リブート版『ヘルボーイ』はオレにはあれこれ不満だった

ヘルボーイ (監督:ニール・マーシャル 2019年アメリカ映画)

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地獄の王子が人間世界で育ち、人類の味方となって悪鬼どもを成敗する、というオカルト・アクション作品『ヘルボーイ』。原作はマイク・ミニョーラによって描かれたアメリカン・コミックだが、ギレルモ・デル・トロによって映像化された『ヘルボーイ』(04)『ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー』(08)でご存知の方も多いかもしれない。そのヘルボーイが新たにリブートされた、というのが今回の『ヘルボーイ』である。監督は『ディセント』『ドゥームズデイ』のニール・マーシャルが手掛け、ネトフリドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』のデヴィッド・ハーバー、『バイオハザード』シリーズのミラ・ジョヴォヴィッチの出演がある。

オレ自身は原作コミックの結構なファンで、既刊は全て集めちゃってるんじゃないかな。ヘルボーイ・フィギュアなんてのも持ってるぞ。デルトロの映画版も好きだ。そんなわけで今回の監督を代えてのリブート作には期待と不安が半々ぐらいであった。で、実際観てみると、よく出来ている部分、ちょっと惜しい部分、全然ダメな部分がない交ぜになっていて、全体的には嫌いじゃないんだけど、もっとどうにかなんなかったのかなーと悔しい気持ちにさせられた部分が大きい。

まず良かった部分からいこう。今回の『ヘルボーイ』、シナリオがなかなか良かった。原作者であるミニューラがシナリオに参加していたせいか、原作のダークでゴシックなオカルト趣味が存分に発揮されていた。もともと今回のヘルボーイは原作9巻に当たる『ヘルボーイ百鬼夜行』を下敷きにしており、それに8巻の『闇が呼ぶ』、(短編集10、11巻を挟んだ後の)12巻の『疾風怒濤』のエッセンスを少々散りばめた形になっている。で、この8、9、12巻というのが実はコミック版ヘルボーイの3部作の形になった最終章に当たっており、地獄の王子ヘルボーイの隠されたもうひとつの姿と、黙示録の世界が蓋を開けたかのような熾烈極まりない最終戦争が描かれることとなるのだ。映画は原作を換骨奪胎しながらも、この恐るべき戦いの様子を巧くまとめたと思う。

それと配役が存在感があってよかった。ジョヴォヴィッチ演じる魔女ニムエはジョヴォヴィッチの色気だけでなんとかなってたし、ヘルボーイの養父ブルーム教授や特殊工作員ベン・ダイミョウ、霊能者アリスなど、キャラが立っていてどれも物語世界としっくり馴染んでいた。映画に登場するクリーチャーも、どれもおぞましく汚らしく、惚れ惚れするほどに楽しかった。

ちょっと惜しいなと思ったのは、今回の作品の映画評でよく取り沙汰されている、ゴア表現の苛烈さだ。オレ個人はゴア表現自体は嫌いじゃないし、映画を観てる最中も「おーこれが話題になってるゴアゴアなヤツ!」と微笑ましく眺めていた。原作でも結構屍累々の展開を見せるので、ゴア表現自体が世界観を壊しているというわけではない。しかし取り沙汰されてしまうというのは、結局ここだけ「悪目立ち」しすぎたということなんではないだろうか。要するに、映画全体のバランスというか、映画の他の見せるべき部分がきっちり描き切れていないがための「悪目立ち」だったんじゃないだろうか。

そしてこの映画の最大にして最悪にダメな部分は、主人公であるヘルボーイが、こともあろうにこれっぽっちも魅力が無い、という部分だ。デルトロ版と比べるつもりは毛頭ないのだが、今作でのヘルボーイ、全然格好良くない。顔の特殊メイクは落ち武者みたいで汚らしいし、体型は筋肉質というよりだらしない肥満体にしか見えないし、トレードマークのコートもシマ〇ラで買ってきたのか?と思えるほどに安っぽくてペラペラだ。右手のガントレットは可動のギミックが無かったのか物語中右手自体が常にだらんと垂れ下がっていて、これに対する演出が全くなされておらず、なんだか片手しかないキャラにすら見えてしまう。一番気に障ったのはキャラ設定で、原作ではニヒルな減らず口を叩く強面のハードボイルド・キャラなのにも関わらず、この作品ではいつもわあわあわあわあと驚き慌てふためき右往左往していて、なんかもうその辺のおっさんみたいなんだ。おまけに愛嬌がない。こんなのヘルボーイじゃないよ!

