SFアンソロジー『星の海を駆ける 新世代スペース・オペラ傑作選 』を読んだ

星の海を駆ける 新世代スペース・オペラ傑作選 / ジョナサン・ストラーン(編)、中原尚哉・他(訳)

星の海を駆ける 新世代スペース・オペラ傑作選 (創元SF文庫)

20万年がかりの銀河周回の完了を祝うイベントで知らされる、驚愕の真実(ベラドンナの夜)、小惑星帯に隠れ住む巨大知的マシンのきょうだいはある日、謎のドローンに捕らわれ……(金属は暗闇の血のごとく)。19世紀末に原型となる作品群が現れてから130年あまり、ダイナミックな変化と進化をつづけるスペース・オペラをテーマに、アン・レッキー、アレステア・レナルズ、アーカディ・マーティーン、T・キングフィッシャーなど、近年のヒューゴー賞やネビュラ賞の受賞作家ら錚々たる面々が集結した、ローカス賞最終候補の傑作アンソロジー!

『星の海を駆ける 新世代スペース・オペラ傑作選』は、近年のヒューゴー賞やネビュラ賞を受賞した作家たち14人が集結した、現代スペース・オペラ短編アンソロジーである。アンソロジストは、これまで『創られた心:AIロボットSF傑作選』や『シリコンバレーのドローン海賊:人新世SF傑作選』を手がけたジョナサン・ストラーン氏。ローカス賞最終候補作としても注目を集め、壮大な宇宙冒険から内省的な人間ドラマまで、多彩な「新世代スペース・オペラ」14作品が収録されている。

スペース・オペラといえば、私のようなロートルSFファンにとっては、エドガー・ライス・バロウズやエドモンド・ハミルトン、E.E.スミスらが描いた、荒唐無稽でスケールの大きな冒険活劇のイメージが強い。しかし1970年代以降、フランク・ハーバートやラリー・ニーヴンらによって社会的テーマやハードSF的視点が取り入れられ、映画『スター・ウォーズ』の大ヒットによって一気に市民権を得た。その後、80〜90年代にはオースン・スコット・カードやダン・シモンズによって文学性が加わり、2000年代以降はジョン・スコルジーやマーサ・ウェルズの登場で、より多くのカジュアル層を取り込むようになった。

この流れは、同時にスペース・オペラというジャンルが大きく細分化・多様化したことを示している。本書でもその傾向が顕著だ。古典的なスペース・オペラのイメージとはかなりかけ離れた、個性的で実験的な作品が並んでいる。正直、「これもスペース・オペラと呼んでいいのか?」と首を傾げてしまう作品も少なくなかった。しかし本書の解説にある「人類が光速の限界を超え、大宇宙の彼方に飛び出す未来を描いた冒険小説」という定義に照らせば、どれも外れてはいないと言える。

全体の印象としては「多彩であると同時に、かなり好みが分かれる」というのが正直なところだ。面白さよりも、むしろ強烈な「風変りさ」や「異質さ」が強く印象に残る作品が多い。ここに描かれる遠未来の銀河世界では、社会も倫理も習慣も、そして人類の形態や生命観、思考そのものまでが大きく変貌しており、まさに「銀河世界という名の圧倒的な異世界」が広がっている。逆にそのせいで、描かれた世界が理解できるまでの最初の数ページが非常にとっつき難い作品も多かった。

造語を多用し、徹底的に「異質さ」を演出した社会形態が描かれる一方で、ゴシック調の銀河帝国、宇宙規模に拡大した宗教世界、LGBTQを軸にした物語、さらには古典スペース・オペラの現代的パロディなど、バラエティに富んだ作品が収録されている。結果として、本書は「懐かしい王道スペース・オペラをもう一度味わいたい」という人よりも、「現在のSFがどこまで進化し、どこまで異質な宇宙を描けるのか」を楽しみたい読者に向いている一冊だと感じた。