オーソドックスに徹した傑作冒険ファンタジー映画『ジャングル・クルーズ』

ジャングル・クルーズ (監督:ジャウム・コレット=セラ 2021年アメリカ映画)

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ディズニー映画『ジャングル・クルーズ』である。なんでもディズニーランドのアトラクションを実写映画化した作品らしい。多分ジャングルをクルーズするアトラクションなのであろう(そのまんまやないか)。ディズニーランドなどという場所にこれまで一度も足を踏み入れた事がなく、今後も未来永劫足を踏み入れる事のないであろうオレが、そのような映画を観ていいのだろうか、と一瞬躊躇したのである。しかし主演がロック様事ドウェイン・ジョンソンというではないか。ううむ観たいぞロック様映画。というわけでこっそり劇場に踏み込んだ(ちゃんと料金を払って)オレなのである。

アマゾンのジャングルの奥深くに「“奇跡の花”を手にした者は永遠の命を手にする」という不老不死の伝説があった。行動力と研究心を兼ね備えた植物博士のリリーは、この秘密の花を求めて危険に満ちたアマゾンへ旅立つ。リリーが旅の相棒に選んだのは、現地を知り尽くしたクルーズツアーの船長フランク。ジャングルに生息する珍しい動物やスリルあふれる先住民の村、滝の裏側など名所の数々を、時にジョークを交えながら観光客相手にガイドしているフランクだったが、彼にもまた、奇跡の花を求める、ある理由があった。「伝説に近づく者は呪われる」と言われる、アマゾン奥地の「クリスタルの涙」を目指してジャングルを進むリリーたち。そこで彼らは恐るべき真実を知り、奇跡の花をめぐる争奪戦に巻き込まれる。

ジャングル・クルーズ : 作品情報 - 映画.com

最初に感想を書いちゃうと、いやー、とっても楽しかった! 大人も子供も楽しめる、という言葉そのままに、すっかり”とう”の立ったむさくるしいジジイであるこのオレですらも、すっかり興奮させられ楽しむことのできる作品だった。これは「ジャングルの奥地にあるという神秘的な謎を探求しに行く!」という極めてシンプルな冒険譚を、驚異に満ちたグラフィックとテンポのいいアクションで繋いでゆき、おどろおどろしい恐怖と怪奇のスパイスを盛り込みつつ、明快なキャラクターたちのドラマで見せていった結果であろう。

背景となる時代は19世紀末~20世紀初頭と目される。まずは冒頭、ロンドンの科学アカデミーにおいて主人公リリーがとあるアイテムを盗み出し、さらにそのアイテムを狙うドイツ軍秘密組織との攻防が描かれ、そのまま物語はアマゾンのジャングルへと飛ぶのだ。リリーの盗んだアイテムはジャングルに眠る「不老不死の花」の所在を示すものとされ、この物語が超自然的な要素を持つことを匂わせる。物語の骨子はジョン・ヒューストンが映画化したセシル・スコット・フォレスターの冒険小説『アフリカの女王』を元にしたとも言われるが、むしろ映画『インディ・ジョーンズ』の傍流にある痛快冒険エンターティメント作品だと言ったほうが分かり易いだろう。

とはいえ、物語が進むにつれこれは『インディ・ジョーンズ』よりはむしろ『パイレーツ・オブ・カリビアン』の流れを汲む作品ではないかと思わせる。『パイレーツ・オブ・カリビアン』はディズニー繋がりという事もあるが、底流するダーク・ファンタジーの要素や、戯画的なまでに単純明快なキャラクター、老若男女誰にでも受け入れられ親しみやすい物語性といった点で共通しているだろう。そういった部分で主演のエミリー・ブラントにしろドウェイン・ジョンソンにしろ、またジャック・ホワイトホールにしろ、明快なキャラといった部分で実に魅力的であった。

さらに、この今時に「アマゾンのジャングルで秘宝探索」などという、ある意味古臭いテーマを、しっかり正面から描き、それを成功させたことに感嘆させられた。ディズニーのアトラクションだからこそ映画化されたのだろうが、他の映画会社では企画にもならなかっただろう。考えてみれば『パイレーツ・オブ・カリビアン』も、ある意味今時な海賊譚をジョニー・デップのキャラとファンタジーテイストを入れることで成功させていたが、こういったオーソドックスなテーマを持つ物語を一般に向けてきちんと描ける部分にディズニーの本領があるのかもしれない。

「ダーク・ファンタジーの要素」と言えば、この物語にはヴェルナー・ヘルツォークが『アギーレ/神の怒り』でも映画化した、16世紀スペインの征服者、ロペ・デ・アギーレが絡んでいる。史実におけるアギーレは黄金の都エルドラドを探してアマゾン川を探索するが、この『ジャングル・クルーズ』ではまた別の役割を与えられている。監督のジャウム・コレット=セラはスペイン人であり、『ジャングル・クルーズ』とこのアギーレの物語を絡めることになにがしかの思いがあったのではないか。少なくとも『ジャングル・クルーズ』のダーク・ファンタジー風味には、監督セラがこれまでホラーやスリラー映画で培ってきた手腕が大いに生かされているように感じた。

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