思うに、監督のニール・マーシャルが、ダークでオカルトな世界観までは理解できたものの(ホラー映画も撮ってるしね)、「悪魔の子」というヒーローでもありアンチヒーローでもある主人公の存在を、きちんと咀嚼できていなかったんじゃないかと思うんだ。要は主人公の演出の在り方と、ビジュアルに対する妥当性に理解と愛情が欠けていたということなんじゃないかな。また逆に、ヘルボーイは意外と紋切型のハードボイルド・キャラであるがために、それを映画に於いて人間的に描こうとしたときに、どのあたりに舵を振ればいいのか迷いがあったような気もする。

そんなわけであれこれ残念だったリブート版『ヘルボーイ』、確かに不満もあることはあるのだが、続編を匂わす終わり方もしていて、だったら次はニール・マーシャルじゃない監督で仕切り直しさせてカッコイイヘルボーイを登場させてほしいと思うのだ。最初に書いたようにこの映画の物語は原作の最終章にあたる部分で、実はこの後もっと凄まじく恐ろしい最終戦争の様子と、哀切極まりないヘルボーイの物語が描かれることになる訳で、もうここまできたんならその「最期のヘルボーイ」まで描き切っちゃってくださいよ!と原作厨としては思うわけなんだよ!頼むよ!誰か!やってよ!

ヘルボーイ:闇が呼ぶ (JIVE AMERICAN COMICSシリーズ)

ヘルボーイ:闇が呼ぶ (JIVE AMERICAN COMICSシリーズ)

 
ヘルボーイ:百鬼夜行

ヘルボーイ:百鬼夜行

 
ヘルボーイ:疾風怒濤

ヘルボーイ:疾風怒濤

 

それはアナログだった

キッチンタイマーを買おうかと思ったのである。麺を茹でたりグリル時間を設定するのにタイマーは必須なのだ。きょうびのコンロはタイマー付きのものもあるが残念ながらそういうコンロを持っていない。じゃあ今までどうしていたかというとスマホのタイマーを使っていた。これはこれで別に問題なく使えていたのだが、タイマー設定するのにいちいち居間から台所にスマホを持って行き、終わったら終わったで台所から居間に戻すのが億劫になってきて、タイマーを一個買って最初から台所に置いておこうと思ったのが今回のあらましである。というわけでそのテの台所製品が置いてある店に行き、なんとなくオサレくさかったタイマーを一個買ってきたのだ。何かのメーターみたいに沢山目盛りが付いて面白いじゃないか。

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そんなわけで早速使ってみたのだが、これが、実はアナログ式だったのである(ま、見りゃわかるけどさ!そもそもが胡乱な男なんだよオレは!)。どういうことかというとゼンマイ仕掛けのタイマーだったのだ。使い方も若干面倒で、最初に「55」の目盛りまで外枠をクルクルッと回して、それから設定したい時間まで反対側にグルグルッと回して合わせる、という使い方なのだ。しかも説明書を読むと「ゼンマイ式なので10秒ほど時間がずれます」とか書いているではないか。要するに若干アバウトなのである。そもそもタイマーなんぞというものはデジタル式のものを今まで当たり前に使ってきたので、いきなりアナログ式で、しかも時間がアバウト、ということを知り面食らったのである。だいたい5分だ10分だという時間設定ならまだいいが、2分30秒とか3分30秒とかの時間設定をしたいときはこのアバウトなアナログ式でどうしたらいいというのだ。千幾らもしたのに、ちょっと失敗したかなあ、と思ったのである。

しかし買ってしまったものはしょうがないので使わねばならない。というわけで不承不承使ってみたのだが、これが実の所、特に大勢に影響がないことに気付いてしまったのである。3分のラーメンも8分のパスタも10分のグリルも、10秒ぐらい違ったからと言って大差ないのだ。もともとオレは時間には正確を期する男で、仕事にしても待ち合わせにしても早くなることはあっても遅くなることは決してしないことを信条としており、部屋中にある時計に類するもの全てが正確な時間を示していないと気になって気になって仕方がないような部分があるのだが、それにしたって10秒の違いがなんだという気もするのである。キッチンタイマーであれば気付くか気付かないか程度に固くなるか柔らかくなるかほんのちょっぴりミリ単位で焦げ目が付くかぐらいの話だ。そんなものなんだというのだ。つまりオレは若干アバウトなキッチンタイマーを購入したことにより、なんだかいつもキリキリと「時間!時間!」と青筋立てていた自分を一度顧みることが出来たというわけなのである。まあこれは10秒だからという話なのであって、3分で設定した時間が10分や30分じゃあ話にならないが、なんでもキッチリキッチリ!であるのはちょっと気持ちに余裕がない証拠なのかななどと思ったのである。

