水曜どうでしょうDVD第27弾『釣りバカ&未公開VTR・NG集』観た

■『水曜どうでしょうDVD第27弾「釣りバカグランドチャンピオン大会 屋久島24時間耐久魚取り対決/一挙公開!!未公開VTR&NG集!

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水曜どうでしょうのこれまでの歴史の中で行われた「釣りバカチャンピオン決定戦」において栄誉を勝ちえた4人の釣りバカ、というかバカが一堂に会し、真の釣りバカを決定せんと行われたのが今回の「釣りバカグランドチャンピオン大会」である。

とはいえ既に誰もがお気づきのように、要するに今回もいつものメンバーが集まりダラダラと釣れない釣りに興じ、その後ニエニエになってなし崩し的に勝負を決めてしまう、といういつものあの行き当たりばったりな企画であることは言うまでもない。

しかし今回はなんと24時間耐久釣りレースという無謀な試みを決行し、案の定全員ゲロゲロに疲労困憊した挙句グダグダの醜い争いになったことは目に涙を禁じ得ない。まあそれでこそ「水曜どうでしょう」の面目躍如というものでもある。

それにしても屋久島の風光明媚な景色が実にいい。未公開VTR集のほうに収められていた、どうでしょうメンバー集っての野外での食事シーンでは、屋久島の豊富な食材に舌鼓を討つメンバーの楽しげな様子がとても和やかで微笑ましく、なんだか自分も彼らの一員になってその場にいたかのような奇妙な幸福感を感じた。この、まるで気の置けない雰囲気がどうでしょうのいい所でもあり、大きな魅力なんだな、と思わされた。

Disc2ではこれら未公開VTR集とNG集が収められている。しかしそれら映像よりもミスターと大泉君の何がしたいのかまるで分からないアホメイクの数々がひたすら強烈で、それもまた見所であろう。また、このDisc2では今後のどうでしょうの行方を伝える重大発表が収められている。

購入はこちらで。 

【死】についての物語~映画『IT イット “それ”が見えたら、終わり。』

■IT イット “それ”が見えたら、終わり。 (監督:アンドレス・ムシェッティ 2017年アメリカ映画)

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■子供の頃に初めて意識した【死】の概念

オレが【死】というものを初めて意識したのは4歳か5歳ぐらいの時だったろうか。

当時、まだ小さかったオレは近所の保育園に通っていた。ある日、園の門の外で、大人が何かのチラシを配っていた。友達の一人がそれを受け取り、あとでオレに見せる。それはキリスト教会の日曜礼拝のチラシだった。きっと布教の一環だったのだろう。

キリスト教。子供の頃のオレには外国の神様、程度の事しか知らなかった。当時オレの田舎にはアメリカ軍基地があり、近所にも幾人かのアメリカ人家族が住んでいた。キリスト教会はその基地近くにあった。そのキリスト教会の入り口の窓にはキリストの肖像画が貼られていた。子供の自分には、日本の神様というのも気味の悪いものだったが、外国の神様も、やはり気味の悪いものだった。

キリスト教会のチラシをオレに見せた友達は、これをオレに破ってみろという。オレは子供ならではの負けん気から、そのチラシを破ってみせる。すると友達はしたり顔でオレにこう言った。「このチラシを破ると、呪われて、死ぬんだぜ」。

もちろん子供独特の、他人を怖がらせて喜ぶための他愛のない嘘だった。だが、その時のオレは、友達の言葉にとてつもないショックを受けた。

呪われて、死ぬ。キリスト教とかいう、得体の知れないものの為に、自分が、理不尽にも、呪われて、死ぬ。

怖かった。とてつもなく怖かった。(子供の自分が勝手に曲解している)キリスト教それ自体ではない。その時、【死】が、唐突に、目の前に立ち現れてしまったことが怖かったのだ。

自分がいつか死ぬ存在であるということに、人間はいつ気づくものなのだろう。その時の、4歳か5歳の頃の自分は、どこまで、【死】というものを理解していたのか、それは記憶に無い。だが、「いつか」ではなく、「今まさに唐突に」、自分が【死】を迎えるかもしれない、と想像したのは初めてだったように思う。

