100万人のペルシャ兵やテロリスト軍団を相手にしてきた俺がお天気ごときにビビるわきゃねーだろッ!?~映画『ジオストーム』

ジオストーム (監督:ディーン・デブリン 2017年アメリカ映画)

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異常気象を無くすため人類の英知を結集して打ち上げられた気象コントロール衛星”ダッチボーイ”が暴走を起こしたッ!?それにより世界のあちこちで竜巻、津波、超低温、超高熱現象が巻き起こり、人類の運命は風前の灯火にッ!?それを阻止するために立ち上がった男、その名はジェラルド・バトラーッ!!

「100万人のペルシャ兵やテロリスト軍団を相手にしてきた俺がお天気ごときにビビるわきゃねーだろッ!?」

かくしてジェラルド・バトラ-対ダッチ・ボーイの戦いの火蓋が切って落とされたーーーッ!?

……とまあこうして粗筋を書いただけでも限りなく知能が下がってゆく気がしてならない映画『ジオストーム』でございます。地球の危機を救うためダッチボーイに殴り込み乗り込んだ男、ジェイクを演じるのがジェラルド・バトラーなんですが、このジェイク、決して石油掘削員とかそういうのじゃございません。なんとこのジェイク、ダッチボーイを開発した超天才科学者なんです!

えええええ、ジェラルド・バトラ-が超天才科学者役ぅ~~ッ!?

もうこの時点で相当マイルドなスメルを発しているわけですが、「きっとダッチボーイにはゴリラみたいなガタイのテロリストが1000人ぐらい乗り込んでいて、これをジェラルド・バトラ-がちぎっては投げちぎっては投げするとても乱暴で頭の悪い映画なんだろうな」と胸をときめかされることもまた間違いはないのです。

とはいえダッチボーイにはゴリラみたいなガタイのテロリストなんか乗ってなくて、沢山の科学者の皆さんが事態究明のために慌ただしく職務に勤しんでいたんですな。その中から浮かび上がってきたのはどうやらダッチボーイにウィルスを仕込んでパニックを引き起こしている者がいる、ということでした。で、この下手人探しを今度は地球にいるジェイクの弟・マックス(ジム・スタージェス)が担う、ということになるんですな。

つまりこの『ジオストーム』、単なるパニック映画なだけではなく、宇宙ステーションを舞台にしたハイテクスリラーの側面と、地球を舞台にしたクライムサスペンスの側面とを併せ持っている、という意外と立体的で技アリな構造を成しているんですよ。

いやあ、トンチキパニック映画だとばっかり思って観に行ってゴメンよ。

まあしかし「技アリ」とは書きましたが実際のところ相当荒唐無稽で荒っぽい内容な事には変わりなく、総体的に申し上げるなら「しょーもない映画」であることに間違いありません。なんというか、ジェラルド・バトラ-主演による雑な『ゼロ・グラビティといった風情なんですな。けれども、あの予告編を観て映画に行く方には「シナリオがー」だの「辻褄がー」だのとてもつまらないことで四の五の言わない心の大らかで愛に溢れた方ばかりだろう思われますので、きっとその「しょーもなさ加減」をとことん満足しきって劇場を出られることでありましょうや。もちろんこのオレもその一人です。

ところでこの作品の役者の見所はジェラルド・バトラ-だけではありません。マックスの恋人であるサラ(アビー・コーニッシュ)、彼女の活躍が実は見所なんです!なんとこのサラ、合衆国大統領のシークレット・サービスをその生業としていまして、映画後半に行くほど彼女のハード&クールなアクションが楽しめるのですよ!なにしろ彼女もシークレット・サービスだけあって、地球にいないジェラルド・バトラ-の代わりに女バトラーとして活躍するんですね!

そしてもちろん忘れてはいけない地球大パニック描写!あっちでもこっちでもドッカンドッカン盛大にパニくりまくってます!人は死に物は壊れ大地は裂け海は凍り空は火に包まれます!うおおおおお!なにもかもメチャクチャになってしまええええええ!!!

