あの『シャイニング』の続編、映画『ドクター・スリープ』を観た。

■ドクター・スリープ (監督:マイク・フラナガン 2019年アメリカ映画)

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『シャイニング』の続編、『ドクター・スリープ』を観た。ホラー小説の帝王ことスティーヴン・キングによる原作は『シャイニング』が1977年作で、『ドクター・スリープ』が2013年だから36年余り経た後の続編となる。一方映画版はというとスタンリー・キューブリック監督作品『シャイニング』が1980年の作品だから実に40年ほど前だ。このキューブリック版『シャイニング』、映画史に残る名作ホラー映画だが、さまざまな原作改変があって原作者であるキングに大きな不興を買ったことはつとに有名だ。相違点は幾つもあるが、ラストまで違うのだ。

という訳でその続編である映画版『ドクター・スリープ』だが、これは映画版『シャイニング』の続編となる。原作小説そのままだと(ラストが違うので)一部にちぐはぐな部分が出てしまうのと、やはり映画作品である以上映画版の続編であることが好ましいからだろう。とはいえこの続編の優れていることは、「映画版の続編でありながら原作1作目にも目配せをして上手く折衷を図り、はからずして映画版と原作1作目両方のバランスのいい続編映画として完成させたこと」だろう。

物語は1作目の40年後。『シャイニング』ではまだ幼い少年だったダニーはここでアル中の負け犬として登場する。彼は悪夢のような過去と”輝き(シャイニング)”と呼ばれる己の超常能力とに押し潰され、社会不適合者となってしまっていたのだ。そんな彼はある日、彼以上の”輝き”を持つ少女アブラと出会うことになる。そしてダニーは知ることになる、太古の昔から”輝き”を持つ少年少女を襲いその生気を吸い取って来た「真結族」と呼ばれる魔族たちが、アブラを襲う為に迫り来ていることを。

映画はダニー、アブラ、真結族の三者別々の描写から始まり、それらが次第に一つに交わってゆくといった流れになる。冬山ホテルの密室劇だった『シャイニング』と違い、今作は空間的な大きな広がりがあるのだ。そして超能力少女アブラ、真結族といった全く新しいキャラクターが登場し、ダニーを巻き込んでの超絶的なサイキック・ウォーへと繋がってゆく。はっきり言って『シャイニング』とは大違いだし、ダニーが登場しなければ『シャイニング』続編である必然性すらなくなってしまう物語ではある。

しかしこれが『シャイニング』続編である必然性は、ダニーのその苦悩の様に現れることになる。彼は父と同じようにアル中で苦しみ、そして彼の持つ”輝き”は、彼にとって重荷でしかない。そんなダニーがアル中を克服することで父の影から脱し、その”輝き”によって世のため人のためになる職務を見つけ、さらに少女アブラの危機を救うために尽力する。すなわちこの物語は『シャイニング』への”みそぎ”として機能しているのだ。さらにその”みそぎ”は、この物語の真のボスキャラ、あのオーバールックホテルとダニーとの最終対決という形で決着をつけようとするのだ。

映画の見所となるのはまずアブラと真結族とが熾烈なサイキック・ウォーを繰り広げるその視覚効果のあり方、前作より空間的広がりを得たことによる漂泊感とアクションの多さだろう。さらにダニーとアブラとの強烈な連帯感の様は、中年男と少女という描写の難しいコンビを、あくまで強い精神性と共闘の誓いを立てた者同士の結びつきといった形で無理なく描き出し、これはある意味性別も年齢も人種も超えた人間の結びつきを鮮やかに描き切った稀有な作品だということもできる(実は原作はもっとロリコンの匂いがした……)。あとダニーの務めるホスピスの猫の可愛らしさも付け加えておきたい。

そしてなにより、最大の見せ場となるのはあのオーバールックホテルだろう。実はこの部分が原作とは最も違う箇所なのだが、しかしオーバールックホテルを持ち出すことできっちり『シャイニング』の続編の形を成し、さらに『シャイニング』の物語に引導を渡す結果となっているのだ。物語の流れから言えばこのオーバールックホテルを持ち出さなくともお話が成り立ってしまうのだが、しかし映画という見世物の観点から言えばこれは大正解だし、そのサービス精神は大きく実を結ぶことになったと思う。この部分だけでも『シャイニング』続編の必然性が希薄だった原作を超えているのだ。ただひとつだけ難を言うと、原作もそうだったが、アブラの強力さの前では真結族の皆さんがどうにも弱っち過ぎたことかなあ。とはいえ作品としては大いに満足で、オレ的には今年後半で最も好きな映画の一本となった。 

新装版 シャイニング (上) (文春文庫)

新装版 シャイニング (上) (文春文庫)

 
新装版 シャイニング (下) (文春文庫)

新装版 シャイニング (下) (文春文庫)