そして【呪いによる死】という他愛もない嘘から始まった不安は、呪いがあろうがなかろうが、自分という存在が、いつか必ず、逃れようもなく【死ぬ】のだという事実に行き当たる。【自分はいつか死ぬ】。その発見は、まだ生まれて4,5年程度しかたっていない子供には、最強最悪の恐怖だった。そしてそれは、生まれて初めて直面した、【生の理不尽さ】という名の現実だった。この日オレは、恐怖で一睡もできなかったことを今だに覚えている。

【自分はいつか死ぬ】。この事実は誰しもが否応なしに知ることになる事柄ではあるけれど、しかし同時に自分なりに受け流して忘れたふりをしようとする事実でもある。結局、キリスト教のチラシを破ったオレは神様の呪いを受けて死ぬことは無かった。だが、いつか死ぬことは確かなのだろう。死ぬのは怖い。とてもとても怖い。だがしかし、とりあえず今すぐ死ぬことはなさそうだし、【いつか死ぬ】その「いつか」も、まだまだ遠い日の事のように感じる。だからきっと、その日までは生きていられるのだろう。子供なりのもやもやとした理屈で、その時は【自分はいつか死ぬ】という事実をなんとなくやり過ごしたんじゃなかったかな、と思う。

■映画『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』

映画『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』はホラー小説の帝王、スティーブン・キングの長編小説『IT』を原作にしたホラー映画である。ちなみに自分はキング・ファンなので当然原作小説はとっくの昔に読んでるし、TVシリーズのビデオも視聴済みだった。そしてこのアンドレス・ムシェッティ監督による2017年版の映画作品も楽しみにして観に行ったのだが、前評判の高さも頷ける傑作として完成していた。外連味たっぷりの恐怖描写もさることながら、同じキング原作による『スタンド・バイ・ミー』のホラー版とでもいえそうな、子供時代の甘酸っぱい記憶や子供時代独特の遣る瀬無さがとても情感豊かに表現された作品だと感じた。

アメリカの地方都市を舞台に、児童失踪事件の背後に存在する恐怖の権化、「IT=それ」と戦う子供たちの姿を描くこの物語は、同時に、幼い弟を死なせてしまった主人公の後悔とその克服の物語であり、学校や家庭の”負け犬”たちが友情を育み、自己存在を肯定できるようになるまでを描いた作品でもある。ホラー作品ではあるが、ひとつのビルドゥングスロマンとして観ることもできる作品なのだ。

さて、この作品において、ピエロの姿として登場する「IT=それ」とはなんだったのか。子供たちの「恐怖」を好み、それを食料として生き永らえてきたあの超自然の存在は、何を意味しているのか。それは【死】そのものである。そしてそれは、子供たちが初めて直面する【死】という概念を、その【恐怖】を象徴した存在だったのではないか。

大人たちはなぜ「IT=それ」を感知できないのか。それは、【死】という不条理に対し、なにがしかの結論を見出したか、あるいは無視するなり鈍感になる事でやり過ごしているからである。しかし子供たちにとって、【死】はまだまだ知ったばかりの未知の概念であり、生々しい【恐怖】そのものなのだ。事件の発端はそもそも主人公少年が弟の【死】に直面することから始まる。それにより、主人公少年が【死】という概念に憑りつかれることになる、というのがこの物語の核なのだ。確かに彼らの住む街には「呪われた歴史」が存在するとはいえ、アメリカ開拓時代から連綿と続く歴史の中には「呪われたかのような」【死】の横溢する土地は幾らでもある筈なのだ。

こうして、物語の中心となる少年少女たちは、「IT」=【死】の存在を知り、その【死】と直面し対峙し、そしてその【死】を乗り越えることでこの物語は終わる。それは子供の頃のオレのように、「人はいつか死ぬもの」と悟らざるを得ない事でもあるのかもしれない。そしてそれを納得しきったうえで、今日を生きる事を知る事なのなのかもしれない。少なくとも、物語に中の少年少女には、まだまだ未来が続いてゆくのだ。

だがしかしだ。実はこの映画は、原作小説の半分しか映画化していないのだ。つまり、主人公たちの子供時代の部分だ。原作ではこの続きは、子供時代の物語の27年後、彼らが大人になりさらに中年に差し掛かった頃を舞台設定としている。そして、映画はこの後半を『第2部』として映画化する予定だという。子供時代の【死】への恐怖を乗り越えた彼らは、大人になり、現実的に【死】を意識するような年代になった時に、もう一度「IT=それ」と対峙することになるのである。子供と大人の、【死】への概念が異なる者たちが再び相見える【死】は、今度はどんな姿をして彼らの前に立ちふさがるのか。続編公開が楽しみである。