ああ、楽しいのう、楽しいのう!

とまあそんなとっても楽しい『ジオストーム』だったんですが、たった一つ残念に思ったことがありましてね、それは、

エアロスミスの主題歌が無かったことですね。


映画『ジオストーム』日本語吹替版予告【HD】2018年1月19日(金)公開   

 

 

最近観たインド映画2作~『Baadshaho』『Bhoomi』

■Baadshaho (監督:ミラン・ルトゥリヤー 2017年インド映画)

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1975年にインド政府により発令された「非常事態宣言」により財産没収と逮捕という憂き目にあったインド豪族王女がいた。王女の元ボディーガード・バワニは没収された財宝の奪還作戦を計画するが……というアクション映画。主演にアジャイ・デーブガン、王女役にイリヤーナー・デクルーズ。また、敵役となる陸軍将校にヴィドゥユト・ジャームワール。まず1975年の「非常事態宣言」というもの自体知らなかったが、これは時の大統領インディラ・ガーンディーによる独裁的強権政治の一端で、対立政党の弾圧、言論統制、主要銀行の国有化、強制断種、スラム撤去などの人権侵害が行われたという。現在でもその是非について論議の的となっているらしいが、この映画では王族の財産没収が描かれることになる。しかしインド民主化の為にはそれも致し方ないと思えるし、それを真っ向から否定するのはどうなんだろうな。まあ映画はそんな政治的な事よりも「財宝強奪」のサスペンスとアクションが中心の娯楽作として出来上がっている。全体的に非常に乱暴で矛盾の目立つストーリーなのだが、財宝を搬送する完全武装のモンスタートラックの強奪作戦と、それを強奪した後のモンスタートラックの爆走ぶりが楽しかったのでよしとしたい。また、クライマックスのロケーションとシチュエーションはインドでなければ撮れなかっただろうと思われる特殊なもので、これは鬼気迫るものがあった。主演のアジャイ・デーブガンは安定の三白眼、王女ギーターンジャリはアンビバレントな性格を持つ女だが、この部分をもっと掘り下げれば面白くなっただろうにと思う。


Baadshaho Official Trailer | Ajay Devgn, Emraan Hashmi, Esha Gupta, Ileana D'Cruz & Vidyut

■Bhoomi (監督:オムング・クマール 2017年インド映画)

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結婚式のその前夜にならず者たちにレイプされた娘の恥辱を晴らす為、彼女の父親が復讐に立ち上がる!という生々しいテーマのサスペンス映画。お話のほうは「愛情深い父娘の情景→事件→ままならぬ裁判→さらなる嫌がらせ→ついにブチ切れるお父さん→血煙大噴出!」という予想から一歩も外れない展開だが、それでも【復讐譚】というのは大いに盛り上がるのは確かで、非常にカタルシスのある作品だった。だいたい父親役がサンジャイ・ダットというのがまず卑怯で、こんなオヤジ怒らせたらクライマックスに惨劇しか待っていないのは火を見るより明らかじゃないか。このサンジャイさんが憤怒の形相でならず者たちを追いつめる様子はもはやジェイソンやブギーマンもかくやと思わせるホラー展開で、しかも観ているこちら側もすっかり感情移入しておりブギーマン・サンジャイに「殺れ殺れいてこましたれや!!」と声援まで送ってしまうほど。特にクライマックスの異様にインド的な盛り上がり方はある種ヤバイほどだった。一方被害を受けた娘役のアディティ・ラーオ・ハイダリーがまた実に可憐で可愛らしくて、「守ってやるぞう!このオレがぜってー守ってやるからな!」とサンジャイ親父に成り替わってすっかり熱くなれる事必至。いやファンになっちゃいそう。この作品は同じくレイプ事件を扱い母親側が復讐に立ち上がるシュリーデーヴィー主演の映画『Mom』(2017)と対になっているように思えるので、気になった方はこちらの作品も観てみるといいかも。

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最近観たインド映画2作~『Tubelight』『Naam Shabana』

