駄菓子みたいなスリラー小説、ディーン・クーンツの『闇の眼』

■闇の眼 / ディーン・クーンツ

闇の眼 (光文社文庫)

雪のシエラ山中でバス転落。搭乗のボーイスカウト全員死亡…ラスベカスの舞台プロデューサー、ティナが一人息子のダニーを亡くしたのは1年前。が、ティナはまだその死を信じられずにいた。それて、傷心の彼女の身辺に次々と不可解な出来事が…子供部屋が荒らされ、黒板には“シンデハイナイ”のなぐり書き、コンピュータの画面には“ココカラダシテ”の文字…。―ベストセラー作家クーンツが放つモダンホラー

スティーヴン・キングの短編集2冊ととんでもなく長い長編上下巻2冊を読破し、非常に面白かったのは確かだが若干体力奪われ気味でもあったので、「次はちょっと軽めのヤツ読みたい……」と星に願いを掛けたオレなのである。すると空から『ハッピー・デス・デイ』みたいなお面を被った妖精さん( ↓ )が現れて「クーンツとか読めば。知らんけど」と投げやり気味にのたまったのだ。

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という訳でディーン・クーンツ作『闇の眼』である。クーンツといえば『闇のシャドウファイア』とか『ウォッチャー』とかが有名だが「読んだ後何も残らない」という評判もまた確かでかつてキングと並ぶモダンホラーの書き手とまで言われたことがあったような無かったようなホラー作家なのである。それでも以前、クーンツの『これほど昏い場所に』を読んだときはとても面白かったので、「じゃあ今度はクーンツ行ってみっか」と思ったオレなのだ。

物語の主人公はラスベガスで舞台演出家として成功した女性ティナ。しかし彼女は1年前、愛する我が子を雪山のバス事故で亡くすという悲しい過去を背負っていた。そんな彼女の身辺で異変が起きる。「シンデハイナイ」という文字が亡き息子の部屋やパソコンの画面で踊り、さらにはポルターガイスト現象まで起るのだ!いったいこれはなんなのか、悪質ないたずらなのかそれとも霊の仕業なのか?

とまあそんなお話であるが、「へえ、死んだ息子のメッセージにポルターガイストって、要するに幽霊とかそーゆーお話の心霊ホラーなのね」と思ってたら大違い、実はその背後には巨大な陰謀が!?という流れになってくる。こう書くと勘のいい人ばかりが揃ったオレのブログ読者の皆さんは「じゃあそっち系の話?」と思うだろうが実はその通りである。もう「陰謀」って書いちゃったしな!

でまあネタバレはしたくないんだがその「陰謀系」の流れがまた予想の域を出ないまま続く。「陰謀系」に出てきそうな人たちが現れあれやこれやと恐ろしいことをし、主人公ティナの命を脅かすんだがそこに助っ人参上!最初は「ティナの弁護士」として登場するこのおっさんは実は過去特殊工作員だった!?という『96時間』とか『イコライザー』とか『ジェイソン・ボーン』シリーズみたいな安易な驚愕の設定!?そしてまたもや予想通りの展開で突き進むクライマックス!?

といった具合で、実のところレヴュー書く必要も感じないある意味「書き飛ばし小説」といった内容ではある。お勧めもしないしこれ読んだら忘れてくれていい。しかしだ。そうは言いつつ、オレ、これ、結構楽しんで読んだんだよな。なんていうんだろう、ありがちな設定や展開とご都合主義で組み立てられた新味も何も無い三文お手軽サスペンスなんだが、だからこそ逆に安心して読めたという部分があるんだよな。気持ちよく読み飛ばせるんだよ。

それは主人公の不安や願い、人となりを(ありきたりとは言え)きちんと書いているからなんだよな。超絶的に面白いわけではないが途中でぶん投げたくなるほど退屈ではないんだよ。そもそも最後まで飽きずに読めたし、そういった作品を悪しざまに言うことはできないんだよなあ。なんか、世の中にはありません?駄菓子みたいにパクパク食べられてお腹に何も残らないけど、読んでいる間は楽しかったからいいんじゃない?みたいなそういう位置にある小説、物語ってのが。映画でもあるよな。なんだかそういう小説だったよ。

カルビー かっぱえびせん 85g ×12袋

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  • 発売日: 2019/07/22
  • メディア: 食品&飲料
 

ただ問題はこの小説の宣伝のされ方で、この作品って98年に書かれ日本では90年に刊行されたんだけど、96年に作中にある「ソ連製のウイルス」というくだりを作者が「武漢製のウイルス」に書き換えていて、それを今「新型コロナの予言だ!」とか言ってるのね。多分書き直しの点はソ連崩壊に合わせただけだと思うし武漢という地名はもともとウイルス研究所があったからでしょう。で、実際の物語も確かにウイルスの言及はあるけどパンデミックと何の関係もないのよ。要するに単なるこじつけでしかないので、アマゾンの紹介ページ読んでも誰も真に受けないでね!

闇の眼 (光文社文庫)

闇の眼 (光文社文庫)