お花見

日曜日は友人に誘われお花見に出掛けた。彼の住む家の近所にある公園の桜が既に満開なのだという。もうじき春とはいえまだ2月、随分早いものだなと思ったが河津桜なのらしい。ソメイヨシノよりも早咲きの桜なのだ。

お花見にはオレとオレの相方、友人と友人の娘さんとで出掛けた。最寄り駅で待ち合わせをし、途中の道すがら友人の奥さんのお骨が収められている納骨堂に寄った。納骨堂というのも初めて訪れたが、今風のクリーンでシステマティックな作りをしていて実に感心した。友人の奥さんは数年前に亡くなられたのだが、生前も懇意にしてもらっていたから、こうしてご焼香を上げられてなにかきちんとご挨拶できた気がした。

到着した公園は結構な広さがあるようなのだが、桜自体は小さな区画にこじんまりと植えられていて、ご近所さんとみられる方々が既にシートを敷いてあちこちで花見に興じていた。オレの一行も手ごろな場所を見つけてシートを拡げ、途中のスーパーで買った軽食などを頬張った。気温はそれなりに低かったが、日差しが照っていたのでそれほど寒さを感じなかった。

友人と会うのは数ヵ月ぶりだったので、その間の近況報告などを交わしたりしていた。とはいえお互いSNSにいるので、なんとなく何をやっていたのかは知ってはいるのだが。友人はいつもこの場所に家族で来ていたのだが、そのうち誰かを誘おうと思っていたのらしい。こうしてどこかに誘ってくれる人間がいるのは嬉しいことだ。オレも相方と桜を見に出掛けたことはあるけれど、他の誰かとこうして花見をするのは初めてだった。

友人の娘さんはついこのあいだ成人式を迎えられていて、友人はその時の彼女の着物姿をSNSに嬉しそうにあげていた。友人一家とはずいぶん前から付き合いがあって、最初に会った頃は娘さんはまだ小学生だった。あの頃は随分と活発なオコチャマで、オレも調子に乗って肩車してあげたり逆さ吊りをキメてあげたりしていたものだった。それが今やすっかりおしとやかなお嬢さんに成長し、大学生でそして成人なのだ。しかも今や就職を心配する時期だというではないか。全く、月日の経つのは本当に早いものだ。 

だいたい、大人同士の付き合いだと、社会や職場や趣味やSNSや健康問題に、ああだこうだとろくでもない意見を交えつつ、こいつも白髪が増えたなあ、皴も増えたなあ、痩せたな太ったなと無言で確認しあうものだ。そしてお互いが年をとったことをこれも無言で認識するのだ。だが、人様の子とはいえ、こうして一人の子供の成長に立ち会うのはどこか感慨深いものがある。世界は年老いていく者だけではなく成長しまだ踏み出していない未来のある者もいるのだということを感じさせてくれる。

お花見を適当に切り上げ、近所の神社をちょいと覗き、その後一杯やっていこうかということになる。商店街を歩いていたら餃子の店があったのでそこに入ることにして、年寄りたちはビール、新成人はまだお酒が慣れないのでウーロン茶を注文し、餃子を手始めにあれやこれやのアテにパクついた。年寄りの酒飲み話もつまらなかろうと、娘さんに大学でどんな授業を受けているのか聞いてみる。彼女は国文学専攻で、オレもまあ本ならなんとなく読むから、話を聞いていると結構面白い。

そもそもオレは大学なんぞ行ってないから、大学で大系的に文学の授業を受けるのも楽しかったかもしれないな、などとあり得なかった人生を想像してちょっと甘酸っぱい気持ちになる。ただ例によって飲み過ぎてしまい、国文学専攻の現役大学生に「やっぱこれ読んどかなきゃあかんぞう!」などと数少ない読書体験の中から知ったかぶった作品タイトルを並べてしまい、あとで素面にかえってからちょっと恥ずかしくなってしまったというのはナイショだ。まあそんな酔っ払いジジイにニコニコしながら「教授に宿題出された!」と冗談で返してくれた娘さんよありがとう。

そんなこんなでさんざっぱら痛飲しお開きという事になり、友人父娘とはお別れに。いやあやっぱり飲み過ぎてしまった。帰って早々に布団に突っ伏し、次の日はゲロゲロ言いながら一日を過ごし、夕方はきちんと酒を抜いて自らを戒めたオレであった。