そういえば最近これまでデジタル腕時計一辺倒だったオレがアナログ腕時計に切り替えたのだ。そうするとこれがこれで使い勝手がいい。時間を数字ではなく面で判断するのがなんとなく新鮮だ。そもそもきょうびの時計は安物でさえ正確で、デジタルかアナログかなどというのは趣味でしかない。とはいえオレはここでデジタルとアナログの優劣を述べたいわけではないし「アナログにはアナログの良さがあっていい」などと言うつもりも毛頭ない。今回購入したキッチンタイマーを有効活用したいがために気持ちを切り替えたというだけの話である。だからこのタイマーが壊れたら次はデジタルタイマーにするであろうことはオレの性格的に自明である。ただちょっと「気持ちを切り替えた」という部分で面白かったので今回ネタもないブログにつらつら書いてみたというわけなのである。以上。

メガドライブミニ買った

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メガドライブミニ」買ったぜ!「メガドライブミニ」てのは1988年に発売されたメガドライブっちゅうゲーム機のミニサイズ版なんだぜ!しかしただ小さくなっただけじゃないんだぜ!昔メガドライブで発売されていたゲームが42本も入ってるんだぜ!まあいわゆるレトロゲーってヤツだし今みたいなCG全盛の頃とは違う荒いドット絵のゲームばかりなんだけど、昔遊んだ人間としては懐かしさ100万倍なんだぜ!そう!要するにこのメガドラミニ、【おっさんホイホイ】のゲーム機なんだぜ! 

ほうらこれが箱だ!「箱だからなんだというのだ」と言われても困るが、何しろこの中におっさんをホイホイする魅惑のゲームがたっぷり詰まったゲーム機が鎮座してるんだぜ!

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そしてこれが箱の裏だ!「箱の裏がどうだというのだ」とさらに詰め寄られても態度に困るが、よく見てくれ、この箱の裏に収録されているゲームの数々が載せられているんだ!嬉しいのう!楽しいのう!「小さくてよく見えん」という方は発売元SEGAの公式ページに行ってみたらもっとはっきり見えるんだぜ!

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せっかくだから以前購入したスーパーファミコンミニと並べてみたぜ!かつてはライバル同士だった両機もこうして並べてみると、敵味方に分かれた熾烈な戦いの日々も幾年月、今は現役を退きかつての戦いの日々に想いを馳せながら穏やかに語り合う老兵同士のようにすら見えるぜ!うお、オレってなんかポエマーじゃない?ポエマーじゃない?もう「はてなブログの進次郎」って呼ばれちゃう?呼ばれちゃう?

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実はこの両機、ACアダプターが同じ規格なのとあとHDMIケーブルを繋ぐだけでいいという設置方法なので、スーファミミニ持ってるけどこれ以上タコアシしたくない方やTV側のHDMIポートが足りない方はゲーム機側でアダプターとHDMIケーブルを差し替えればいいだけなんだ!なんでこんなこと書くかというと、オレのTVのHDMIポートはPS4とXboxOneとSwitchとスーファミミニで既に一杯だからなんだ!要するにオレのTVにはゲームが4つも刺さってるんだ!ズギャン!ゲーム機あり過ぎ!差し替えするのがイヤな方は「HDMIセレクター」という機械があるのでそれを買うといいのだ! 

ちょっと触って思ったことは、スーファミミニみたいな「アナログテレビモード」があればよかったなあ、ということかな。いやなんか今のHDモニターだとドット絵がくっきりしゃっきりし過ぎていてかえって見難いのよ(※追記:その後Twiterでフォロワーさんから「画面設定にあるよ!」と教えてもらいました。ちゃんと確認してなくて申し訳ない。フォロワーさんありがとうございました。でも助かりましたよ)。それにしても、これ買った後に「ジェネシス版は収録作が結構違う」ということを知り、ジェネシス版も欲しくなってしまったオレがいる……ああもうこの際だから買っちゃおうかな。

とまあそんな訳で益々ゲームライフが忙しくなりそうなオレなのだが、…...実はゲームライフ以前に日常生活が忙しすぎてゲームやってる暇がないんだ……。ううううううううう。 

メガドライブミニ

メガドライブミニ

 
メガドライブミニW

メガドライブミニW

 
メガドラタワー ミニ

メガドラタワー ミニ

 

