ねこぢるyの新作ねこぢる『お化けアパート』

■お化けアパート(上)/ ねこぢるy

おばけアパート・前編 (TH COMIC Series)
涅槃の彼方を描く『ねこぢるうどん』の作者・ねこぢるの謎の自死は衝撃だった。ニーチェの「深淵を覗き込むとき、深淵もまたお前を覗き込む」という言葉の通りに、彼女もまた自らの覗く涅槃の彼方に取り込まれてしまったのだろうか。
彼女の死後、夫でもある漫画家・山野一が、「ねこぢるy」(末尾のyは山野のyなのだろう)というペンネームでねこぢる世界を再構築し世に送り出す。ねこぢるyが描き出すその世界は、亡くなった妻をもう一度この世界に出現させる、あたかも魂呼びの儀式の如き恐るべき作業だったに違いない。
そして今回書き下ろしの形で出版された『お化けアパート』は、これまでのねこぢるyのイタコ化した作風と異なり、涅槃の彼方へと旅立ったねこじると、現世に生きる山野一が融合したかのような新たな地平を見せる。ねこぢるであってねこぢるではなく、山野一であって山野一ではない。ねこぢるの不条理と前衛は説明のある物語へと変換され、透徹した涅槃への憧憬は現世での生きる苦しみに書き換えられ、法悦の中で漂うかのような幻視は映画的なアクションへと様変わりする。
これらはかつてのねこぢるが描いたであろう作品とは趣を異にする。しかし、現在進行形のねこぢるyの作品として考えると目を見張るような進化ではある。これは、漫画家・山野がようやくねこぢるの死を乗り越え、新生ねこぢるyとして活動を始めたということではないだろうか。そしてオレは、これでいいのだと思う。畢竟この世は生きる者の世界であり、そして我々は死ぬまでこの世界でジタバタしなければならないからだ。これからのねこぢるyの活動に期待したい。

おばけアパート・前編 (TH COMIC Series)

おばけアパート・前編 (TH COMIC Series)

『お化けアパート』を読んだついでに山野一の漫画も購入。まだ読んでないけど、パラパラめくってみた感じは…いやあどっぷりディープだわ…。

■四丁目の夕日 / 山野一

四丁目の夕日 (扶桑社文庫)

四丁目の夕日 (扶桑社文庫)

購入コミック覚え書き

■瓜子姫の夜・シンデレラの朝 / 諸星大二郎

「瓜子姫とかシンデレラとか一回やってなかったっけ?また再録だらけの編集本?」と思ったら見事に新作だけだった。これまで民俗学的切り口からあやかしの物語を紡いでいた諸星だが、今回は掲載誌のせいもあるのかきっちりダークファンタジー。オチの弱い作品が散見しつつ決してクオリティは落ちていない。さらに題材も和風、洋風、中華風と、楽しくなってくるようなバラエティに富み、しかもそれがどれも面白い。諸星に関しては新作が読める、というただそれだけのことがしみじみと有難い。

ちいさこべえ(2) / 望月ミネタロウ

ちいさこべえ 2 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

ちいさこべえ 2 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

山本周五郎の短編小説を現代解釈した望月ミネタロウのコミック『ちいさこべえ』。登場人物たちの細かな心の機微を、絶妙な描線で描かれた絵と、台詞の無いコマの積み重ねと、そこから生まれる淡々と湧き上がるような緊張感だけで描き出す、その構成力が唯一無二の作品世界を生み出している。この2巻ではさらにそれが研ぎ澄まされ、何か古い日本の名作映画を観ているような醍醐味を感じた。

ノブナガン(4) / 久正人

ノブナガン(4) (アース・スターコミックス)

ノブナガン(4) (アース・スターコミックス)

エリア51(7) / 久正人

エリア51  7 (BUNCH COMICS)

エリア51 7 (BUNCH COMICS)

とても好きな漫画家だけど久正人は意外と独創的過ぎるところがあるから、知る人ぞ知るで終わってしまうのは惜しいなあと思ってたけど、アニメ化ですっかり認知度を上げ、このまま人気が出て良質な作品をコンスタントに生み出してくれるようになれば、ファンとしても願ったりかなったりだなあ。

アオイホノオ(10)(11) / 島本和彦

アオイホノオ 10 (少年サンデーコミックススペシャル) アオイホノオ 11 (少年サンデーコミックススペシャル)
「おおアオイホノオの11巻が出ておるわい」と買って読んだらなんか変な感じがして、で、どうやら10巻を買い洩らしていたようなんだよな。まあそれでも相変わらずホノオ君が燃え上がるルサンチマンで我が身を焼き焦がしている、という部分では一貫していて、話が分かんなくなるっていうこともなかった、というのが面白かった。

イノサン(3) / 坂本眞一

華麗なる描線、優美なグラフィック、エモな主人公、そして徹底的にゲスい物語展開。フランス死刑執行人という歴史上に実在したエキセントリックなキャラクターを題材を選びながら、描かれているのはお化け屋敷。わかった!これは【ゴス】なんだね!目の下に星の刺青したキャラが大見得切って登場した時にはゲラゲラ笑っちゃいました。いいなあ、どんどん面白くなってくるぞこのマンガ。