『IT』第2章にして最終章、映画『IT イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』を観た。

■IT イット THE END “それ”が見えたら、終わり。 (監督:アンディ・ムスキエティ 2019年アメリカ映画)

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スティーブン・キングの最高傑作とも謳われるホラー小説『IT』の映画化作品、第2章にして完結編である。2017年に公開された1作目の邦題は『IT イット “それ”が見えたら、終わり。』 、そして今作の邦題が『IT イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』。なんだか長ったらしいし似通ってるので原題にあやかりそれぞれ「第1章」「第2章」と呼ぶことにする。

『IT』はアメリカの架空の地方都市デリーを舞台にした恐怖譚である。まず第1章における時代は1988年。街で子供ばかりの行方不明事件が立て続けに起こり、主人公ビルの弟も雨の中姿を消す。そして夏休み、ビルを筆頭にした”ルーザーズ・クラブ”の少年少女7人は行方不明事件の真相を知ることになる。それは大昔から街の下水道に巣食う”それ=IT”の仕業だった。”それ”はあらゆる恐怖を撒き散らしながら子供たちに襲い掛かるが、7人は協力し合って”それ”を倒すことに成功する。しかし、”それ”が27年おきにこの街を襲っていたことを知った彼らは、27年後に”それ”が街で猛威を振るいだした時にまた再開することを誓って物語は終わる。

この物語における恐怖の本質であり、ペニーワイズと呼ばれるピエロの格好をした怪物は、あくまで仮の姿でしかない。子供たちの前に変幻自在な形となって現れ恐怖に陥れる得体の知れない存在ということから”それ(IT)”と呼ばれているという訳だ。そして第2章では、第1章の27年後、再び活動を始めた”それ”と対峙するため、すっかり大人となったルーザーズ・クラブの7人に集合が掛けられる、というところから物語は始まるのだ。

原作自体は随分昔に読んだが、なにしろ大昔なので単純なアウトラインしか覚えていない。おまけに映画化作品以前にTV版として製作公開された『イット』とも記憶がごっちゃになっている。だからこの映画版がどれだけ原作に忠実なのか、はたまたどこが違うのか、という事はまるで指摘できないのだが、それでも、原作、あるいはキングという作家の持つテイストを非常に丁寧に・丹念にそして相当のリスペクトを込めて製作されているということはしっかり伝わってくる作品だった。キング原作の映画作品は玉石混交なのだが、この『IT』はその中でも非常に成功している作品だし、あくまで原作に寄り添おうという真摯さにおいては最高のキング原作映画かもしれない。

それは子供時代を描く第1章においてはビタースウィートなノスタルジーの形となって描かれるし、大人になった主人公らを描く第2章においては現実の壁に阻まれて苦渋を味わい続けるそのままならなさ、といった形で描かれる。第1章において子供たちの未来にはいかようにも輝ける予感があった筈であったのに、その未来に到達した第2章にあるのは味気ない現実への失望感でしかない。確かに大人になり猥雑な現実の中で生きるという事は、味気ない失望を受け入れ続けるという事なのかもしれない。しかしこの第2章では、そんな彼らが27年振りに集い、大いなる恐怖である”それ”と再び対峙することにより、各々の中で失われていた「何か」を取り戻そうとする、という物語となっているのだ。それは物語内において「子供時代の失われた記憶」として描かれるが、その「失われた記憶」とは、「”生”の実感」そのものの事だったのではないだろうか。

映画的に見るなら、子供時代を描く第1章と大人となった第2章のそれぞれの俳優が、本当にそのまま成長した姿なのではないかと思わせるほどそっくりでびっくりした(こんな雰囲気 ↓ )。

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成長後の姿を演じるジェームズ・マカボイにしてもジェシカ・チャスティンにしても、それなりに個性のある俳優の筈なのに、最初からしつらえてあったようにすら見えてしまったが、これは顔つきが、というだけではなく演技・演出・メイクが一体になった成果なのかもしれない。

ホラー演出やクリーチャー造形に関しては、これは昨今の新進ホラー監督による先鋭的なそれとはまた別な、 ジョー・ダンテあたりの時代を思わせるグロテスクの中にコミカルさが入り混じったもので、最近のホラーが怖すぎて観ることの出来ないオレにも十分楽しめた。これはペニーワイズ→クラウン→サーカスや遊園地を連想させるダークファンタジー風味な演出/クリーチャー造形ということだったのかもしれない。

なにより驚いたのはこの第2章の中に頻繁に過去の子供時代シーンが挿入されていたことで、しかもこれらのシーンはどれも第1章には無かった、または別視点のシーンばかりだったということだ。これは第1章撮影時に、この第2章製作も見越して子役たちのシーンを撮り溜めしていたということなのだろうか。なぜなら子供というのはとても早く成長するからで、そして第1章と第2章の間には2年の間があるからだ。正確なところは分からないのだが、どちらにしろ、この第2章の中に、まるで決して色褪せない記憶のように主人公たちの子供時代が鮮やかな映像となって挿入されている部分に、奇妙に感銘を受けてしまった。


映画『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』予告編

IT〈1〉 (文春文庫)

IT〈1〉 (文春文庫)

 
IT〈2〉 (文春文庫)

IT〈2〉 (文春文庫)

 
IT〈3〉 (文春文庫)

IT〈3〉 (文春文庫)

 
IT〈4〉 (文春文庫)

IT〈4〉 (文春文庫)