■Tubelight (監督:カビール・カーン 2017年インド映画)

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サルマーン・カーン主演による映画『Tubelight』は1962年の中印国境紛争を背景にした兄弟愛の物語だ。子供の頃からぼんやりしていて「蛍光灯(Tubelight)」と綽名を付けられていた主人公ラクスマン(サルマーン・カーン)と弟バラト(ソーヘル・カーン)は固い絆で結ばれた仲睦まじい兄弟。しかしある日パラトは中印国境紛争に派兵されてしまう。そんな折、村に在印中国人の親子が住み着くが……という物語。監督は『Bajrangi Bhaijaan』(2015)のカビール・カーン。頭は鈍いが気立てのいいラスクマンと村人から差別に遭う中国人親子との心の交流、戦地に赴いたまま帰らない兄への想い、これらの混じり合ったヒューマン・ドラマとして完成している。少々あざといといえ、サルマーン兄ィ演じる不器用極まりない男の純な心とその行動は、結構素直に胸に響いた。こういった性善説的な物語をこちらも素直な気持ちになって見届けるのは悪くないものだ。また、中印国境紛争という背景も興味深かったし(結果的に中国の勝利となりインドは甚大な人的被害を出したという)、インド国籍の中国人がインド映画に登場する、ということも目新しかった。それと、カメオ出演したとある大スターの登場には椅子から転げ落ちるほど驚いた。そういった新鮮さも個人的に評価を高くした。ただ冒頭の、いいガタイしたおっさん二人(主役の兄弟)が林の中でキャッキャウフフする映像はどうにかならなかったのかと思った……。またこの作品はオーム・プリ―の遺作となるのらしい。 


Tubelight | Official Teaser | Salman Khan | Kabir Khan

 ■Naam Shabana (監督:シヴァム・ナーイル 2017年インド映画)

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2015年公開のサスペンスアクション『Baby』のスピンアウト作品。『Baby』にも登場した女性特殊工作員シャバーナー(タープスィー・パンヌー)を主人公に据え、大学生だった彼女がなぜどのようにして特殊工作員になったのかが描かれ、いわば『Baby』の前日譚的な物語にもなっている。アクシャイ・クマール他『Baby』に登場した俳優も多数出演し、物語を大いに盛り上げる形となった(やはり華のあるスターが一人出ると映画の雰囲気が変わるものだ)。個人的には映画『Baby』はよく出来ているとは思うが今ひとつ好きになれない作品で、それはシリアスに寄り過ぎて爽快感に欠けていたからなのだが、この作品は女性主人公と言うこともあってか別の感触で楽しめた。主演のタープスィー・パンヌーの強面した顔つきがいいのだ。錯綜した世界政治の裏側で汚れ仕事を引き受ける殺伐とした者のリアリティが滲み出た顔つきなのだ。こういう女優も一人いないとね。作品自体は『Baby』人気にあやかった低予算映画といった寂しさも漂うのだが、気楽に流し見できるアクション映画という事であればまずまずの作品ではないだろうか。

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ウー・ジン主演の『戦狼 ウルフ・オブ・ウォー』は香港映画版ランボーだったッ!?

■戦狼 ウルフ・オブ・ウォー (監督:ウー・ジン 2017年香港映画)

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『全世界興収1,000億円!』という煽り文句が強烈な映画『戦狼 ウルフ・オブ・ウォー』でございます。いやあびっくりさせられちゃいますよね、1000億円ちゅうたらオレの大好きなピザが東京ドーム10杯分ぐらい買えるんじゃないでしょうか。東京ドーム1杯分ぐらいでも十分多いって言うのにいったいどうしてくれるんでしょう。

で、「いったいなんじゃいな」と思って調べたところ、この『戦狼 ウルフ・オブ・ウォー』、あのウー・ジンが主演・監督を務めているっていうじゃないですか。実は以前、トニー・ジャーが目当てで映画『ドラゴン×マッハ!』観た時に、「なんかトニー・ジャーより目立ってる激強のおっさんがいる」と驚嘆した俳優がいたんですが、それがこのウー・ジンだったんですね(それまで知らなかったことをお許しください)。そんなウー・ジンが主演した全アジア話題沸騰の映画とくればこりゃあ観なきゃしょうがないじゃないですか。

