■孫文の義士団 (監督:テディ・チャン 2009年香港・中国映画)
辛亥革命前夜である1906年のイギリス領香港。武装蜂起を促すため、革命家・孫文が極秘裏に来航するという情報が流れる。映画『孫文の義士団』は、その孫文を巡り、彼を亡き者にしようと清朝が差し向けた500人の暗殺団と、それを阻止せんと立ち上がった8人の名も無き勇者たちとの、血で血を洗う死闘を描いた物語です。
いやー、興奮させられました。しかしね、ぶっちゃけオレ、この映画観るまで孫文のことをちゃんと知りませんでした…スイマセン…。後で調べましたが、辛亥革命後に「中華民国」が成立して、それが東アジア初の共和国で、でもその後の国共内戦により1949年に共産主義政党による一党独裁国家の中華人民共和国が樹立された、という経緯も知りませんでした…。だから映画の最初の、「清朝を倒して中国を民主化に」っていうのが意味が分かんなかったりしてたんですね。中国って清朝のあとすぐ共産化したと思ってたんですよ。『ラスト・エンペラー』とか観てるくせに、あの映画でもそれすら理解してなかったってことですね。無知を戒める為にここに白状しておきます。
そんな孫文を守る為に様々な人々が集まります。しかし彼らは決して全員が革命の理想に燃える志士というわけではなく、それぞれがそれぞれの理由により、結果的に孫文警護の戦いに挑むことになるのです。孫文が来航するまであと5日、この5日の内に"孫文の義士団"が一人また一人と志願してゆくさまが描かれてゆきます。その"義士団"の主要メンツはこんな感じ:
・博打好きが祟って女房に離縁されたスパイ警官 / シェン・チョンヤン(ドニー・イェン)
・革命に翻弄される商人 / リー・ユータン(ワン・シュエチー)
・してはいけない恋に身を滅ぼした物乞い / リウ・ユーパイ(レオン・ライ)
・愛と忠義に身を捧ぐ車夫 / アスー(ニコラス・ツェー)
・復讐を誓った歌姫 / ファン・ホン(クリス・リー)
・少林寺出身、身長211センチの腐豆腐売り / ワン・フーミン(メンケ・バータル)
・理想に燃える気高き活動家 / チェン・シャオバイ(レオン・カーフェイ)
・王朝から追われる元将軍 / ファン・ティアン(サイモン・ヤム)
・国の未来を誓う商人の息子 / リー・チョングァン(ワン・ポーチエ)
物語前半の1時間あまりは彼らそれぞれの人物背景がじっくりと説明され、そしてどのようにして"義士団"に志願したのかが描かれてゆきます。派手目のアクションは1回ぐらいしか無く、人によってはこの前半部が長いと感じる人がいるかもしれません。しかも、"義士団"たちの抱えるそれぞれのドラマが、もう、あざといぐらいに【死亡フラグ】立ちまくりで、いやーここまであからさまだと逆につべこべ言えなくなるから不思議です。これと同じドラマ展開のものを日本で作ったらボロクソに言うでしょうが、日本のドラマにありがちなウェットさがそれほど感じないんですよ。
そしてこのじっくり描かれたドラマパートで観ることの出来る、当時の香港を余すところ無く再現した壮大なセットが素晴らしいんですね。セットのみならず、衣装や小道具などが、徹底的にホンモノっぽく揃えられているんです。なんでもこのセットを作るだけで8年掛かったのだそうです。
・非情なる暗殺団の首領 / ヤン・シャオグォ(フー・ジュン)
・狂気に満ちた暗殺団のNO.2 / チェンシャン(カン・リー)
これがまた、揃いも揃って極悪非道残忍冷酷なこわーーい顔してるんだわ!ちびってまうでしかし!プロダクション・ノートによるとわざわざ特殊メイクまでしているんだそうです。まさに悪役として見劣りしないおっかなさです!
さていよいよ孫文が港に着きます。孫文が香港に滞在する時間は1時間。孫文はこの時間を、革命分子の指導者たちとの密談に当てるのです。そしてこの1時間、"義士団"たちは敵の猛攻から孫文を守りぬかなけれならないのです。前半のじっくり描かれた人間ドラマパートから一転、ここからは500人の暗殺団対義士団との、血で血を洗う死闘が開幕するのです!もういきなりテンションあがりまくりですよ!後半のこのアクションまたアクションの連続は映画史上に残る壮絶な1時間といえるのではないでしょうか!?
この時、香港の町はまさに戦場と化すのです!人力車に乗った孫文を襲う刺客また刺客!建物の上階にはボウガンを持ったスナイパーが所狭しと並び、雨あられと弓矢を射る!道々には凶器を携えた暗殺者たちが血に飢えた目を輝かせ野獣のように襲い掛かる!それに対し義士団たちは力のあるもの、力の無いもの、それぞれが、持てる技量と執念で、命を掛けて戦うのです!多勢に無勢の中、鬼神の如く敵の前に立ちはだかり、文字通り身を挺して戦う義士団たち!これでもかと描かれるド迫力の剣戟、クンフーの波状攻撃には息つく暇もありません!しかーし!ここで例の【死亡フラグ】が大発動し、彼らは志半ばにして、無念を胸に倒れてゆく!この後半の悲壮感っていったらありません!ただちょっとあざとい!しかし熱い!だけどあざとい!あざといけど熱い!映画『孫文の義士団』はそんなてらいも無い演出が逆にストレートに胸に迫る、とてつもなく熱いドラマなんですよ!!