『ミスター・メルセデス』続編となるキングのミステリー長編『ファインダーズ・キーパーズ』

■ファインダーズ・キーパーズ(上)(下)/スティーヴン・キング

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少年ピートが川岸で掘り出したのは札束と革張りのノートが詰まったトランクだった。父が暴走車によって障害を負ったピートの家では、毎晩のように両親がお金をめぐって喧嘩をしていた。このお金があれば、両親も、そして妹も幸せになれるに違いない。ピートはお金を小分けにして、匿名で自宅に郵送しはじめた……  そのカネは強盗モリスが奪ったものだった。アメリカ文学の傑作とされる小説を発表後、筆を断って隠棲する作家ロススティーン。その家を襲い、カネとノートを奪ったのだ。モリスにとって大事なのはカネだけではない。膨大な数のノート。そこには巨匠の未発表の文章が記されている。ロススティーンの小説に執着するモリスにとって、そのノートこそが何ものにも代えられない価値を持っているのだ……  強盗と少年、徐々に近づいてゆく二人の軌跡が交差するとき何が起こるのか? スティーヴン・キングがミステリーに挑んだ傑作『ミスター・メルセデス』続編登場。幻の小説に執着する犯罪者の魔手から、退職刑事ホッジズと仲間たちは家族思いの少年ピートを守ることができるのか?

S・キングの新作長編『ファインダーズ・キーパーズ』は日本では去年発売された『ミスター・メルセデス』の続編になるのだという。『ミスター・メルセデス』は「キング初のミステリー」という触れ込みだったが、そんなわけでこの『ファインダーズ・キーパーズ』もミステリ作品となる。

前作との繋がりは前作と同じく私立探偵ビル・ホッジズとその仲間たちが登場し事件を解決する部分と、前作における"ミスター・メルセデス事件"がこの作品で起こる事件と微妙に関連性を持つという部分だ。また、物語構成においては前作では物語の中心的な存在であったビル・ホッジズが今回ではあくまで探偵という裏方に回り、その分今作の事件に関わる者同士の確執が中心として描かれることになる。

とまあ、そんな『ファインダーズ・キーパーズ』だが、はっきり言って、つまらなかった。ちょっと怒って表現すると、「愚作」だった。実のところ、前作『ミスター・メルセデス』も、相当につまらない作品で、オレは「これはダメなほうのキングだな」と思ったのだが、こうして見ると、「キングのミステリはそもそもつまらない」ということになってしまうかもしれない。そしてどうつまらなかったかというと、これが『ミスター・メルセデス』と全く同じ理由でつまらなかった。

 『ミスター・メルセデス』の感想と全く重複するが、なにしろ「登場人物にまるで魅力が無かった」。「ミステリとして稚拙でうんざりさせられた」。「物語の登場人物ってぇのが退職警官も殺人鬼も含め誰も彼もが愚鈍」。「ミステリなのにもかかわらず、「切れ味のいい所」が全く無い人物像ばかり」。私立探偵ビル・ホッジズとその仲間たちは前作ではまだそれぞれのドラマを背負っていたが、今作では誰も彼もが存在感が薄く探偵稼業に冴えた部分が皆無でそもそも事件に何か役に立ったのかさえ覚束ない。

殺人鬼に至っては前作が「不幸な人生へのルサンチマンに癇癪起こしているだけのマザコン野郎」だったのが、今作では「小説に入れ込み過ぎて作家をぶっ殺してしまう幼稚なこじらせ厨二野郎」というなんともうんざりさせられるキャラだった。要するに単なる薄馬鹿で、黒光りするようなデモーニッシュさや狂気や殺人鬼ならではのカリスマ性が鼻毛の太さ程も無いのである。これでは少しも盛り上がらない。 

 なんといっても解せないのは物語の大元となる天才作家ロススティーンが引退後なぜ書き溜めた小説を発表しなかったかだ。ロススティーンは著作『ランナー』シリーズ3部作でアメリカ文学界に巨大な足跡を残すことになったそうだが、引退後その続編を書きながら発表していなかったという。そして発表していなかったばかりに狂信的ファンであるモリスに強盗に入られ命まで落とすことになる。物語ではそこで奪われた"続編"は相当な完成度だったという。