さて物語。主人公レン(ウー・ジン)は元特殊部隊「戦狼」の一員だったのですが、ある事件により軍職を剥奪され、今はアフリカのある国で過ごしているんです。実はかつて同じ軍人だった恋人がアフリカで兵役中に殺され、その犯人を追っていたんですね。そんな時いきなり勃発する軍事クーデター!レンは在アフリカ中国民間人を救う為、たった一人で戦火の中に飛び込むのですよ!!

映画が始まるといきなり貨物船を襲う海賊との肉弾戦が描かれるんですが、これがなんと!ウー・ジン演じる主人公レンが、海賊どもを海中に引き摺り込み、全員「水中クンフーでやっつけてしまう!というもんの凄いアクションが展開します。もうウー・ジンに海中に引き込まれたら生きて出てこれないと思ったほうがよさそうですね。どんな妖怪だよウー・ジン

クーデター軍は残忍極まりない連中で、街中は銃撃と爆炎の嵐、辺りは民間人たちの死体の山、まさに阿鼻叫喚の地獄絵図と化しているんですよ。そんな中たった一人で果敢に戦いを繰り広げるレンなんですが、RPGの砲弾をフェンスの金網で受け止めるなどという恐るべきアクションを見せてくれます。なにしろウー・ジン体のキレが凄まじくて、格闘技よし、ガンアクションよしと、なにやらせてもカッコよく決まるので惚れ惚れしちゃいますね。

実はこのクーデター軍には白人傭兵軍団が関与しているんですが、こいつらがまた輪を掛けて残虐な連中で、救出に訪れたレンに牙を剥くんです。その中でも強力なのがヴァ―チャファイターのサラみたいな傭兵とストリートファイターザンギエフみたいな傭兵で、レンを亡き者にせんと襲い掛かるんです(映画の間中「サラが襲ってきた!」「ザンギエフつええ!」とか勝手に盛り上がってました)。さらに傭兵の親玉をキャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』のフランク・グリロが演じていてこれがもう実にタチが悪い。そしてこいつらが戦車まで持ち込んで迫りくるもんですからいかに無敵のウー・ジンでも絶体絶命の危機に至っちゃうんです!

こういった具合に全篇激しい銃撃戦と強力な格闘技とで繰り広げられるアクション巨編、あたかも映画『ランボー』の中国版かと思わせるような物語なんですが、中国の元軍人の戦う場所がアフリカの架空の国というのがなかなか上手いことやってるな、と思わされました。お話には中国軍も相当に絡んできてますし、現在の社会情勢を鑑みるなら当たり障りのない舞台であるといえるのでしょう。

で、この映画のもうひとつのポイントは、いわゆる中国の国威掲揚映画でもあるという点ですね。「どんな土地にいようと中国国民は偉大な祖国が守る」ってヤツですね。中国国旗もこれ見よがしに画面のそこここに躍ってますし、そういったのが苦手な人は抵抗感があるかもですね。実はあまりにあからさますぎて、中国人観客の一部ですらちょっと白けているらしいです。

とはいえ、国威掲揚なんざハリウッド娯楽作でも飽きるほどやってるし、インドじゃ映画館で国歌が流れて全員起立って話だし、ここだけ取り出して評価を下げるべきではないと思います。むしろ主人公レンが亡くした恋人のことを思いながら慟哭する、このウェットな情緒の在り方のほうに中国映画の"らしさ"を感じましたね。なおこの作品、『ウルフ・オブ・ウォー ネイビー・シールズ傭兵部隊vsPLA特殊部隊』という映画の続編らしくて(未見)、こちらもちょっと観たくなってしまいました。


