銀河を駆ける新米チンピラの物語/映画『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』

ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー (監督:ロン・ハワード 2018年アメリカ映画)

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スター・ウォーズ・サーガのスピンオフ・シリーズ、第1弾の『ローグ・ワン』に続いての第2弾は『ハン・ソロ』。『ローグ・ワン』はSWサーガの中でも相当にシリアスな作品として仕上がっていたが、一方この『ハン・ソロ』はタイトル・ロゴが公開された時点で、そのデザインから「あ、今回はもっとユーモアを交えた冒険活劇になるな」と予想していたが、実際観てみると案の定そんな作品だった。

物語はソロの若き日々の冒険を描くところとなる。この辺でストーリーや全体的な雰囲気もだいたい想像がついてくる。SWEP4から登場する「銀河の密輸業を生業とする無法者」ソロ、チンピラくずれだが結構くだけていて変な所で面倒見のいい、憎めない、そして愛すべき男ソロ、彼はなぜそんな男になったのか。彼の過去に何があったのか。同時に、SW正編に登場するソロの愛機ミレニアム・ファルコン号、相棒のチューバッカとの出会いも描かれることになる。ついでにあのランド・カルリジアンの若き日の姿まで登場するというではないか。

「だいたい想像のつく物語」というのは、これが若きチンピラのソロの物語であるのなら「ノワール+冒険活劇+チンピラの成長譚」以外考えらないからだ。物語のノワール部分、犯罪絡みの騙し騙されという裏切りのコンゲーム展開は、シナリオからここだけ取り出しても十分シリアスなノワール・ストーリーに仕上がっていたし、フランス人監督辺りに撮らせたらよりニヒルな物語になったかも、とちょっと想像してしまった。しかしチューバッカやランド・カルリジアンとの絡みが適度なユーモアを持ち込み、シリアス一辺倒ではないヌケの良い物語性を生み出しているのだ。やはりソロの物語はこうでなくちゃいけない。

そしてやはり映画のキモとなる冒険活劇だ。最初のソロの大きなヤマ、列車コンヴェイエクス襲撃作戦から大いに盛り上がる。ここなんかは『ワイルド・スピード』のSF版じゃないか。このシーケンスにおいてソロの仲間、トバイアズ一味の邪魔をするスウープ・ギャングたちの謎めいた外見や命知らずの行動は『マッドマックスFR』すら連想させる。さらにクライマックスとなる惑星ケッセルにおける攻防は、これぞSWといえるような醍醐味に満ちたSFアクションを展開する。

チンピラの成長譚といえばそこには必ず女が絡む。この作品ではソロのかつての恋人で現在なにやらワケアリのキーラという女性がこれに相当することになる。美人なだけではなく戦闘にも長け、主人公と懇意なのにもかかわらずいい所ではぐらかす。そして敵なのか味方なのか分からない。もうこれ峰不二子ですよね~。ある意味ノワール作品の定番的悪女キャラだが、そんなキャラをSWで見られることがまた嬉しい。今までいなかったキャラじゃないのか。このキーラをTVドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』のデナーリス・ターガリエン役、エミリア・クラークが演じているというのが『GOT』ファンとしてなにしろ嬉しい。

しかしキャラ的に気に入ったのはランド・カルリジアンの所有するドロイド、L3-37だ。SW世界にはこれまで様々なドロイドが登場したが、このL3-37、外見こそドロイドなのだが中身はどう考えてもファンキー姐御、おまけに相当アナーキーな行動に出る。フィービー・ウォーラー=ブリッジという女優さんが演じているらしいのだが、こんなドロイドキャラもSW世界では珍しいのではないか。さらにネタバレになるから書けないが、クライマックスで顔を出すある女性キャラも非常に素晴らしかった。こうして見るとこの『ハン・ソロ』、またしても傑出した女性キャラで固められたSW作品に仕上がっていると言えはしないか。

こうして「銀河を駆ける新米チンピラの成長譚」は雄々しく物語られるわけだが、これだけではよくある景気のいいスペースオペラ作品に終わってしまう。しかしその背後には常に帝国軍の影がじわりじわりと沁み出し(そもそも若き日のソロが帝国軍兵士見習いだったという事実自体が皮肉だ)、それがクライマックスにおいて強大な恐怖となって立ちふさがることで、この物語が膨大なSWサーガの中のこれまで語られなかった歴史の一つであることを思い出させてしまう。例えば『ローグ・ワン』がSW史における鮮烈な悲劇の物語として記憶に留められたように、この『ハン・ソロ』は後に大いなる英雄に成長する一人の愛すべきチンピラの小気味良い冒険として、同じく記憶に留められることだろう。

一つだけ、ちょっと画面が暗かったかな?と思ったのだが、同じ意見をまるで見かけないので、これは個人的なものなのかな?これがザック・スナイダー映画の画面の暗さなら全然気にならないオレなんだが、なんだったんだろう。


「ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー」US版特報