アーミル・カーン主演のラブコメ&友情ドラマ2作〜『Hum Hain Rahi Pyar Ke』『Dil Chahta Hai』

■家出娘に引っ掻き回されしっちゃかめっちゃか!?〜映画『Hum Hain Rahi Pyar Ke』 (監督:マヘシュ・バット 1993年インド映画)


やんちゃな子供たちを3人も預かっててんてこまいの青年のもとに今度は家出娘がやってきて大騒ぎに!?という1993年公開のインド・コメディです。主演と脚本をアーミル・カーン、ヒロインに『ラジュー出世する』のジューヒー・チャーウラー。物語はケーリー・グラント主演の1958年のハリウッド映画『月夜の出来事』を元にしています。
主人公の名はラーフル(アーミル)、衣料品会社の管理人である彼は、亡くなった姉の3人の子供を預かっていましたが、これがとんでもないいたずらっ子ばかりで毎日頭を痛めていました。そこにある日ヴィジャイアンティ(ジューヒー)と名乗る家出娘が家に転がり込んできます。追い返そうとするも、子供たちがすっかりなついている上、継母にいじめられると哀願するヴィジャイアンティを、ラーフルは家に置くことになってしまいます。しかし実は彼女は実業家の娘であり、親の決めた結婚が嫌で家を飛び出してきていたのでした。
この後お話は例によってロマンス展開になってくるのですが、まあ男性の家に理由がどうあれ若くて綺麗な女性がやってきて同居する、なんていうのは男にとってはファンタジーそのものですよね。ただしそれだけだと生臭くなってしまうお話を、この作品では3人の貰いっ子を持ってくることによって、最初はばらばらだった疑似家族がひとつの家族としてまとまってゆく様子を描くことに成功しています。強い親を演じようとしてもままならず、いつも何がしか困り果てているアーミル・カーンの演技はコミカルであると同時に説得力があり、一方ジューヒー・チャーウラーは屈託が無く表情豊かな美人女優で、子供たちと一緒にいたずらを繰り広げて遊ぶ姿などは彼女自身も子供になりきっていて非常にキュートでした。
ただし小さな子供たちのやんちゃぶりをクローズアップさせている部分で外連味を感じさせる部分が多く、アーミル・カーンも善人過ぎねえかなあとは思いましたが、そこはアーミル・カーンだし脚本にも参加してるし、いわゆるファミリー・ムービーを主眼に置いたということなんでしょうね。後半はアーミルを狙うイケイケ女性や会社倒産の危機などのドラマが盛り込まれ、山あり谷ありの非常に飽きさせない展開を見せてくれました。

■3人の男の友情と恋の行方〜『Dil Chahta Hai』 (監督:ファルハーン・アクタル 2001年インド映画)


男3人の友情と、それぞれの恋の行方を描き2001年にインドで公開された群像劇である。主演となる3人をアーミル・カーン、サイーフ・アリー・カーン、アクシャイ・カンナーが演じ、ヒロインとしてプリティー・ズィンターが出演している。監督は『闇の帝王DON ベルリン強奪作戦』(2011)『DON ドン 過去を消された男』(2006)のファルハーン・アクタル。また、アクタル監督は映画『ミルカ』(2013)で主演を演じ、その引き締まった体を見せている。アクタル監督の妹ゾーヤー・アクタルは『Zindagi Na Milegi Dobara』(2011)を撮っているが、男3人のスペイン旅行を描くこの作品、なんとなく今作『Dil Chahta Hai』と雰囲気が似ていなくもない。
物語は大きなテーマがあるというのでもなく、主演3人の友情とその決別、彼らのちょっとイタイ、ないしは困難な恋の結末が交互に語られてゆく形になっている。ただ、この作品には大きな特色があり、それは徹底してインド的な雰囲気を廃した現代的で都会的な人間ドラマとして制作されているという部分だ。正直インド映画でなくてもいいぐらいの物語ではあるが、友情が中心となって語られること、結婚を巡って物語が収束してゆくということ、この部分ではインド映画らしいとも言える。どちらにしろ普遍的な、悪く言うならよくあるようなこじんまりとした物語であり、正直に言うと個人的にはかなり退屈した。ただしインド的なインド映画を常日頃浴びるように観ている現地のインド人には好評だったようで、売り上げでは公開年のベスト5になっているのだという。
一応俳優のことに触れると、アーミル・カーンはどこか冷笑的で素っ頓狂な男として登場し、観ていて共感できる部分が無かった、こんな男がクライマックスに向けて真実の愛とやらに目覚め神妙な顔をされてもちょっと困る。ヒロイン役のプリティー・ズィンターは結婚相手がいるにもかかわらず気を持たせ過ぎで、これには最後に理由が明かされるものの、観ている間は「どうしたいんだ?」と思ってしまった。サイーフ・アリー・カーンはハンサムなプレイ・ボーイとして登場するが、友達思いでありあちこちに気を遣う男を演じた。さてアクシャイ・カンナーは年上の女性に恋をしてしまう、というドラマチックな役だったが、ええとあの、20代の設定にしてはちょっと頭が薄すぎて、そっちばかり気になってしまい彼の年齢を超えた恋の行方のほうは特にどうという感慨も抱けなかった。しかしこのアクシャイ・カンナー、最近の作品での写真を見たら、髪の毛が増えてる…。