■お化けアパート(上)/ ねこぢるy
涅槃の彼方を描く『ねこぢるうどん』の作者・ねこぢるの謎の自死は衝撃だった。ニーチェの「深淵を覗き込むとき、深淵もまたお前を覗き込む」という言葉の通りに、彼女もまた自らの覗く涅槃の彼方に取り込まれてしまったのだろうか。
彼女の死後、夫でもある漫画家・山野一が、「ねこぢるy」(末尾のyは山野のyなのだろう)というペンネームでねこぢる世界を再構築し世に送り出す。ねこぢるyが描き出すその世界は、亡くなった妻をもう一度この世界に出現させる、あたかも魂呼びの儀式の如き恐るべき作業だったに違いない。
そして今回書き下ろしの形で出版された『お化けアパート』は、これまでのねこぢるyのイタコ化した作風と異なり、涅槃の彼方へと旅立ったねこじると、現世に生きる山野一が融合したかのような新たな地平を見せる。ねこぢるであってねこぢるではなく、山野一であって山野一ではない。ねこぢるの不条理と前衛は説明のある物語へと変換され、透徹した涅槃への憧憬は現世での生きる苦しみに書き換えられ、法悦の中で漂うかのような幻視は映画的なアクションへと様変わりする。
これらはかつてのねこぢるが描いたであろう作品とは趣を異にする。しかし、現在進行形のねこぢるyの作品として考えると目を見張るような進化ではある。これは、漫画家・山野がようやくねこぢるの死を乗り越え、新生ねこぢるyとして活動を始めたということではないだろうか。そしてオレは、これでいいのだと思う。畢竟この世は生きる者の世界であり、そして我々は死ぬまでこの世界でジタバタしなければならないからだ。これからのねこぢるyの活動に期待したい。
- 作者: ねこぢるy
- 出版社/メーカー: 書苑新社
- 発売日: 2013/11/01
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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■四丁目の夕日 / 山野一
- 作者: 山野一
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