最近読んだミステリ /『熊の皮』『カルカッタの殺人』

■熊の皮/ジェイムズ・A・マクラフリン

熊の皮 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

アパラチア山脈の麓で自然保護管理の職を得たライスは、故郷から遠く離れ、穏やかな日々を送っていた。ところが、管理区域で胆嚢を切り取られた熊の死体が発見される。熊の内臓は闇市場で高値で取り引きされている。ライスは密猟者を追うが、地元民は非協力的で、前管理人で生物学者のサラを暴行した犯人もまだ見つかっていない。味方はサラと動物たちだけという孤立無援の状況で、さらに疎ましい過去の因縁―麻薬カルテルの暗殺者も迫りくる…アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀新人賞に輝く冒険ノワール登場。

ある事件により麻薬カルテルに追われているため自然保護管理者として山奥に隠遁したけど熊の密猟者は出るわ町の連中は閉鎖的な田舎もんだわ昔の女性管理者は悲惨な目に遭ってるらしいわで結局落ち着くことが出来なくなった主人公が大自然の中を彷徨しながらワルモン退治に乗り出すという物語である。舞台が殆ど山ん中なので雄大大自然とそこに住む動物たちの描写が丹念に成されておりまるでナショジオでも眺めてるみたいな心洗われる気分にさせられるのでアウトドア派とかナチュラルヒーリング派とか環境保護派とか野生動物大好き派の方にはお勧めだ。なにしろ物語は「密猟ダメ絶対!」というお話であり、そこに面白さを見出せるかどうかではあるし、大自然だからなんだか長閑だし、そこに主人公の過去の亡霊(麻薬カルテル)が顔を出してという部分でようやくアクションとサスペンスの体を成しているとも言えるし、さらに構成に今一つ難を感じるのだが(回想シーンが物語の流れを悪くしてるし物語を分かり難くしている)、まあ熊の集会は可愛かったので善しとしよう。大自然万歳だけど結局最新テクノロジーのセキュリティに頼らざるを得なくなる、というのはちょっと皮肉めいて感じた。

熊の皮 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

熊の皮 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

 

カルカッタの殺人/アビール・ムカジー

カルカッタの殺人 (ハヤカワ・ミステリ)

1919年、英国統治下のカルカッタスコットランド・ヤードの敏腕警部ウィンダムは、第一次大戦従軍を経て妻を失い、倦み疲れてインド帝国警察に赴任した。右も左もわからぬ土地で頼みの網は、理想に燃える若く優秀なインド人の新米部長刑事バネルジー。二人は英国人政府高官が何者かに惨殺された事件を捜査する。背後には暴動寸前の現地の憤懣と暗躍する諜報機関の影が…東洋の星と謳われた交易都市を舞台に、複雑な政情を孕む奥深い謎と立場を超えた友情が展開する、英国推理作家協会賞受賞の傑作歴史ミステリ。

 カルカッタは現在コルカタという名称に統一されたインドの大都市の一つだが、英国統治時代にこの街で起こった殺人事件捜査を描くのがこの物語だ。英国の暴政に憤懣遣るかたないインド国民に溢れ返ったこの街で、英国人有力者が殺され、それを英国から赴任してきたばかりの英国人警察官が捜査する。ここには殺人事件以上に当時の英国のインド支配の実情と、そこであえぐインド人の姿が描かれ、そして物語もまたそういった歴史を踏まえたものとなっている。エキゾチズム、というのはある種の差別意識にあたるのらしいが、そういった意味でもインドの「エキゾチックさ」がなにより浮き立つ物語だし、大きな魅力となっている。そして物語にはこういった差別意識への今日的な批判が成されており、「インド人と英国人との和合」を希求する展開もまた素晴らしい。また、作者は英国生まれインド系移民二世で、そういった来歴もあって当時のインドの情景や文化の細やかな描き方が素晴らしい。オレも以前ちょっとばかりインド映画好きだったのであれこれインドの事を調べたことがあるが、あれこれの描写の確かさにこりゃガチだわ、と思いつつ読んでいた。会話にも英国流のウィットが見え隠れし、そこがまた物語を豊かにしている。

カルカッタの殺人 (ハヤカワ・ミステリ 1945)

カルカッタの殺人 (ハヤカワ・ミステリ 1945)