IT〈1〉 (文春文庫)

IT〈1〉 (文春文庫)

 
IT〈2〉 (文春文庫)

IT〈2〉 (文春文庫)

 
IT〈3〉 (文春文庫)

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IT〈4〉 (文春文庫)

IT〈4〉 (文春文庫)

 

小説のホントの作者は俺なんだ!?~映画『Bareilly Ki Barfi』

■Bareilly Ki Barfi (監督:アシュヴィニー・アイヤル・ティワーリー 2017年インド映画)

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訳あって友人の名前と顔写真を借りて小説を出版した青年が、小説ファンの女の子に「作者に会いたい!」と迫られ大弱り!というインドで今年公開されたロマンチック・コメディです。今回は最後までネタバレして書きますので要注意。

主人公の名はビッティー(クリティ・サノーン)、最近読んだ小説『バレーリーのバルフィ』に感銘を受けた彼女は「作者に会いたい!」と熱望し印刷所にやってきます。印刷所の青年チラーグ(アーユシュマーン・クラーナー)は「俺知ってるよ!手紙出してみれば?」とビッティーに勧めます。しかし実はこのチラーグが本の作者でした。彼はややこしい事情から実名と写真を著書に載せられず、代わりに友人プリータム(ラージクマール・ラーオ)を替え玉にしていたのです。とはいえビッティーの作者への想いは膨らむ一方で、遂にチラーグはプリータムを呼び寄せ「作者を演じてくれ!」と無理強いするのですが……。

とまあこんな話なんですが、何しろ青年チラーグ、最初から窮地に陥るに決まってる嘘を付き過ぎです。「作者に会いたい」とやってきた女性があんな美人ちゃんなら惚れちゃうに決まってるじゃないですか!?案の定チラーグはビッティーにさっさと惚れちゃうんですが、作者目当てにやってきた女の子を相手に(実際の作者だったとはいえ)ちゃっかり取り入って仲良くなっちゃうとか虫が良すぎませんか。そんな彼女を相手にどれだけ「作者は別の人間だよ!」と嘘を付き通せると思ったんでしょうか。というか、さっさと言っちまったほうがことがスムーズに進むに決まってるじゃ無いですか。それをやらないってのは最初から騙し通せると思ってたからなんじゃないですかね。こいつ、惚れてるとかいいながら誠意無さ過ぎですよね

で、追いつめられたチラーグは替え玉だったプリータムを呼び寄せ「ファンの前で作者の振りしろやゴルァ!」と強要します。そう、お願いではなく強要です。プリータムは気弱な青年といった性格設定なんですが、彼が気弱なのをいいことに殆どイジメに近い無理強いをするんです。しかも、ビッティーが嫌うようにってプリータムにマッチョでいけ好かない男の演技をやらせるんですね。そうすれば彼女が自分に振り向くと思ったんでしょうね!いやーチラーグなんかヤナ奴だわーこいつ単なる自己中だわーイジメとかサイテーだわーさっさとホントのことバレてギタギタにされりゃあいいのに!と思いつつ映画のストーリーを追っていくオレです。

ところが!いけ好かない男を演じてる筈のプリータムに、ビッティーが次第に心を惹かれてゆくんですね!大慌てなのはチラーグです!ってか、チラーグ、ざまあ!!プリータムもプリータムで、いじめっ子なプリータムの鼻をあかすことができたばかりか、美人ちゃんのビッティーといつも仲良しルンルンで楽しい毎日を送ってます!いいぞがんばれ苛められっ子!オレがついてるぞ!おまけにプリータムとビッティーの結婚まで決まっちゃうもんですからチラーグは涙目!そんな悲惨なチラーグの姿を見てオレももはやメシウマ状態です!!

【ここからラストに触れますのでご注意】

 

 

 

ところがですよ!その結婚式のその日に、なんとビッティーがチラーグに「あなたが本当の作者だって知ってたからあなたの愛を受け入れます」とかなんとか言っちゃってるんですよ!?どうやらプリータムが本当の事をビッティーに教えちゃったみたいなんですね。いやあ、プリータムいい人過ぎ……なんでそこまで義理堅いの、ってか何の義理があるの?まあ彼もずっと作者のフリし続けるわけにもいかなかったけどさ。でも正直に話したプリータムのほうが誠意あるよね。そしてラストはチラーグとビッティーが結ばれてそれを横から微笑みながら見守るプリータムの姿でお終いですよ。おいおいおいおい、惚れてた女に嘘を付き通して友人には暴力的に替え玉強要してた男が最後にハッピーエンドとかこの話どうなってんの?

