ニール・ゲイマンのダークファンタジーコミック『サンドマン 序曲』を読んだ

サンドマン 序曲 /ニール・ゲイマン (原作)、J.H.ウィリアムズⅢ(画)、柳下毅一郎 (訳)

サンドマン 序曲

サンドマンシリーズの前日譚。シリーズが終了した1996年から17年後の2013年に刊行された。6部構成で、銀河の誕生からドリーム(サンドマン)が魔術教団に捕らえられる瞬間までが描かれている。2016年ヒューゴー賞「最優秀グラフィック・ストーリー賞」受賞。 原作: The Sandman: Overture 30th Anniversary Edition

サンドマン』、それはイギリスの幻想文学作家ニール・ゲイマンが原作を手掛け、人類の集合的無意識に存在する「夢」が具現化した男ドリームを主人公としたダークファンタジィ・コミックだ。現実と識閾下の世界が交差しお互いが侵食し合い、人間の欲望と絶望とが入り混じり合いながら、神話的ともいえる壮大なスケールの物語が展開する作品である。

1989-1996年にかけて発行された本作は絶大な人気を博して世界文学大賞他多くの章を受章、日本でも全5巻+別巻1、併せてノベライズ版が出版され、その後オーディブル版が製作され大ヒット、遂にNetflixでドラマ製作までされた人気シリーズなのだ。

とまあここまでが前振りなんだが、既に完結していたこのシリーズの25周年記念作として2013年に発表されたのがこの『サンドマン 序曲』となる。サンドマンの物語は第1巻においてサンドマンが人間たちに捕縛されてしまう部分から始まるが、この『序曲』においてはなぜそのようなことになったのか、サンドマンはそれ以前に何を行っていたのかが描かれることになる。

そしてその物語とはなんと宇宙消滅の危機だ。マルチバースにおいて発狂した宇宙が発生し、癌細胞の如く全宇宙を虚無へと還そうとしていたのだ。サンドマンはその危機を回避するため狂った宇宙の中心へと旅立ち、夢幻ともいえる物語が展開してゆくのである。ただし展開は決してSF的なものではなく、様々な宇宙存在の意識と夢へ、さらには宇宙の創造主である父母との謁見とを経ながら進む夢幻的な物語となる。

とはいえ物語それ自体は難解でありひどく観念的だ。そもそもサンドマンという存在それ自体が「観念」そのものの具現化であり、同時に「象徴」としての存在だからだ。その彼が対峙する者もまた観念と象徴の具現化した存在であり、即ち観念が観念と対峙して象徴的な出来事が起こり、それらがまた象徴的に収斂してゆく、という体裁になっているのである。そういった訳で結構読み難い。

さらに描かれるグラフィックが変幻自在な技巧を凝らし、あらゆる存在と事象とが液体のように混じり合い溶け合いながら描かれるのだが、技法が一定しないグラフィックを延々と見せられるのは正直煩わしかった。こういった構成は『サンドマン』らしいといえばらしいのだが、楽しめたかと言うとちょっとムムム……ではあったなあ。

サンドマン 序曲

サンドマン 序曲

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