「論客」めいたものではなかったのは、橋本さんが「論旨ありき」だけの人ではなかったからなのかもなあ、とちょっと思わされた。

父権制の崩壊 あるいは指導者はもう来ない (朝日新書)
 

冷戦下にある男女の数奇な愛の遍歴/映画『COLD WAR あの歌、二つの心』

■COLD WAR あの歌、二つの心 (監督:パヴェウ・パヴリコフスキ 2018年ポーランド・イギリス・フランス映画)

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映画『COLD WAR あの歌、二つの心』は冷戦下のヨーロッパを舞台に、二人の男女の数奇な愛の遍歴を描いたドラマだ。 監督はポーランドで活躍するパヴェウ・パヴリコフスキ。オレは以前彼の作品『イーダ』を観て大変感銘を受け、今作も観てみることにした。こちらの『COLD WAR』も『イーダ』と同じモノクロ・スタンダードサイズの画面設計が成されている。

《物語》

冷戦に揺れるポーランドで、歌手を夢見るズーラとピアニストのヴィクトルは音楽舞踊団の養成所で出会い、恋におちる。だが、ヴィクトルは政府に監視されるようになり、パリに亡命する。ズーラは公演で訪れた先でヴィクトルと再会、幾度かのすれ違いを経て共に暮らし始める。しかし、ある日突然ズーラはポーランドへ帰ってしまう。あとを追うヴィクトルに、思いもかけぬ運命が待ち受けていた。

公式サイトより)

主人公であるヴィクトルとズーラはそれぞれが異なる背景と異なる気質を持った間柄だ。ヴィクトルはアカデミックな知識人で沈着冷静な男。一方ズーラは庶民出の自由気ままで気分の浮き沈みの激しい女。コインの裏表のような二人だからこそ惹かれあうのだが、相反する性格故に対立すると途端に深い溝が生まれてしまう。物語はこんな二人が、ポーランド、ベルリン、ユーゴスラビア、パリと経巡りながら、何度も何度も和合し離反する様を描いてゆく。和合と離反。要するに延々くっついたり離れたりを繰り返すのである。この「くっついたり離れたりを繰り返す男女」の着想は、監督自身の両親から得られたものなのだそうだ。

という物語なのだが、オレはなんだか神妙な顔をしながら観てしまった。まず「くっついたり離れたりを繰り返す」というのがオレにはあんまりよく分らない。まあそれだけ気性が激しく情熱的であるということなのだろうし、世にはそういった男女もいることは知らない訳ではないのだが、この「諦め所の見つけられないしつこさと執着心」というのがオレのメンタルにはどうにも受け入れがたく、理解できないのだ。多少の確執があっても踏ん張って適切な落としどころを見つけようとするか、それでもどうしてもダメならさっさと未来に目を向けるか、どちらかじゃないかと思ってしまうような人間なのだ。執着心が薄いのではなく、執着し続けることでより傷つくのが怖いからなのだろう。

主人公の二人の繰り返される和合と離散の背景には、確かに冷戦の影響があるにはあるだろう。知識人のヴィクトルには全体主義国家の不自由さは耐え難いものだったのだろうが、庶民からたたき上げて社会的地位を得たズーラにとってはなぜそれを手放さなければならないのか理解できなかったのだろう。二人の愛には「魂の兄弟の如く分かち難く太陽の様に熱く暖かい結びつき」があったのと同時に「お互いが何を考えてるのかよく分からない水と油の様な相反する性格」の二つが同居していたのだろう。

しかしどれだけ愛し合っていようと男と女というのはもともと赤の他人であり、理解できない部分は歩み寄るか、それも無理なのならその部分を尊敬の形で譲歩するしかないのではないかと個人的に思う。まあこれは単なるフィクションなので、そんなフィクションの二人に物申しても始まらないのだが、なんだかもどかしい気持ちになりながら観てしまうことにはなった。「どうしても至らない感情を持ってしまうのが人間さ」と言ってしまえばそれまでなのだが、それによりここまで人生を困難でヤヤコシイものにしてしまう二人を見るにつけ、「もっとどうにかできなかったのかよ」とじれったく思わされたのだ。

とはいえ、モノクロ映像に特化した撮影も、それに伴う映像の美しさも、東欧の民族性をクローズアップした美術も、民族的であったり現代的なジャズであったりする音楽も、それぞれに意匠を凝らしてあり堪能できた。「冷戦」に代表される国家的政治的軋轢の在り方は、描かれはすれそれほど熾烈なものの様に感じなかった部分で食い足りなさを覚えた。なんとなれば主人公二人の「冷戦」の軋轢のほうが、政治的軋轢よりも熾烈だったように思えた。


映画『COLD WAR あの歌、2つの心』本予告

イーダ Blu-ray