■ファイナル・スコア (監督:スコット・マン 2018年イギリス映画)
■オレとデイヴ・バウティスタ
最近デイヴ・バウティスタのことが気になって仕方がない。
最初「誰だこいつ」と思ったのは『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のドラックス役だった。全身刺青の相当ガタイのいいおっさんが「わっはっは」とか笑ってる。今まで見たことがなかったが、強烈な個性を醸し出しているではないか(後で調べたらちょい役で出た映画はあれこれ観ていたようだが、そんなに意識していなかった)。その時これがデイヴ・バウティスタという名のおっさんで、本業はプロレスラーだということを知った。
その次は『ブレードランナー2049』冒頭に登場するレプリカント役だ。『ガーディアンズ~』の時はなんだかひょうきんだったが、この作品では本業を彷彿させる殺気の漲った役柄だった。いいな。こいついいじゃないか。そして今年に入り、『大脱出2』『イップ・マン外伝 マスターZ』と立て続けにバウティスタ出演映画を観てしまう。
「ん?なんだなんだ?」とオレは奇妙な縁を感じた。実はオレは相方から「熊」というあだ名で呼ばれていて、それは熊みたいにでっぷりのっそりした体型をしているからなんだが、同じく熊みたくデカくてのっそりした外見のバウティスタにどこか親近感めいたものを感じた、というのもあった(まあオレの場合ただ単に不摂生だからでっぷりしているのであって、あんな引き締まった格闘家体型じゃないけどな!)。
■デイヴ・バウティスタ主演作『ファイナル・スコア』
そしてそんなオレにバウティスタが主役を張った映画が公開されるという情報が入った。オレは悟った。「ああ。これはもう運命なんだ」。こうしてオレは自分がバウティスタにすっかり魅せられていることを認め、その映画を観に行く事に決めたのだ。タイトルは『ファイナル・スコア』、なんだか大味なタイトルだが、バウティスタの主演振りを堪能したくて劇場に足を運んだのだ(一応書いとくがバウティスタの初主演作は『ブッシュウィック-武装都市-』という作品らしいがこれは観ていなかった)。
というわけで『ファイナル・スコア』だ。実はバウティスタを見たくて観に行っただけで、映画の評判はまるで知らないし、そこそこにB級なアクションを見せてくれるのだろうが、内容それ自体はそんなに期待していなかった。ところがだ。
なんだよメチャクチャ面白い映画じゃんかよこれ!?
今作におけるバウティスタの役どころはアメリカ海軍特殊部隊の元軍人ノックス。彼は今ロンドンを訪れていた。戦友を死なせた負い目から、その戦友の愛娘ダニーになにかと世話を焼いてあげていたのだ。この日も二人はフットボール試合を観戦しに満員のスタジアムに出掛けていた。だが、そこでは今、テロリスト集団が恐るべき計略を進行させていたのだった(※”戦友”は”弟”だったかもしれないがオレの記憶が……)。
■さながら『ダイ・ハード』を思わせる展開
いや、何と言ってもですね。なんとこの作品、まるで『ダイ・ハード』1作目そのものなんですよ!?
テロリストによって35000人の観客を入れたまま閉鎖されたフットボール・スタジアム、という密閉空間はさながらナカトミ・ビルを思わせる。その施設内を縦横無尽に駆け巡り、様々な設備を利用して敵と対峙するする様も『ダイ・ハード』的だ。なにより、敵の無線から彼らの名前を把握したりとか、外部にテロ進行を知らせるために使ったある手段とか、もう『ダイ・ハード』そのものなんっすよ。
しかしただそれだけだと『ダイ・ハード』コピー、『ダイ・ハード』フォロワーでしかないんだけど、後半からどんどんアプローチを変え、フットボール・スタジアムの構造を生かしたとんでもないアクションをつるべ打ちに投入し、「ここまで無茶しちゃうんだ!?」と唖然呆然させながら、それが一瞬後狂喜乱舞させるというとことん魅せるアクションを展開してるんですよ!なんつーったってアナタ、フットボール・スタジアムの屋根でバイク・チェイスしてくれたりするんっすよ!?
