シャー・ルク・カーンがインド一の大悪党を演じるアクション映画『DON 過去を消された男』

■DON 過去を消された男 (監督:ファルハーン・アクタル 2006年インド映画)


2006年に公開され大ヒットしたシャー・ルク・カーンのアクション大作『DON 過去を消された男』、やっと観ました。実は続編である『DON ベルリン強奪作戦』(2011)は観ていたんですが、「まあまあかなあ」程度の感想だったもんですから、1作目は観なくてもいいやあ、と思ってたんですよ。ただこれはインド映画に慣れ親しむ前に観た時の感想なので、今もう一回観たら絶対評価が変わる気がします。また観てみようかなあ。ちなみにこの作品、2008年に日本公開されていて、DVDは廃盤のようですがレンタルで探せば日本語字幕付きのを観ることが出来ますよ。
そんな1作目をなんで今観ようと思ったかと言うと、この間アミターブ・バッチャン主演によるオリジナル作品『DON』(1978)を観たからなんですね。インド映画ファンにはお馴染みなんですが、この『過去を消された男』はアミターブ主演の『DON』のリメイク作なんですよ。このオリジナルとリメイクはどう違うのかな?と比較して観たくなってしまったという訳です。
《物語》マレーシアを拠点に巨大な犯罪組織を築き上げていた男ドン(シャー・ルク・カーン)は明哲な頭脳と酷薄な性格で恐れられていた。ドンを捕えるべくインド警察のデシルバ(ボーマン・イーラーニー)は厳戒態勢を敷き、インドに潜入していたドンを遂に拘束するが、その時ドンは瀕死の重傷を負い、病院で死亡していた。そこでデシルバはドンの組織を壊滅させるためある計画を秘密裏に遂行する。それはドンに瓜二つの男ヴィジャイ(シャー・ルク・カーン二役)をドンの替え玉として組織に送り込むことだった。しかし、この計画をただ一人知るデシルバが命を落とし、ヴィジャイはドンとして警察に追われることになる!
物語にはさらにインターポールのマリク(オーム・プリー)、ドンに恋人ラメーシュを殺されたカーミニー(カリーナー・カプール)、さらにラメーシュの妹ロマ(プリヤンカー・チョープラー)、そしてマリクに恨みを持つ男ジャスジート(アルジュン・ラームパール)が登場し、復讐と陰謀の渦はますます深まってゆく、という作品になっているんですね。製作・脚本・監督はファルハーン・アクタル、この人実は日本でも公開された名作スポ根映画『ミルカ』の主演も務めたという才人なんですよ。
粗筋から分かるようにこの作品、「瓜二つの別人」が登場してサスペンスを盛り上げるという、いわゆるドッペルゲンガー・ストーリーになっているんですね。いやーこのブログで何度も書いたような気がしますが、インド映画ってホンット、ダブルロール好きですよねえ。安易とか何とかいうよりも、インド人にとってのフィクションの基本なんでしょうかねえ。このジャンルの作品だけ並べてもリストひとつ作れそうですよ。とはいえ、決して陳腐に陥ることなく作品を面白く作っているんですから流石です。
まずこの作品、物語構成が実に巧みな複雑さを持っているんですね。まず犯罪王ドンの冷酷無比さを描き、そんなドンに復讐を誓い組織に潜入するロマの怨念と、組織壊滅の極秘計画を遂行するデシルバの思惑が絡みます。そして替え玉となったにもかかわらず組織からも警察からも追われてしまうヴィジャイの逃走劇が展開してゆきます。さらにその外側で一匹オオカミのジャスジートが怪しげな計略を巡らせている。こんな具合に物語は非常に錯綜していて予測困難であり、これらが否応なしにサスペンスを盛り上げてゆくばかりか、驚く様などんでん返しすら用意している、という作品なんですね。
とはいえそんな緊迫した物語にもかかわらず、インド映画お得意の歌と踊りがきちんと配されているんですが、実はこれがまた作品にゴージャスさとクライム・ストーリーならではの色気を加味していて、全然ちぐはぐさを感じさせないんですね。悪の帝王と追われる男、という二つのシリアスな役柄を演じるシャー・ルクは絶好調の演技を見せ、彼の周囲で暗躍する女ロマ役のプリヤンカーもクールで危険な女を手堅く演じ、とても魅力的でした。いやあ、この作品観て「プリヤンカーに蹴られたい…投げ飛ばされてみたい…」としみじみ思ってしまいましたよ(なんじゃそりゃ)。

DON ドン -過去を消された男- [DVD]

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闇の帝王DON ベルリン強奪作戦 [DVD]

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