近代日本洋食史『なぜアジはフライでとんかつはカツか?』を読んだ

なぜアジはフライでとんかつはカツか?: カツレツ/とんかつ、フライ、コロッケ 揚げ物洋食の近代史 / 近代食文化研究会 (著)

なぜアジはフライでとんかつはカツか?: カツレツ/とんかつ、フライ、コロッケ 揚げ物洋食の近代史

カツレツ/とんかつ、魚介類のフライ、コロッケ……揚げ物洋食の歴史を解き明かし、嘘・間違いだらけの日本西洋料理史を、膨大な資料をもとにゼロから書き直す

『なぜアジはフライでとんかつはカツか』は表題にある疑問を解題してゆくだけでではなく、明治時代以降日本に入ってきた”洋食”の真のルーツを探りだし、またそれがどのような曲折を経て日本人の舌に受け入れらてきたかを解き明かす著作である。

本書ではまず”とんかつ/カツレツ”の呼称のルーツを洗い出すが、ここではフランス料理「コートレット」起源説、ドイツ料理「ウィンナー・シュニッツェル」起源説はいずれも捏造された嘘だと言明する。ではなにかというと「カツレツ」の本来の意味はイギリス料理にある"Cutlet"からきたものなのだという。

これはまず、開港時代に残された日本最古の洋食レシピはイギリス料理でありそこにCutletが記載されていること、そもそもイギリスにおいて19世紀までは食材にパン粉をはたいて揚げる料理は非常に一般的な家庭料理であったこと、その後の日本の洋食文化発展においてもフランス料理などよりもイギリス料理のほうが容易な食材調達などの理由から広く一般に受け入れられてきたことが挙げられている。これはネットをひっくり返しても出てこない説なので実に面白い。

さて「なぜアジはフライでとんかつはカツか」ということだが、これは"Cutlet"が料理名ではなく食材の形状(ラムチョップのような勾玉状の形状)を指す言葉で、この”Cutlet形状の揚げた豚肉”=揚げた豚肉=カツレツとして流布してしまったということらしい。だから”豚肉のフライ”ではなく”カツレツ”なのだ。

なお現在イギリス料理というと一般的に”不味いもの”というイメージが強いが、実は産業革命が社会を変えるまで一般中流家庭では数人の使用人を抱えて家庭料理を作らせるほど豊かな食生活を送っていた。その中には現在イギリスでは姿を消してしまった”とんかつ/カツレツ”が普通に存在していたのだ。しかしこれが工業化による労働人口の変化と食品流通の変化により、使用人を使った料理文化が壊滅し、それにより現在言われる”不味いイギリス料理”へと行きついてしまったのである。

ちなみにスパゲッティ・ナポリタンはイタリア料理じゃないと言われるが、実はもとはフランス料理の「スパゲッティ・ア・ラ・ナポリテーヌ」が日本に伝わり、ナポリタンと呼ばれるようになったのだとか。フランス料理ではトマト味付け料理を本当のナポリとは何も関係なくナポリテーヌ=ナポリ風と呼ぶらしい。