WOMAN IN THE MIRROR / RICHARD AVEDON

Woman in the Mirror

Woman in the Mirror

なんだろう、ファッション・フォトグラフやモードを評価するようなボキャブラリーなど持ち合わせてはいないオレではあるが、この写真集は素直に綺麗で、そして、楽しい、と思った。
ファッション・フォトグラフとしては例えば写真集前半の1950年代頃撮られたディオールの写真などは、オートクチュールを着たモデル達がパリの街並みを背景に笑い闊歩しポーズを取る様が、オートクチュールの持つ高級だがブルジョア階級限定の閉鎖性から離れ、まるで映画の中のワンシーンのような開放感と華やかさを持って活写されている。ディオールなど縁のないオレなりに調べると、ディオール自身がそれまでのオートクチュールをより一般の女性達に受け入れやすいものにデザインしその時代のモード界の寵児となったデザイナーなのだとか。リチャード・アヴェドンの初期作品であるこれらは彼自身の自然主義的な構成により、ごく日常的でかつ一般にも受け入れられやすいファンタジーとしてのファッションを写真の中に演出していたのではないだろうか。
写真集後半は現在のプレタポルテを代表するイブ・サン・ローランやヨージ・ヤマモト、ジャン・ポール・ゴルチェらの写真が並び、それらも同じくファッションのファンタジーとアート性を兼ね備えた写真として完成度が高いが、それよりも目を引くのはハリウッド・スターやミュージシャン、作家、建築家などの著名な女性を被写体としたポートレイトの美しさだろう。白バックのみでギミックを廃したその写真の被写体達は、名前を挙げるだけでもマリア・カラスマリリン・モンローキャサリン・ヘップバーンブリジット・バルドージャニス・ジョプリンティナ・ターナーケネディ大統領の母ローズ・フィッツジェラルドケネディ、女装のエルトン・ジョンパティ・スミス…と挙げて行けば切りがない。小道具が無いからこそ被写体個人の内面にまで肉薄したそれらの写真は、有名人としてのペルソナを脱ぎ捨て、一個の人間としてこちらを見据え、あたかも写真を見るものと被写体が一対一で対峙しているかのような錯覚さえ与える。そんな彼女達の表情は、優しく暖かく人間的で、そして美しい。

リチャード・アヴェドン アーティスト紹介:http://artphoto-site.com/story15.html
オフィシャルHP:http://www.richardavedon.com/menu.php