『王宮の夜鬼』は韓国時代アクションゾンビ映画だったッ!?

■王宮の夜鬼 (監督:キム・ソンフン 2018年韓国映画

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朝鮮王朝時代を舞台に、国家転覆を狙う宮廷内の陰謀と突如発生したゾンビを巡る大パニックを描いた韓国映画『王宮の夜鬼』です。主演はヒョンビンチャン・ドンゴン、監督は『マイ・リトル・ヒーロー』(13)、『コンフィデンシャル/共助』(17)のキム・ソンフン

人の生き血を求める「夜鬼」に噛まれると、噛まれた人間も夜鬼へと変貌してしまう謎の疫病が蔓延する朝鮮時代。存亡の危機に陥った国に帰還した王子イ・チョンは、至る所にはびこる夜鬼の群れと戦う朝鮮随一の武官パク従事官らと出会い、彼らと行動をともにすることになる。一方、同じく国王の側近でありながら密かに国家転覆を企む武官キム・ジャジュンは、国を掌握するため、夜鬼を利用した最終手段に打って出るが……。

王宮の夜鬼 : 作品情報 - 映画.com

「韓国のゾンビ映画!」というと『新感染 ファイナル・エクスプレス』や『感染家族』なんてェ作品がありますが、こちらは同じゾンビ映画でも舞台が朝鮮王朝時代。Netflixの韓国TVシリーズ『キングダム』もこちらの路線らしいのですが残念ながら未見です。どちらにしろ韓国ではちょっぴりゾンビ映画が流行りつつあるのかも。そんな部分に興味が湧いて映画を観てみることにしました。

物語は異国の黒船が感染源とみられるゾンビ禍が大パニックとなって広がってゆく様と、王朝転覆を狙う宮廷内の陰謀が並行して描かれ、その二つが混じり合って朝鮮王朝滅亡の危機へとなだれ込んでゆくというわけです。主人公となるのは清から帰国したばかりの王子イ・チョン。しかし彼は王位継承に関心がなく、自らの生まれた国にも興味がありません。こんなイ・チョンが困窮した自らの国と国民を救うべく次第に困難に立ち向かってゆく、そんな成長物語としての側面もこの作品にはあります。

ところでこの作品、「ゾンビ映画」とは書きましたが、映画での呼び名は「夜鬼」。この「夜鬼」、一般的なイメージの「ゾンビ」とちょっと生態が違います。まず噛まれることによって感染しおぞましい姿に変貌して人間の血を求め暴れまわりますが、ゾンビの様に肉を食うのではなくあくまでも「血」なんですね。日光を嫌い夜中に行動し、倒す為には首を斬るか心臓を射抜くかしかありません。要するに吸血鬼的要素が大きいんです。

しかし魂なき悪鬼の群れとして人を襲う様はまさにゾンビ。このようにこの作品における「夜鬼」というのは吸血鬼とゾンビの折衷みたいな存在なんですね。ですから「夜鬼」退治の攻略作戦は従来的なゾンビ映画とちょっと違う部分で面白さがあります。そういやゾンビの定義の在り方として「走るのか走らないのか」という論議がありますが、この「夜鬼」に関してはミドルテンポ、よたよたしつつも速足ではありますが、決して全速力で走ってくる、というほどではありません。この辺もちょっと折衷ぽいですね。

見所はやはり「夜鬼」への感染がまた感染を生み、じわじわと王宮を侵してゆく様と、大発生した「夜鬼」たちが巨大津波のように町に押し寄せ人々を飲み込み死を撒き散らしてゆくことのカタルシスでしょう。この辺りの描写は実に情け容赦なくかつグロテスクでゾンビホラー作品としても及第点でしょう。もうひとつの見所は宮廷内陰謀、この首謀者である武官キム・ジャジュンの冷徹極まりない悪党キャラの魅力です。演じるチャン・ドンゴンの黒光りする存在感がこの作品を見所のあるものにしています。そして舞台となる王朝時代の朝鮮の、衣装や建造物などの美術が目を引きます。

こうしたゾンビパニックアクション作品としてのエンターテインメント的側面とは別に、この作品には朝鮮人たちの民族自決のテーマが背後にあるような気がします。作品における王朝の王は単なる事なかれ主義で、当時の清から属国扱いされていることに甘んじています。謀反はそんな国家を自立した独立国家として建て直そうとすることによって引き起こされます。しかしどちらにしても国民たちの困窮は黙殺してるんです。主人公であるイ・チョンは最初国家にも国民にも興味の無い男として登場しますが、人々の窮状に触れ彼らの悲嘆を知ることにより彼らの力になろうと態度を変えてゆくのです。ここが誰の為の国家でありその長は何を成すべきなのか、そういった政治の在り方への希求がこの物語の背景にあるような気がしてなりません。

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