三馬鹿若大将

オレの会社には愉快痛快奇奇怪怪なバカヤロ様が多数存在するのだが、若手の中では特に目をかけているお馬鹿ちゃんが3人いる。ゲームバカK、ロックバカT、ただのバカWである。3人とも負けず劣らずの素敵なバカぶりで、それは例えるなら山の様に高いバカ、海の様に深いバカ、そして空の様に広いバカである。そのバカ振りを眺めるときにオレの胸は高鳴り熱い血潮は燃えこの体躯には生温い愉悦の風が吹きすさぶのだ。
この三人のバカ、オレの言うところの《三馬鹿若大将》達はそのバカの密度と濃度において等質であり、その出自において同じバカの血脈を持っているのではないかと思わせるほどに相似形をなしている。要するに「似たバカ同士」なのである。
そんなバカ達への挨拶はいつも決まっている。「おおバカ。お前は本当にバカだなあ。」とオレ。そうするとかのバカたちはうしゃしゃ、と楽しげに嗤い「こんちわFUMOさん!でも言わせて貰うとオレ確かにバカだけど○○と○○ほどのバカじゃないですよ!」と決まって他の二人よりも自らが優位であることを主張するのである。バカにはバカなりのプライドがあると言うわけだ。オレに言わせると似たり寄ったり、団栗の背比べであるが。
そんなある日、会社に電話する度に、この三バカが替わりばんこにオレの電話を取る日があった。オレは言った。「今日は三バカ大当たりの日だなあ。○○と○○が出て次がお前だ。さすが三バカ若大将、ナイス・コンビネーション、魔の三バカトライアングル。」それを聞いて三バカの一人は言った。「三バカっすか!?ありがとうゴザイマス!しかしここはバカを統べるためFUMOさんも是非3バカに参加していただきたいデス!」バカは嬉しそうだ。オレは訊いた。「なんだ、オレを入れて4バカってことなのか?」「いえ、そうじゃなく、FUMOさんはバカの頂点に立つ伝説のバカ、そして我々を見守るオブザーバカ、影のバカ、バカのご意見番、バカご隠居、そしてバカ実力者として、影になり日向になりオレ等若輩バカを見守って欲しいのデス!」…おお。バカのわりに言う事が達者だ。さすがオレが見込んだバカだけのことはある。このオレは、バカが目指すバカ、バカも惚れるバカということになるのだろうか。我ながら面映い。これからも人に恥じぬ一人のバカとして日々精進してゆく事を心に固く誓ったオレなのであった。(…だからさ。冗談なんだってば)
しかしこれは若手のみの話である。先も書いた通りオレの会社にはまだまだ鬼神のようなバカ、魔神のようなバカ、疫神のようなバカなど、恐るべきバカ達がごんずい玉のようにひしめいているのだ。しかしそれらは全て同僚であり、ここで語ると祟りなし大いなる災いを運んでくること必至なのであえて沈黙を守るオレなのである。

さて、ところでこの文章には何回「バカ」が使われたでしょう?

同姓の因果律

オレの会社はどうも同姓の奴が多いんである。「佐藤」や「鈴木」や「田中」など、ありふれた苗字ならありえるのかも知れないが、それほどでもない苗字の人間が、多いときは4、5セット存在した。割と珍しい名前の人間が同姓同名で存在したこともあった。漢字は違うが読みの似た人間とか、ある人間の渾名と同じ名前の人間が入社してきたりした。紛らわしくてしょうがない。
これは確率的にどんなものなのだろうか?こうも頻繁に同姓の人間が複数存在すると言うのは、何か確率を超えた奇妙な因果律の偏りがあるのではないか?因果律の偏り。即ちそれは「呪い」である。事務所にいると妙なバイアスを感じる。空気が重い。このなんともいえない嫌な感じは、なにかに呪われている、在りうべからざる偶然性の偏向が存在する、そんなふうに取れないか。
…なーんてね。「呪い」なんて冗談であるが、よっく人の辞める会社であることは確かだねえ。