おおおおうい!責任者出てこーーーい!!!


‘Bareilly Ki Barfi’ Official Trailer | Kriti Sanon | Ayushmann Khurrana | Rajkummar Rao

 

最近聴いたエレクトロニック・ミュージック

■Bicep / Bicep

Bicep

Bicep

 

ブログで知り合ったというユニークな経歴を持つマット・マクブライアーとアンディ・ファーガソンによるDJデュオ、Bicepの1stアルバム。美しくメランコリックなメロディと同時にダンサンブルでタフなビートも併せ持ち、「よく分かってらっしゃる!」と言いたくなるような高精度のダンスミュ―ジックアルバムとして完成している。今回の強力お勧め盤。 《試聴》

■7 / FP Oner aka Fred P

7

7

 

USアンダーグラウンド・ディープハウスのプロデューサー、Fred PによるプロジェクトFP-Onerの3枚目となる作品。美しいメロディ、鉄板の4つ打ちリズム、環境音を使った映像的なSE、そして時折挟まれる日本語女性ヴォイス、これらが醸し出す眩惑的かつ瞑想的な音世界は聴くほどに法悦の高みへ導いてくれる。今回の強力お勧め盤その2! 《試聴》

■Love What Survives / Mount Kimbie

Love What Survives

Love What Survives

 

Mount Kimbieの4年振り、3枚目のフルアルバム。これまでのキャリアを集大成したようなバラエティ豊かな内容のベースミュージック。James Blakeのボーカル曲、Micachuのラップもフィーチャーされている。 《試聴》

■The Album / SW.

The Album

The Album

 

ジャーマン・アンダーグラウンドハウス・ユニット、SW.のリイシュー・アルバム。ブレイクビーツアンビエントアシッド・ジャズ、ジャズ・グルーヴなど、さまざまなジャンルを行き来する音はどこかつかみ所が無くミステリアスな印象。 《試聴》

■8R1CK C17Y / Tenderlonious, Dennis Ayler

8R1CK C17Y

8R1CK C17Y

 

 UKのビートメイカーTenderlonious, Dennis Aylerによるミニアルバム。ジャジーなサンプリングとスペイシーなキーボードワークでスタイリッシュにキメた1枚。 《試聴》

■All Good Things / Elwd

All Good Things

All Good Things

 

UKのビートメイカーELWDによる初アルバム。ローファイなサンプリング音&ボーカルがうねうねと揺らぎ、まるで水の中をゆったりとたゆたっているかのようなダウンテンポ/チルビーツ・アルバム。 《試聴》

■Fabriclive 93: Daphni / Daphni

Fabriclive 93

Fabriclive 93

 

Fabricliveの93番はカナダ出身のアーティスト、ダン・スナイスの別名義ユニットDaphni。殆どの曲が彼の新作エクスクルーシヴ・トラックを使用しており、より没入感の強いエレクトロニック・ミュージックMixとなっている。 《試聴》

■The Best Of Disco Spectrum / Joey Negro/Sean P

JOEY NEGRO AND SEAN P PRESENT THE BEST OF DISCO SPECTRUM [3LP] [12 inch Analog]

JOEY NEGRO AND SEAN P PRESENT THE BEST OF DISCO SPECTRUM [3LP] [12 inch Analog]

 

Joey Negroによるレア・ディスコ・コンピレーション・シリーズ「Disco Spectrum」 のベスト盤。ノンミックスで2枚組。 《試聴》

■Stil Vor Talent Berlin: Alexanderplatz / Various

Stil Vor Talent Berlin: Alexanderplatz

Stil Vor Talent Berlin: Alexanderplatz

 

 ドイツの人気レーベルStil Vor Talentの最新コンピレーション。ジャーマン・プログレッシヴ・ハウスってな内容。 《試聴》

■IV / Badbadnotgood

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 以前聴いた彼らの『Late Night Tales』があんまりにもよかったものだから、今度はオリジナルアルバムを聴いてみようと思い2016年リリースの最新アルバムを購入。するとこれがまた緩急取り混ぜた実に完成度の高いジャズ・ファンク・アルバムで、同時にポップでもありエレクトロニカの要素もありこれは相当な実力派だなと確認できました。これいいよ。 《試聴》