『戦狼/ウルフ・オブ・ウォー』予告

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『IFFJキネカ大森』でインド映画4本観た

《目次》

『IFFJマサラスペシャル・イン・キネカ大森2017』

去年の暮、キネカ大森で開催されていた『IFFJマサラスペシャル・イン・キネカ大森2017』でインド映画4本を観てきました。

 8作品公開のうち、今回オレが観たのは4作品、どれも南インドの作品です。実はこれらは去年のGW、【南インド映画祭 SIFFJ2017】で公開されていた作品の一部なんですね。【SIFF2017】は忙しくて全く観に行っていなかったので今回の企画はラッキーでした。

南 インド映画祭[日本のボリウッド映画]SIFFJ

それらの作品をちょっと紹介してみましょう。

帝王カバーリ[原題:Kabali] (監督:パ・ランジット 2016年インド映画※タミル語)

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マラッカ監獄から25年の服役を終えた60歳のカバーリが出所する。マレーシア・タミル人三世のこの男、ギャングながら人々からの信望が厚い。しかし出所と同時に彼の命を付け狙う勢力も始動する。(SIFFJ HPより)

出演:ラジニカーント、ラーディカー・アプテー、ウィンストン・チャオ

2016年に公開されたスーパースター・ラジニカーントの最新作『帝王カバーリ』です。前情報なしで「いつもの楽しいラジニ映画」を想像して観に行ったらこれがビックリ、なんと熾烈なマフィア抗争を題材としたガチなノワール作品だったんですね。とはいえラジニの役どころは"非合法活動をしているが民衆の味方"であって決して悪漢という事ではありません。物語はマフィア映画らしく抗争や裏切りが描かれ、この辺は銃撃戦やらなんやらで定番通りなんですが、ここに「25年の服役の間に失われた妻と娘」という家族テーマが加味されることで独自のドラマとなっています。マフィア映画でよく描かれる"ファミリー"と、インド映画でよく描かれる”家族愛”がマッチングしているんですね。タミル語映画なんですが綺麗に整頓されたシリアスな演出はボリウッド映画的で、ラジニカーントの渋く抑えた演技はボリウッド映画の帝王アミターブ・バッチャンをついつい連想してしまいました。このラジニ映画らしからぬシリアスさが新鮮に感じましたが、逆に賑やかなラジニ映画を想像して観ようとすると肩透かしを食うかもしれません。オレ的には「これはこれでいんじゃない?」と思いましたけどね。それとマレーシア移民のテルグ人による苦闘の歴史の一端が垣間見える部分が興味深かったですね。 

レモ[原題:Remo] (監督:バーギヤラージ・カンナン 2016年インド映画※タミル語)

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俳優志望のSKは、オーディションで女装して看護婦として演技することを求められる。同時に彼は、一目ぼれした相手が医師として勤める病院に、看護婦として潜り込むことに成功する。(SIFFJ HPより)

出演:シヴァカールティケーヤン、キールティ・スレーシュ

インドの最強(?)女装コメディ『レモ』であります。一目惚れした彼女のハートを射止める為に女装ナース姿で近付く主人公、というビジュアル&設定だけでも相当強烈なんですが、いざ暴漢の襲来ともなればその女装ナース姿で華麗に相手をぶちのめす!なーんてシーンがもう最高なんです。実の所ナース姿は俳優オーディションの為だったんですが、その格好のまま彼女の勤める病院に採用されちゃうんですよ!?「いやいやアナタ看護婦の資格ないでしょ!?」と普通は思いますが、「こまけー所はいいんだよッ!」とばかりに強引に突っ走っちゃう部分が逆に清々しい。で、そのナース姿で女医である彼女に近付き、「いい男知ってるのよ」と本来の姿の自分を売りこんじゃったりしてるんですよ。まあよく考えると相当ヒドイ話なんですが、この無理過ぎる嘘にさらに嘘を重ね、仕舞いにのっぴきならない事態を呼び込んじゃう、この「のっぴきならない事態」のあれこれがひたすら可笑しいコメディとして完成しているんですね。こんな主人公を演じるシヴァカールティケーヤンの女装姿はある意味ヒロインよりも美しいかもしれない……と一瞬思ってしまい慌てたオレでありました。 