そして面白いのは、ノックスVSテロリストの血で血を洗う攻防が展開してるにも関わらず、35000人の観衆は一切それを知らないまま、物語の最中は延々フットボール試合が進行して盛り上がっているってことなんだよね!逆にそれは、スタジアムに閉じ込められテロが進行していることを観客たちが知り大パニックに陥ることを防ぐためでもあったんだ。そしてこの呑気に試合を楽しむ大観衆と血みどろの戦いを繰り広げるノックスという対比がまた面白さを醸し出しているんだね。
■「命を懸けて誰かを守るというのはどういうことなのか」
この物語でノックスがテロリストと戦う理由、それはただ正義のためとかではなくて、戦友の娘ダニーをテロリストの手から守るためだった。自分の責任で戦死してしまった戦友の娘まで死なせるわけは行かない!とノックスは決死の覚悟でダニーを守ろうとするんだ。
しかしダニーは、「誰かのために命を落とした父は愚か者だ、父の死は無意味なものでしかなかった」と頑なになっている子だったんだね……。ノックスはそんなダニーに、「命を懸けて誰かを守るというのはどういうことなのか」を身をもって教えようとする。それは、自ら命を懸けることによって、ダニーの父は愚か者なんかではなく、その死が決して無意味なものであるはずがない、という事を伝えることでもあったんだ。……くうう!泣かせるじゃあーりませんか!
こんなダニーの存在がノックスを不屈の戦士として戦わせているのと同時に、ダニーが敵のターゲットとなってしまうことでノックスの弱点となる、という部分がまた面白い。 主演のバウティスタはあのガタイだしもともとプロレスラーだし、これまで出演していた作品でも殴っても蹴ってもびくともしない鋼鉄男ってな役回りが多かったが、この作品では決してそうじゃなく「弱さ」もまた併せ持つ人間として描かれる。そこが映画『ファイナル・スコア』を単なるランボースタイルのマッチョ映画にしていない部分でもあるんだね。
しかし、こうして文章に起こせば起こすほどこの映画がどんどん好きになっていく自分がいるなあ。どれだけの話題の作品なのかは分からないけど、アクション映画として実にカタい、イイ仕事している作品だから、とりあえずオレを信じて!劇場に足運んでもらいたいと思っちゃいまっす!いやマジ面白いから!
■以下、蛇足。
とまあそんな訳でバウティスタの熊っぷりをたっぷり堪能できた『ファイナル・スコア』だったが、蛇足ながら個人的に注目した部分を幾つか書き足しておこう。
・イギリスのちょいと老朽化しつつあるスタジアムって舞台がなーんかいい味出してるんだよね。屋台なんてもう掘っ立て小屋みたいなんだよ。これがアメリカだとピカピカキラキラしちゃってなんだか趣が欠けるんだ。同様にスタジアムを舞台にしたアメリカ製のアクション映画『サドン・デス』があったけど、イメージが全然違うんだよね。
・ノックスは孤立無援で戦う訳じゃなくて、会場整理係のカーンという名前の青年の助けを借り共に戦う。このカーン君、ガチムチのノックスとは真逆のヒョロヒョロ野郎でこの対比が実に可笑しい。とはいえ一見非力なカーン君が時々イイ仕事っぷりを見せてくれてギャップ萌えさせてくれるんだ。
・映画の冒頭と中盤で使われる音楽が80年代イギリスのロック・バンド、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドの『トゥー・トライブス』!いやー大好きだったんだよこの曲!映画館で一人でノリノリになってたよ!こういった曲のセンスもイギリス映画ならではだよなあ。
Frankie Goes To Hollywood - Two Tribes (ZTIS 119)