暴力と不安に満ち溢れた"悪魔祓い"ホラー・コミック『アウトキャスト』

アウトキャスト (1) (2) / ロバート・カークマン (著), ポール・アザセタ (イラスト)

アウトキャスト 1 (GRAFFICA NOVELS) アウトキャスト 2

幼少期から抱えているある“トラウマ"のため、故郷で人目を避けて暮らしている青年カイル・バーンズ。ある日、街で“悪霊に取り憑かれた少年"の噂を耳にしたカイルは、悪魔祓いとしても名高いアンダーソン牧師のもとを訪ね、自分の過去とも深い関わりのある悪霊の存在と対峙していくことになる。自身の運命のみならず、世界の命運をも左右する深遠なる存在の正体は!?カイルが導かれるその先にある、驚愕の真実とは!?

人気ドラマ『ウォーキング・デッド』の原作者、ロバート・カークマンによる最新コミックは"悪魔憑き"がテーマだという。

「悪魔憑きなあ。神と悪魔の戦いでエクソシストキリスト教ってことですか。まあ、なんか、古臭いよなあ。今更って感じだよなあ」……そんなことを思いつつ、なんとはなしに本書を手に取ってみた。

案の定、冒頭から"悪魔憑き"の少年を、神父がお祓いしている。熾烈な攻防を経て、悪魔祓いされた少年の口からは悪魔と思しきモニョモニョした黒い"何か"が溢れ出し暗闇へと消えてゆく。「はいはい、そのまんまですねえ」想定通りの展開に若干白けながら読み進めたのだが……この物語、何かが違う。単なる"悪魔祓い"だけの物語ではない、暗く、不安に満ちた"何か"が進行している。

「何かが違う」と感じさせたその"何か"は、冒頭から描かれる奇妙に複雑な人間関係と、社会不適合者として生きる主人公青年の、いつも物憂く悲しげな態度だ。主人公の名はカイル。彼は"悪魔祓い"の能力を持つが、何故そんな能力があるのかは本人も分からない。そして彼は家庭内暴力を巡る二重の暗い過去を持っており、ひとつは母親の植物状態という形で、もうひとつは裁判所命令により愛する妻と娘から引き離されるという形で、彼の現在を苛んでいた。

「何かが違う」と感じた二つ目は物語全編を覆う暴力の影だ。主人公をはじめどの登場人物も、過去又は現在に何がしかの暴力の洗礼を受け、あるいは行使し、それにより肉体のみならず心も深く傷ついていることが描かれる。暴力により人間関係を引き裂かれ暴力により孤独と不安の中にいる。これにより物語全体が常に暗く寒々とした雰囲気に包まれ続ける。ここからは単にホラー作品であることの枠を超え、暴力に満ちた社会で生きざるを得ない人間の業すら感じることが出来る。

「何かが違う」と感じた三つ目は、読み進むうちに、実はこれは単純な"悪魔祓い"のは物語ではないらしいと気付かされることだ。冒頭から登場する神父は、キリスト教的な、いわゆる神との対立項としての"悪魔祓い"であるとミスリードさせる目的の存在だったことが分かってくるのだ。では……主人公カイルと神父が"祓っているモノ"は何なのか?二人を付け狙い、徹底的な暴力で応酬する"憑りつかれた者たち"は何者で、その目的は何なのか?さらに、主人公カイルだけがなぜ特殊な能力を持ち、"憑りつかれた者たち"に付け狙われるのか?

こうして様々な謎が散りばめられ、それが少しづつ明らかにされ、最初は在りがちな"悪魔祓い"の物語だと思わせていたものが次第に町一つを飲み込む異様な暴力の物語へと発展してゆくのである。まあジャンルや似た設定の映画の名を出せば「ああ」と思われる方もいるだろうからネタバレは避けるが、それでも十分に新鮮かつ冷え冷えとした不安を味合わせてくれる優れたコミックの登場だと言うことができるだろう。なお、実はこの作品、同タイトルでドラマ化しておりネトフリあたりで観られるので「コミック読むのもかったるい」という方はドラマのほうもどうぞ(とか言いつつ、オレはまだドラマ観て無いんだよねー)。

アウトキャスト 1 (GRAFFICA NOVELS)

アウトキャスト 1 (GRAFFICA NOVELS)

 
アウトキャスト 2

アウトキャスト 2