ケータイかけたらゾンビになっちゃう!?〜映画『セル』

■セル (監督:トッド・ウィリアムズ 2016年アメリカ映画)


「ケータイかけたらゾンビになっちゃう!?」というパニック映画『セル』でございます。原作はホラーの帝王スティーヴン・キングの『セル』。しかしまあキング原作映画って結構出来不出来があるのが心配なところ。主演はジョン・キューザックサミュエル・L・ジャクソン。二人は同じキング原作の『1408号室』(2007)でも共演していますね。また、『エスター』の子役だったイザベル・ファーマンも出演。監督は『パラノーマル・アクティビティ2』(2012)のトッド・ウィリアムズ。日本では今年2月に公開されるらしいのですが、キング・ファンであるオレは待ちきれず輸入盤Blu-rayで先に観てしまいました。

《物語》グラフィック・ノベル作家のクレイ(ジョン・キューザック)は別居中の妻と息子の住むニューイングランド行きの飛行機に乗るためボストン空港にいた。空港では様々な人々が携帯電話で話していたが、その彼らの様子が突然おかしくなる。奇妙な電波を傍受したかと思うと一変、突如ゾンビ化して他人を襲い始めたのだ。空港は殺戮の場と化し、ゾンビ化した人間と逃げ惑う人々とで大パニックとなる。クレイは地下鉄に逃げ出し、そこで元軍人で技師のトム(サミュエル・L・ジャクソン)と出会う。二人はゾンビ集団を避けながらクレイのアパートへと避難するが、そこで同じアパートに住む娘アリス(イザベル・ファーマン)が仲間に加わる。クレイは妻と息子の無事を確かめるためニューイングランドへ向かうことにし、残る二人も同行することになった。その道中、ゾンビとなった者たちの奇怪な集団行動を目にすることになる。

「ゾンビ」とは書きましたが、映画『Cell』のゾンビたちは一般的に認知されている「人肉を喰らう蘇った死体」という意味のゾンビではございません。彼らは携帯から発せられた謎の電波により意識を乗っ取られ、人格を喪ったまま凶暴化し他人を殺戮するのです。即ち「生きてはいるが人間では無くなってしまった存在」なんですね。この辺の一捻りしてあるところがキング原作らしいところと言えるでしょう。だからここからはゾンビではなく「セル」と呼ぶことにしましょう。セルと一般的なゾンビの違う部分は、死んでない・人肉を食わないという他に、人を襲うときに道具を使える、ということでしょう。平気で鈍器のようなものを使って殴りかかってくるんですね。刃物は使えたかどうか覚えてませんが、銃となるとこれは無理のようです。まあ知能的に猿よりちょっとマシな程度かな。あと、基本走ります。

この物語のもう一捻りしてある部分は、セルたちが奇妙な集団行動を取る、という部分です。その一糸乱れぬ様子はどこか蟻のようですらあります。つまりタイトル「Cell」は「全体の中の一個の"細胞"」という意味での"Cell"と、「Cell Phone(携帯電話)」の"Cell"とが掛け合わされたものなんですね。秀逸のようにも思えますが、実は単なるキングの駄ジャレだという気もしないでもないです。それと、「じゃあセルにならないためには携帯使わなければいいだけの話じゃん」と思われるかもしれませんが、実はこのセル、最初携帯から流れ出た奇妙な電波音と同様の音を口から発し、それにより健常者をセル化することができちゃうんですよ!これは怖いですね!あとこのセル、夜になると寝ます。これはちょっと怖くないですね!

物語はクレイ一行がクレイの家族を探し出せるのか、というサスペンスと同時に、そもそも携帯から漏れ出した電波音はなんだったのか?セルたちはなぜ集団行動を取るのか?そしてセルたちを壊滅させる術はあるのか?という様々な謎をばらまきながら進んで行きます。いわゆるアポカリプスもののホラー・パニックではありますが、SF的な味付けも成されているんですね。この辺のB級SF感もキングらしいということが出来ます。しかしジョン・キューザックサミュエル・L・ジャクソンといった出演者の共演は見所ですが、物語は少々中だるみ感があるのは拭えません。一般的なゾンビ・ストーリーと一線を画しているのはセルの異様な集団行動にあるのですが、謎が謎のままほっぽり出されているので消化不良気味で、ゾンビ物定番の「本当に怖いのは人間」という部分が抜けているのでドラマ性に欠けるんです。「なんだかわからない」というのも面白みの一つではありますが、全体的にちょっとだらだらしすぎちゃったかなあ。

それにしてもこの物語、単なる駄ジャレでできたものであるのと同時に、原作者キングの「携帯でゴチャゴチャ喋りながらタラタラ歩きやがってよう」という苛立ちへの復讐でもあるような気がします。「道端で携帯で喋ってるヤツはみんなゾンビみたいなもんだ!そして蟻みたいな虫ケラ程度の知能指数しかないんだ!」というキングの悪意に塗れた妄念がこの作品を書かせたような気がします。もちろんこれはオレの想像にしか過ぎませんが、意外とキングってそんな小物臭溢れる怒りで畢生の大作を書き上げてしまうような異能の作家であると思っています。『セル』の原作自体はチャッチャと書いたような乱暴な小説ですが、その分ストレートで面白かったですね。↓の書影は旧版のもので、映画日本公開に合わせて新版が出るそうなので読んでみたい方はそちらを待ったほうがいいのかな?ちなみにオレの小説のほうの感想はこちらで。

セル(上)(下) / スティーヴン・キング - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ


セル〈上〉 (新潮文庫)

セル〈上〉 (新潮文庫)

セル 下巻 (新潮文庫 キ 3-57)

セル 下巻 (新潮文庫 キ 3-57)