そこまで完成した作品をなぜ死蔵していたのか。この辺の説明がまるでない。作家の習性などオレには分からないが、成功した作家が精魂掛けて書き上げ、さらに決して不出来ではなかった作品を発表しないなんてことがありえるのだろうか。さらに言ってしまえばそこまで素晴らしい文学作品を書きあげた男が物語の中では実につまらない、年老いた下卑た男でしかない。素晴らしい作品を書く文学作家が誰もが崇高であるとは思わないが、少なくとももう少し知的であってもいい筈ではないか。結局、このとっかかり部分がオレにとって説得力皆無だったせいで、『ランナー』シリーズにとりつかれた狂信的ファンの凶行という物語が最後までずっと白々しかった。

とまあ、徹頭徹尾罵詈雑言しか思いつかない感想なのだが、この「私立探偵ビル・ホッジズ・シリーズ」は3部作になっており、つまりもう1作完結編が残されているという訳なのだ。ここまで文句だらけのシリーズなら第3部など読む気もしないものだが、しかし、なぜかこれが、とても楽しみなのだ。だってさ!?この『ファインダーズ・キーパーズ』のラスト!?あれはキタネエよなあ!?あれじゃあ絶対キング・ファンは「うわあああ続き読みてええええ!!!」ってなっちゃうよな!?なんだよ結局またキングの掌の上で転がされているのかよ!?だから次作も絶対読みますから早く出してください文藝春秋白石朗様!!!!

最近読んだコミック

波よ聞いてくれ (4) / 沙村広明

まあ1巻目のときから書いていたような気がするが沙村広明というのは基本的に天才なのでその天才がやるとコメディですらこのような超高密度で息つく暇すら与えないとんでもない(しかも類を見ない面白さの)作品になってしまう、といういい例なのだが、こんな凄まじい作品にもかかわらず意外と気楽に描いているような気さえするのは常に1000%の能力で描いている作者が今作は900%ぐらいで描いているからなのだろうが、それでもなお常人の9倍のパワーを持つという恐るべき事実は隠しようもないのである。

プリニウス(6)/ヤマザキマリとり・みき 
プリニウス 6巻 (バンチコミックス)
 

 この6巻ではプリニウスはアフリカへと渡り一方ローマでは皇帝ネロの周囲がゴタゴタドロドロとしまくっている。そして例によって相変わらず熱量の低い物語で、アフリカとローマが舞台でも画面は暗く寒々としている。そこが毎回、なんだかなあ、と思ってしまうのである。

エリア51 (15) /久正人
エリア51 15 (BUNCH COMICS)

エリア51 15 (BUNCH COMICS)

 

遂に完結しましたね。万感胸に迫る最高の大団円でした。

■ジャバウォッキー1914 (3) / 久正人
ジャバウォッキー1914(3) (シリウスKC)

ジャバウォッキー1914(3) (シリウスKC)

 

え、まだ3巻だったっけ?と思っちゃうぐらい内容の濃いいつもの久正人です。

いぬやしき(10) / 奥浩哉
いぬやしき(10) (イブニングKC)

いぬやしき(10) (イブニングKC)

 

まあ、もともと内容の無いお話でしたが、この最終巻も驚くほど内容が無いです。

毎日かあさん 卒母編 (14) / 西原理恵子
毎日かあさん14 卒母編

毎日かあさん14 卒母編

 

あ、これも最終巻ですか。丸くなったサイパラはどんどんあざとくなってきててもういいかな。

いとしのムーコ (11) / みずしな孝之
いとしのムーコ(11) (イブニングKC)

いとしのムーコ(11) (イブニングKC)

 

いつもの可愛らしいムーコです。しかし篠原さんの本命がうしこうさんだったとは意外です。ってか篠原さん可愛い。

僕だけがいない街 (1)~(9) /三部けい

実は相当話題になった作品だとか映画化アニメ化したとか全く知らず、Twitterでフォロワーさんが面白かったと言っていたのだけを読んで古本を全巻購入しました。評判通り面白かったのと、主人公が驚くほど前向きなのに感心しました。それとこの古本、8巻までレンタル本の転用だったんですが、9巻が新刊か古本で足されていて、マーケットプライスで全巻売るのもいろいろ大変だなとちょっと思いました。