最近読んだコミックなどなど

ゴールデンカムイ(19)/野田サトル

ゴールデンカムイ 19 (ヤングジャンプコミックス)

ゴールデンカムイ 19 (ヤングジャンプコミックス)

 

ついこの間1巻から18巻まで購入し一気読みした『ゴールデンカムイ』、その非常に楽しみにしていた最新刊が発売され「やっと追いついた!」 と狂喜乱舞のオレであります。そしてこの最新刊ではこれまでの怒涛の展開が霞んで見えるほどの超怒涛の展開で、さらにとある秘密の新事実が遂に白日の下に曝され、おまけに心を掻き毟られるような様々な事件が起き、ついでに「ここでそれやるのか」と呆然とさせられるギャグ展開が鉄砲玉の様に飛び出し、まさに充実中の充実を見せる巻として登場しているんですね。なんかもう凄すぎて3回繰り返して読んじゃいましたよ。いやもう最高だわゴールデンカムイ。次の20巻は12月19日発売だそうです!

■GIGANT(4)/奥浩哉

GIGANT (4) (ビッグコミックススペシャル)

GIGANT (4) (ビッグコミックススペシャル)

 

「AV女優が全裸のまま巨大化して怪獣と戦う!」という今世紀最大最高の楽しく下らなくわけの分からないSFコミック新刊ですが、今回は作者お得意の見開きゴマ連発なアクションシーンの連続でお話のほうはほとんど進展していません。ひょっとしてどう進展させればいいのか作者も分からなくなっているのかもしれません。でも奥浩哉だからこれでいいんです。 

ダンジョン飯(8)/九井 諒子

ダンジョン飯 8巻 (ハルタコミックス)

ダンジョン飯 8巻 (ハルタコミックス)

 

8巻目。作者は実にファンタジー世界に造詣が深く毎回面白いアイディアを出してくるなあと思っていたが、今回も冒頭の「種族シャッフル」のアイディアが非常に斬新だったしグラフィック的にも可笑しくてとても楽しませてくれた。怪しいエルフ種族の動静も気になるところ。次巻にも期待。 

■アンダーニンジャ(2)/花沢健吾

アンダーニンジャ(2) (ヤンマガKCスペシャル)

アンダーニンジャ(2) (ヤンマガKCスペシャル)

 

アイアムアヒーロー』後の花沢の新作『アンダーニンジャ』、1巻目が出た時は例によって海のものとも山のものとも付かないもやっとした感触でしたが、この2巻目でちょっとづつ形が掴めるようになってきました。でもまだ全部出し切ってないんだろうなあ。 

■死都調布/斎藤潤一郎

死都調布 (torch comics)

死都調布 (torch comics)

 

なんだろう、昔は流行った「ヘタウマ系」のコミックなんですが、物語自体は意味があるのか無いのか判別し難いノンセンスなものなんだけど、全編に漂うハードボイルドかつ殺伐とした味わいがなかなかに魅力的なんですよ。ちょっとデヴィッド・リンチ的な不条理感もありますね。作者の他の作品も読みたくなってしまいました。 ヘタウマとは書きましたがイラストレーター的な絵を描く人だと思いましたね。それにしても調布ってこんなに荒涼としてるの? 

■肉とめし(1)/吉田戦車

忍風! 肉とめし (1集) (ビッグコミックススペシャル)

忍風! 肉とめし (1集) (ビッグコミックススペシャル)

 

吉田戦車って今ナニ描いてるんだ?」 と突然思い、なんとなく読んでみたのだが、「ああ、往時の先端ギャグ漫画家のその後ってこんな感じだよねー」といった枯れ方をしていて、まーそのー。 

漫画アクション 気分はもう戦争3(だったかもしれない)/矢作俊彦大友克洋

漫画アクション No.9 2019年5/7号 [雑誌]

漫画アクション No.9 2019年5/7号 [雑誌]

 

矢作・大友コンビの『気分はもう戦争』続編!ということで勇んで読んだが、たった17ページしかない上に中途半端な未完、さらに絵も物語もまるでヤル気がなく、「ああもう大友さんも昔の人になってしまったんだなー」 と諸行無常を覚えただけであった。

『王宮の夜鬼』は韓国時代アクションゾンビ映画だったッ!?

