思い出に変わるまで~映画『僕の可愛いビンドゥ』【IFFJ2017公開作】

■僕の可愛いビンドゥ [原題:MERI PYARI BINDU] (監督:アクシャイ・ローイ 2017年インド映画)

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ある小説家の男が回想する一人の女性との甘くほろ苦い思い出。映画『Meri Pyaari Bindu』は恋と友情の狭間で揺れ動き、時に交差し時に離れてゆく男女の心の様を描く作品だ。タイトルの意味は『僕の可愛いビンドゥー』。

主演は『Vicky Donor』『Dum Laga Ke Haisha』のアーユシュマーン・クラーナー、ヒロインに『Ladies vs Ricky Bahl』『Kill Dil』パリニーティ・チョープラー。彼女、プリヤンカー・チョープラーの妹さんなんだとか。 監督のアクシャイ・ローイは様々な作品の助監督を経た後短編映画で賞を取り、これが長編初監督となる。

主人公の名はアビマンユ(アーユシュマーン・クラーナー)、彼は成功したホラー小説作家だったが現在スランプに至っており、次はラブ・ストーリーを書こうと決める。そして思いだすのは彼がこれまで最も愛した女性ビンドゥー(パリニーティ・チョープラー)。アビマンユとビンドゥーは幼馴染だった。成長した二人がそれぞれの進路に進み別の土地に暮らすようになっても、別の恋人が出来ても、それでも二人の心は離れることは無かった。そしてある日二人は再会する。

カセットテープ、そこから流れる懐かしの名曲、舞台となるコルカタの古びた街並、そしてタイプライターで綴られる物語、それらがノスタルジックな雰囲気を盛り上げ、主人公の思い出を甘く切なく盛り上げる。主人公アビマンユが回想する"僕の可愛いビンドゥー"は明るく快活で表情豊か、とても懐っこく深い感情を持つ女性だ。そんなビンドゥーを演じるパリニーティ・チョープラーは隣のお姉さんかその妹といった風情の非常に親しみやすいキャラクターを見せ、これはもう確かに可愛らしくて仕方がない。彼女がわあわあ言いながら様々な感情の起伏を演じるのを見れば、きっと誰もが彼女を好きになってしまうだろう。

物語はそんなビンドゥーとアビマンユとの子供時代の出会いから成長し兄弟のように慣れ親しみ、それがいつか愛へと発展し、しかしそこに破局が訪れ……といったことが描かれるが、結局そんな思い出を現在の視点から「そんなこともあったよね」と懐かしく思い出しているだけで、それが現在と未来へと繋がることが無いのがドラマとして弱いのだ。そもそも物語を追ってゆくと主人公アビマンユが、結構自己愛が強く"オレ様"な人間であることが透けて見えてしまう。アビマンユとビンドゥーとの破局はアビマンユの無理解からだったが、それに対する反省が「現在」の時点で描かれないために、結局「自分に都合のいい思い出話を聞かされているだけ」に終わってしまう。

一席ぶつつもりはないが、恋愛はただ男女が仲よくするだけではなく相手に受け入れられるのと同時に自分も相手を受け入れようとすることなのではないか。だがここでのアビマンユは「子供時代から一緒だったし仲良かったから恋愛に発展するのは当然」のように行動するし「恋愛したら結婚するのが当然」とばかりにビンドゥーに結婚を申し込む。けれども、その時ビンドゥーが彼女の夢であった歌手として生きる事の危機にあったことを完璧無視しているのだ。ビンドゥーにとっての問題を、自分にとっての問題と思わない。この思慮の無さ、対話の無さは女性側から「伴侶として不安」と思われても仕方がない。

それらは過去の話であり、つまりは若さゆえの至らなさだということもできるだろう。けれども、そんな経緯があったことを「現在」において「思い出話」で済ませてしまっている。そして「甘く切ない過去」で終わらせてしまっている。これではアビマンユは物語を通して何一つ成長していないではないか。こんなシナリオの拙さがこの作品を食い足りないものにしている。ただ、個々の場面では非常に生活感溢れる描写が印象深く、二人の友人たちや両親の描き方も生き生きしており、さらに歌と踊りのシーンも楽しかったので、ちょっと惜しい作品だな、という気はした。


Meri Pyaari Bindu | Official Trailer - Chapter 1 | Ayushmann Khurrana | Parineeti Chopra