■そせじ (1)~(3) / 山野一
そせじ(1)
 
そせじ(2)
 

ねこぢるyこと山野一の双子育児漫画、Kindle版限定発売です。あの鬼畜漫画家が育児漫画を描くとは意外だったんですが、作者の別の一面を見られたのと同時に育児漫画でも山野はやっぱり山野で、想像以上に面白く読めました。エピソードの視点も独特だし、なによりデザインぽく簡略化された双子のグラフィックが実に愛らしくて、山野の才能の一面を見せられました。双子たちはいつも軟体動物みたいにくねくねとパワフルに動き、この辺の描き方も実によく子供を観察しているなあと思わされました。これもっと話題になってもいいのに。

IFFJで『メイキング・オブ「プレーム兄貴、お城へ行く」』とポポッポーさんのトークショーを観てきた

■メイキング・オブ「プレーム兄貴、お城へ行く」[原題:That's What It's All About: The Journey of Prem Ratan Dhan Payo] (監督:ヴィディ・カースリーワール 2016年インド映画)

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IFFJでドキュメンタリー『メイキング・オブ「プレーム兄貴、お城へ行く」』とインド映画ブロガー、ポポッポーさんのトークショー『ポポッポーのお気楽インド映画話』を観てきました。まずは『メイキング・オブ「プレーム兄貴、お城へ行く」』。

『メイキング・オブ「プレーム兄貴、お城へ行く」』は2015年にインドで公開され大ヒットを飛ばした映画『プレーム兄貴、お城へ行く(原題:Prem Ratan Dhan Payo)』のメイキングです。

物語は大雑把に言うと「ある理由から王子様と平民の男が入れ替わっちゃう!?」というもの。主演はインド映画界の大スター、サルマーン・カーンとソーナム・カプール。そして監督はスーラジ・バルジャーティヤ。煌びやかなインドの大宮殿とそこで繰り広げられる愛憎乱れる大スペクタクルが見所で、オレも大好きな映画です。

ちなみにこの『メイキング・オブ「プレーム兄貴、お城へ行く」』監督のヴィディ・カースリーワールは『プレーム兄貴、お城へ行く』監督のスーラジ・バルジャーティヤの姪御さんなんだとか。この方は実はLandmarc filmsのCEOで、今年のIFFJ公開作『幸せをつかむダイエット』のプロデューサーでもあるんです。

インド映画の製作現場は、インド映画DVDの特典などでたまに見かけますが、こうして字幕付きで1時間しっかり見せられるとなるとまた感慨もひとしおです。ましてや『プレーム兄貴、お城へ行く』ほどのビッグバジェット作品ともなると、非常に手間暇かけて作られており、驚かされることが大変多いんです。素晴らしい音楽、荘厳なセット、表現力豊かな俳優、心躍らせる物語、映画というものがどれほど総合芸術であるのかが伺い知れるというものです。そして、それらを作り上げる人々の映画がこの『メイキング・オブ「プレーム兄貴、お城へ行く」』というわけなのです。

併せて、サルマーン兄ィやソーナム・カプール様、そして監督スーラジ・バルジャーティヤのインタビュー・シーンなどを見るにつけ、「ああ、もう一度この映画観たい!」と思ってしまうこと請け合いです(しかし……Blu-ray持ってるんですがこないだ引っ越した時どこに仕舞ったのか分からない……)。サルマーン兄ィはいつものように頼もしいし、ソーナム・カプール様を映画館の大きな画面で観られるのは眼福この上ない!

そして、スーラジ監督が、なんだかとっても仕草の可愛いオヤジなんです!これ、2016年のIFFJ開催の時のオレの記事、『本日開催!インド映画祭IFFJ上映作品はこんな監督が撮っている! - メモリの藻屑 記憶領域のゴミ』におけるスーラジ監督の【オヤジ評価】にぴったり当てはまってるんですね!