■王宮の夜鬼 (監督:キム・ソンフン 2018年韓国映画

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朝鮮王朝時代を舞台に、国家転覆を狙う宮廷内の陰謀と突如発生したゾンビを巡る大パニックを描いた韓国映画『王宮の夜鬼』です。主演はヒョンビンチャン・ドンゴン、監督は『マイ・リトル・ヒーロー』(13)、『コンフィデンシャル/共助』(17)のキム・ソンフン

人の生き血を求める「夜鬼」に噛まれると、噛まれた人間も夜鬼へと変貌してしまう謎の疫病が蔓延する朝鮮時代。存亡の危機に陥った国に帰還した王子イ・チョンは、至る所にはびこる夜鬼の群れと戦う朝鮮随一の武官パク従事官らと出会い、彼らと行動をともにすることになる。一方、同じく国王の側近でありながら密かに国家転覆を企む武官キム・ジャジュンは、国を掌握するため、夜鬼を利用した最終手段に打って出るが……。

王宮の夜鬼 : 作品情報 - 映画.com

「韓国のゾンビ映画!」というと『新感染 ファイナル・エクスプレス』や『感染家族』なんてェ作品がありますが、こちらは同じゾンビ映画でも舞台が朝鮮王朝時代。Netflixの韓国TVシリーズ『キングダム』もこちらの路線らしいのですが残念ながら未見です。どちらにしろ韓国ではちょっぴりゾンビ映画が流行りつつあるのかも。そんな部分に興味が湧いて映画を観てみることにしました。

物語は異国の黒船が感染源とみられるゾンビ禍が大パニックとなって広がってゆく様と、王朝転覆を狙う宮廷内の陰謀が並行して描かれ、その二つが混じり合って朝鮮王朝滅亡の危機へとなだれ込んでゆくというわけです。主人公となるのは清から帰国したばかりの王子イ・チョン。しかし彼は王位継承に関心がなく、自らの生まれた国にも興味がありません。こんなイ・チョンが困窮した自らの国と国民を救うべく次第に困難に立ち向かってゆく、そんな成長物語としての側面もこの作品にはあります。

ところでこの作品、「ゾンビ映画」とは書きましたが、映画での呼び名は「夜鬼」。この「夜鬼」、一般的なイメージの「ゾンビ」とちょっと生態が違います。まず噛まれることによって感染しおぞましい姿に変貌して人間の血を求め暴れまわりますが、ゾンビの様に肉を食うのではなくあくまでも「血」なんですね。日光を嫌い夜中に行動し、倒す為には首を斬るか心臓を射抜くかしかありません。要するに吸血鬼的要素が大きいんです。

しかし魂なき悪鬼の群れとして人を襲う様はまさにゾンビ。このようにこの作品における「夜鬼」というのは吸血鬼とゾンビの折衷みたいな存在なんですね。ですから「夜鬼」退治の攻略作戦は従来的なゾンビ映画とちょっと違う部分で面白さがあります。そういやゾンビの定義の在り方として「走るのか走らないのか」という論議がありますが、この「夜鬼」に関してはミドルテンポ、よたよたしつつも速足ではありますが、決して全速力で走ってくる、というほどではありません。この辺もちょっと折衷ぽいですね。

見所はやはり「夜鬼」への感染がまた感染を生み、じわじわと王宮を侵してゆく様と、大発生した「夜鬼」たちが巨大津波のように町に押し寄せ人々を飲み込み死を撒き散らしてゆくことのカタルシスでしょう。この辺りの描写は実に情け容赦なくかつグロテスクでゾンビホラー作品としても及第点でしょう。もうひとつの見所は宮廷内陰謀、この首謀者である武官キム・ジャジュンの冷徹極まりない悪党キャラの魅力です。演じるチャン・ドンゴンの黒光りする存在感がこの作品を見所のあるものにしています。そして舞台となる王朝時代の朝鮮の、衣装や建造物などの美術が目を引きます。

こうしたゾンビパニックアクション作品としてのエンターテインメント的側面とは別に、この作品には朝鮮人たちの民族自決のテーマが背後にあるような気がします。作品における王朝の王は単なる事なかれ主義で、当時の清から属国扱いされていることに甘んじています。謀反はそんな国家を自立した独立国家として建て直そうとすることによって引き起こされます。しかしどちらにしても国民たちの困窮は黙殺してるんです。主人公であるイ・チョンは最初国家にも国民にも興味の無い男として登場しますが、人々の窮状に触れ彼らの悲嘆を知ることにより彼らの力になろうと態度を変えてゆくのです。ここが誰の為の国家でありその長は何を成すべきなのか、そういった政治の在り方への希求がこの物語の背景にあるような気がしてなりません。

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