バルテュスの画集を購入した

バルテュス

「ああ、この絵、なんだろう、変だなあ、でも好きだなあ」と思っていた画家がいて、でも名前をずっと思い出せなくて、何年間も「あれって誰なんだろう?」と頭の片隅で気にしていた。その名前がこの間、何かの拍子で判明し、また忘れないうちに画集を買っておこうと思ったのだ。画家の名はバルテュス

バルテュスはフランス生まれの画家で、ピカソに「20世紀最後の巨匠」と称えられたという逸話がある。故人。最も有名なのは奇妙に不安定な構図とフォルムで描かれた少女画の数々だろう。シュルレアリズムの風味はあるがシュルレアリズムや近代絵画とは距離を置いた制作活動を送っていたらしい。若かりし頃から画家を目指すも両親に反対されたため、ほぼ独学で絵を学んだという。そういった部分でバルテュスの作品の微妙な不安定さにはアウトサイダーアートの風味も多少あるのではないかと思っている。

「この絵、なんだろう」と気になっていたバルティスの作品はこの「街路」というタイトルの作品だ。

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街角に様々な人々が闊歩しあるいは佇んでいるのだけれども、そこに配された人々の様子や仕草がどことなく奇妙であり、パースも微妙に狂い、デッサンすら歪められている。そもそも、これらの人たちが何をしているのか分からない。何か変だ。変だからこそ、なんなんだろうこれは、とついつい見入ってしまう。

この絵を見て思いだすのはドアーズのアルバム『幻の世界』のジャケット写真だ。取り立てておかしなものが写っているわけでもないのに、どこか不安にさせられるものがある。

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「美しい日々」と名付けられたこの作品もやはりどことなく異様なものを感じてしまう。鏡を見つめる少女は自分の世界以外興味が無いように見え、その姿勢はだらしなく弛緩し、もう現実には戻ってこないようにすら思える。それにしても奥に見える暖炉に薪をくべている半裸の男はなんだ。火はあまりに赤々と燃えすぎているが、男はその火をさらに燃え立たせようとしているように見える。これはなんだ。何をしているんだ。異様だし、不安になる。

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見ていて不安になってしまうような絵をなぜ見てしまうのだろう。どこかでバランスを欠いているような絵になぜ惹き付けられるのだろう。それは例えばロールシャッハ・テストのインク染みの絵の様に、自分の深層心理に埋もれている、自分でもはっきり認識していない何がしかの感情を呼び起こすからなのではないか。その感情が何で、どういうものなのかということは実は重要ではなくて、絵を見ることにより自らの深層心理に手を触れる事ができる、それがバルテュスの絵の魅力なのではないだろうか。