■『プレーム兄貴、お城へ行く』監督:スーラジ・バルジャーティヤ


スーラジ・バルジャーティヤ(Sooraj Barjatya)1964年2月22日ボンベイ生まれ(52歳)
主な監督作:『Maine Pyar Kiya』(1989)、『Hum Aapke Hain Koun..!』(1994)
【オヤジ評価】いい具合のハゲ、いい具合のヒゲ。肌はツヤツヤととしてなかなかに健康そうなオヤジです。きっと性格もまったりと穏やかな方なのではないでしょうか。スーラジ・バルジャーティヤ監督は非常に「オヤジ」という概念の中庸を行く「いい具合のオヤジ」ということができるでしょう。
オヤジ度 ★★★★
油ギッシュ度 ★★
侘び寂び度 ★★★

どうですか。オレの人物評価の確かさは。

そしてもうひとつ興味深かったのは、スーラジ監督とサルマーン兄ィがかつてコラボしたインド映画の名作2作の映像が流れたことですね。その二つのタイトルは『Maine Pyar Kiya』と『Hum Aapke Hain Koun..!』。

この2作が優れた作品なのは言うまでもないことなのですが、なによりも、こんなインド映画のクラシック名作を、ほんの少しの時間とは言え、映画館の画面で見られたことがとっても嬉しかったんです!いや~、映画はやっぱり映画館で観るものですね……。

これ観て思ったんですが、今度IFFJ上映作に1作でいいからインド映画の古い名作映画を混ぜてくれないかなあ……それも大スター出演、歌と踊り満載をヤツを!(まあしかし古いインド映画って著作権の怪しいパクリが微妙に多くて難しいかもな……)

( ↓ IFFJのHPにも貼ってなかった 『メイキング・オブ「プレーム兄貴、お城へ行く」』のプロモを貼っときます!)


Thats What Its All About Promo | Landmarc Films | Sooraj R. Barjatya

■ ポポッポーさんのトークショー『ポポッポーのお気楽インド映画話』

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 『メイキング・オブ「プレーム兄貴、お城へ行く」』上映終了後にはインド映画ブログ『ポポッポーのお気楽インド映画』主催のポポッポーさんによるトークショーが開催されました。

このポポッポーさん、インド在住でインドで公開されたばかりの最新ボリウッド映画をガンガン紹介されている方で、毎回平易な文章で実に要点を得た的確な批評を書かれており、知識も豊富でオレもインド映画観始めの頃からとことん参考にさせていただいておりました。もうインド方面に足を向けて寝られないほどです!この方がいなかったらオレはインド映画に関する感想文なんか書いていなかったでしょう。

今回はスライドを交えながら「プレーム兄貴の話」「IFFJ公開作の紹介」「最新ボリウッド映画のトレンド」の3つを紹介されておりました。ポポッポーさんの話を聞きながらいちいち頷いていたオレはそんな自分の姿に「ハッ!?TVの公開収録でこんな全速力で頷いているオバサンがよくいる!?」と突然気付いてしまい一瞬固まってしまいました!

なにより面白かったのは「最近のボリウッド映画不振の理由」でした。年初めに公開された『ダンガル』と『バーフバリ2』が空前の大ヒットを飛ばしたばかりに、それを超えられるような作品が作れなくなってしまったというんですね。オレも実は「今年のボリウッド映画ってなんだかつまんないなあ」と思っていたんですが、スッキリ説明されて妙に腑に落ちてしまいました。それと、去年の実録モノに飽きて今年はローカルが舞台の映画やコメディが来る、という話も実に分かるなあ。オレも実録モノ、ホントに飽きてたもの。どちらにしろ、年末にかけてまた楽しい映画が公開されるといいですね!

そんなこんなでたっぷり充実したトークショーも終わり映画館ロビーに出たら、なんと主催者の方に紹介されてポポッポーさんとお話できる機会までありました!いやあ、こんな零細ブログでインチキ極まりないインド映画紹介しているオレとしては恐縮しまくりですよ!知ったこと書いてますがオレのインド映画の感想なんて殆ど思い付きと当て推量なんですから!もう申し訳なさすぎで穴があったら入りたいぐらいでしたよ!こんな見ず知らずのオレと温かく接して下さったポポッポーさん本当にありがとうございました!