激しい雨が降る

今まで何処に行っていたのだ、私の青い瞳の息子よ
何処に行っていたのだ、私の大事な息子よ
霧の立ち込めた十二の山々の中腹で躓き
曲がりくねった六つのハイウェイを 足を引きずって歩き
鬱蒼とした七つもの森林の中に足を踏み入れ
1ダースもの死に絶えた大洋を前にして
一万マイルも旅した後の辿り着いた所
そこは墓地の入り口だった

そして、また今日も
いつ止むとも知れず
激しい雨が降り続いている

――"A Hard Rain's A-Gonna Fall"〜lyrics:Bob Dylan

ブライアン・フェリーの1stソロ、「愚かなり、わが恋」の1曲目はこのボブ・ディランの曲のカバーだった。ディランのフォークギターで奏でられるプロテスト・ソングが表情豊かで軽快なポップ/ロックンロール・ソングに生まれ変わり、フェリーのポップ・シンガー/ポップ・アーティストとしての才能の豊かさを思い知らされた1曲だ。特に後半の畳み掛けるように重ねられる言葉、歌声は圧巻だ。しかし、それよりも、ボブ・ディランという人が何故これほどまでに評価されているのか、その凄みに満ちた歌詞を読んで納得できた。これは英語が判らないと伝わりづらいものがあるから、日本でディランは受け入れられ難いのだろうな。
フェリーのこのアルバムは他にもビーチ・ボーイズビートルズローリング・ストーンズなど王道と言っていいアーチストのカバーで占められ、カバー・アルバムとしても高品質のクオリティに仕上がっている。全体的にオールディーズ風にアレンジされており、その力の抜けた演奏が小気味良い。
そしてラストのタイトル曲「愚かなり、わが恋」。これは涙無しには聴けない切なさに満ちた名曲。かつての恋人と過ごした日々の、細々とした記憶。視覚や、聴覚や、嗅覚などに、小さく小さく断片化されて残る“あの日々”の思い出。
隣の部屋から聞こえてくるピアノの音色
僕の愛を伝えようとためらいながら語った言葉
僕の心は今もときめく
これらの小さな事が
君との思い出を呼び起こす
細々とした記憶が君の事を思い出させる、と歌う歌詞には、しかし、あまりにも豊かにそして数多く、この現実の諸情景が切り取られている。それも、語っても語り尽くせないような数々の思い出が。「これらの小さな事が」と歌ったこの曲は、実は、「この世界の全てが、君の思い出に満ちている」と歌っているんじゃないだろうか。

These Foolish Things

These Foolish Things

ポラロイドを持った紳士

雨降りで思い出すアルバムのもう一つはジャパンの「孤独な影」、原題が「Gentlemen Take Polaroids」。アルバムジャケットが、稲光の射す土砂降りの雨の中を、ボーカルのデヴィッド・シルヴィアンが蒼白の化粧をした顔で傘を差している、といったもの。なぜかこのアルバムジャケットの絵が好きなんですよ。
このアルバムの発売がオレの18の春だった。東京に上京したてのオレは発売されたばかりのソニーウォークマンにこのアルバムを録音したカセットテープを詰め、何処に行くにも聴いていたような気がする。あの頃、東京は雨ばかり降っていた。そもそも上京したその日が雨だった。
凍るような雨にけぶる灰色のコンクリートの街並みとどんよりとした灰色の空。街行く人たちは色彩の無い洋服を着て、雨の中では保護色のように目立たなかった。そしてヨーロッパのインテリジェンスを感じさせるジャパンの憂鬱で冷え冷えとした旋律は、異邦としか思えない見知らぬ街で雨に打たれながらさ迷い歩くオレの心に奇妙に沁みた。
そして、もう20数年も経った今でも、雨降りにはこのアルバムの事を思い出す。アルバムには、坂本龍一が参加している曲もあります。

Gentlemen Take Polaroids

Gentlemen Take Polaroids

何故愛してはいけないの

雨降りの曲をもうひとつ。80年代ニュー・ウェーブの異端児だったブロンスキー・ビートの1stアルバム、「Age of Consent」。ブロンスキー・ビートは実はゲイ・バンドだった。「ゲイだという理由だけで何故人を愛してはいけないの?」という苦しみと悲しみに満ちた歌詞をデジタル・ビートに乗せて歌っていた。兎に角ボーカルのジミー・ソマーヴィルのファルセット・ヴォイスの歌声が良い。胸に突き刺さるような彼の悲嘆に満ちた歌声を聴けば、ゲイ差別がいかに間違っているか誰しも気付くだろう。愛すると云う事が価値があり素晴らしい事なのだというのなら、ストレートであろうとバイであろうとそれは等しく甘受できるべきであり、人を愛する気持ちに変わりは無いではないか。彼の歌声はそう語っている。
雨降りの曲、はRimixアルバム「Hundreds & thousands 」に収められていた「Hard Rain」という曲。暗く重いシンセの音に悲鳴のようにも聴こえるジミー・ソマーヴィルのファルセット。絹の裂けるような声、というのはまさしくこの声なのだと思う。「あなたには何が出来るの?」と問いかける曲のラストは鳥肌ものです。
歌詞の内容自体は政治的なものであり、戦争について歌ったもののように思えるが、この社会で差別を受けたことがある者が、民主主義に不信と疑問を感じ、それがいつでも容易くファシズムへと変貌する不安を感じとるのは当然の帰結かもしれない。現在このアルバムの曲は1stアルバムにカップリングされている。
(ここで全曲が聴けます:http://www.stereosociety.com/hundreds.html

The Age of Consent

The Age of Consent