火山噴火を核爆弾で止めろ!/映画『白頭山大噴火』

白頭山(ペクトゥサン)大噴火 (監督:イ・ヘジュン キム・ビョンソ 2019年韓国映画

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巨大火山大噴火!?

中国・北朝鮮国境に位置する活火山、白頭山が噴火を起こした!韓国でも巨大地震が発生し、甚大な被害を及ぼす。計算ではさらなる噴火が起こり、最終段階において朝鮮半島は壊滅する。これを阻止するためには山腹の坑道で核爆発を起こすしかない!しかし、韓国は核を有していない。それならば、北朝鮮に潜入して核爆弾を奪取するのだ!……こんなとんでもない設定で描かれる韓国産ディザスター・ムービー、それが『白頭山大噴火』だッ!!

 のっけから巨大地震により崩壊してゆくソウルの光景を描いて恐怖をあおりまくり、ここからもう掴みはバッチリ。災害対策本部に召集された地質学教授カン(マ・ドンソク)は「75時間後にさらなる巨大噴火が起こり朝鮮半島は壊滅」と恐るべき予言を言い放ち、「山腹の坑道で核爆発を起こせばエネルギーが逃げて災厄から逃れられる」と提案、そこで召集されたのがチョ・インチャン大尉(ハ・ジョンウ)率いる隠密部隊だ。彼らの使命は北朝鮮に潜入し、秘密裏に隠蔽されている核爆弾を奪取して白頭山で爆破させること。核爆弾の在り処を知るのは二重スパイとして北朝鮮の監獄に収監されているエリート軍人リ・ジュンピョン(ハ・ジョンウ)、部隊はまずは彼を拘束しなければならない。しかしそこで思わぬアクシデントが!?

この『白頭山大噴火』、まず配役が豪華。『KCIA 南山の部長たち』『G.I.ジョー』のイ・ビョンホン、『PMC ザ・バンカー』『神と共に第1章・第2章』のハ・ジョンウ、『悪人伝』『新感染・ファイナル・エキスプレス』のマブリーことマ・ドンソク!韓国映画でお馴染みのこの三人が一堂に会しているのも見所だ。監督は『彼とわたしの漂流日記』でユニークな物語を展開したイ・ヘジュン、『PMC ザ・バンカー』『神と共に第1章・第2章』で撮影監督を務めたキム・ビョンソの二人がメガホンをとり、「エモーショナルなイ・ヘジュン」と「ド派手な見せ場を作るキム・ビョンソ」の、それぞれの得意分野で物語を盛り上げている。

核爆発で噴火を止めろ!

巨大火山の噴火と地震による大災害!というパニック映画は数あるが、それを止めるのに核爆弾を使っちゃえ、という斜め上の発想がなによりビックリさせられる。ホントかよ!?とは思うがまあそこは置いとこう。しかしその爆弾を北朝鮮に潜入して奪っちゃえ!というさらに無茶振りした発想に今度は腰を抜かしてしまう。この「ありえねー!」としか言いようのない力技過ぎる展開に、「これはもう物語に身を委ねるしかない!」と感服させられちゃうんだね。大災害パニック+ミリタリーサスペンス、この「カツカレー+二郎系ラーメン」とでも表現したくなるようなハイカロリーな組み合わせに既にして満腹中枢はMAXだ!

潜入した北朝鮮は大災害により混乱の極みと化し、軍部も民間人も逃げおおせて意外とあっさりリ・ジュンピョンを拘束する。しかしこのジュンピョンが一癖も二癖もある男で、インチャン大尉率いる部隊は好きなように翻弄されまくる。実はインチャン大尉、除隊間際のあまりにも頼りない軍人で、いつもジュンピョンにしてやられてばかり。物語後半はこの二人がいがみ合いながら進行するロードムービーと化し、それにより緊張感は薄れるものの、ここで二人の家族の物語が語られることにより、エモーショナルな奥行きを加味させることに成功しているんだね。

一方、地質学教授カンは早くアメリカに逃げ出したいばかりに半分嫌々ながら職務を遂行するが、この辺りの腰抜けぶりがちょっとしたユーモアをもたらしている。このユーモラスな味わいにはマ・ドンソクのキャラクターが大いに生きていると言っていいだろう。先ほど触れたインチャンとジュンピョンの掛け合いもまたユーモラスで、緩急に富んだ彼らのキャラクターがこの作品をとても人間臭いものにしているんだ。

韓国軍と中国軍と米軍が三すくみ!?

同時に「中国・北朝鮮国境で核爆発を起こす」という韓国側の作戦は、アメリカと中国に国際外交上の緊張を生み出すことになり、この両国がそれぞれの思惑の上で作戦行動中のインチャン大尉部隊に迫ってくる。この辺り、外交コンセンサスがなんにも取れてないのはおかしいだろとは思うが、「韓国軍に発砲する米軍!」とか「北朝鮮の街で韓国軍と中国軍と米軍が三すくみの睨み合い!」とかいうとんでもない状況が展開する面白さは、フィクションならではの卓越した嘘のつき方があったればこそだろう。

そもそも「75時間後に巨大噴火が起こる!」という妙に精度の高い予測自体、よく考えたら十分嘘くさいけど、それにより朝鮮半島滅亡のタイムリミットが設定され、緊迫感を生み出すことに成功している。そういった部分で、大いなるハッタリの連打をアクションと人間ドラマの綿密な演出で気にさせなくさせる、実に秀逸な作品という事ができると思う。そんなわけで『白頭山大噴火』、自然災害の迫真に満ちた特撮映像と、ド派手なミリタリーアクションがつるべ打ちとなった、とっても面白い映画だから、みんなも観に行くといいと思うよ!