ウソは結婚のはじまり?![原題:Eedo Rakam Aado Rakam] (監督:G・ナーゲーシュワラ・レッディ 2016年インド映画※テルグ語)

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 求職中のアルジュンは、一目惚れした相手の同情を誘うために、自分を孤児と偽って、スピード結婚に成功する。しかし妻が見つけてきた間借り先は、厳格な父を筆頭にした家族が住む自分の家だった。(SIFFJ HPより)

出演:ヴィシュヌ・マンチュ、ソーナーリカ・バードリア、ラージ・タルン

惚れた娘を振り向かせる為についた嘘がさらに嘘を呼び込み、雪だるま式に膨れ上がってにっちもさっちもいかないことに!?という典型的なインドコメディです。ヒロイン・ニーラヴェニは家族のごたごたが嫌いなばかりに「結婚相手は孤児がいい」という女性なんですが、それを知った主人公アルジュンは「俺って孤児でーっす」と言って近付き、まんまと彼女の家族である兄貴に紹介されます。しかしその兄貴というのがバリバリのヤクザで、「ウチの妹と付き合うとるんやな?じゃあ結婚せぇや!?結婚するんやろな!?」と脅され無理矢理結婚という流れがあまりにもあまりで可笑しくてしょうがない!その後ニーラヴェニは新居を見つけますが、なんとそこは入居者募集中の主人公の家族の住む家!「いや俺、孤児ってことになってるし!?」ここからの涙ぐましくもまた馬鹿馬鹿しいドタバタがひたすら笑いを生んでゆくんですね。インド・コメディのスゴイ所は、縺れまくったややこしい事情がメインであるばかりに到底一言で粗筋を紹介できない所で、そしてそんなにややこしいにもかかわらず実際観てみると分かり易くしかも楽しくてしかたないって部分で、これ相当インテリジェントだよなあ。主人公二人のドタバタもよかったけど、一番光ってたのは主人公のお父さんの、あまりに切れ味の良すぎるボケっぷりだったなあとオレは思ったよ! 

ルシア[原題:Lucia] (監督:パワン・クマール 2013年インド映画※カンナダ語)

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バンガロールの下町の映画館で働くニキルは不眠に悩んでいる。あるとき、眠れないまま夜の街路に出た彼は、怪しげな売人から「ルシア」という睡眠薬を買う。それは単に睡眠に導入するだけでなく、極上の夢を見せ、その夢を次の晩に引き続き楽ませるというものだった。(SIFFJ HPより)

出演:サティーシュ、シュルティ・ハリハラン

貧乏でモテない映画館雑用人ニキルが、「ルシア」という睡眠薬の作用により「イケてる自分の登場する夢」を見始めるが……というミステリアスなドラマです。その夢に登場するのはビッグな映画スターの自分と超美人な新人女優のシュウェータ。しかしそのヒロインとそっくりな女性シュウェータを現実世界で見かけたばかりにニキルの人生は錯綜してゆくのです。つまり夢が現実を予言するのですが、しかし現実は夢のようには上手く運びません。とはいえ苦労に苦労を重ねシュウェータと交際することに成功したニキルだったのですが、今度は夢の中のニキルがシュウェータと破局を迎える。こうしてドラッグが誘う明晰夢に沈溺するダメ男を主人公としながら、いつしかそれが代償行為の夢であることから乖離して、一つのモチーフから枝分かれした二つの物語へと発展してゆくのがとてもユニークなドラマなんですね。構造的に「夢なのか現実なのか?」というドラマではありますが、むしろ、「何が現実なのか?」がこの物語の根幹となるテーマなのではないのでしょうか。それは「現実を選ぶという事はどういうことなのか?」ということでもあります。そしてこの作品は同時に、とてもコミカルでなおかつ眩しいロマンスを瑞々しく描いた作品でもあるのです。