ドミニカの田舎での退屈な夏休み。伝説のマスク怪人を追うボクとアニキの冒険「イスラエル」。キレた女の子オーロラがボクに求めたものはドラッグだったのかセックスだったのか、それとも…。N.Y.の路上に生まれたラブ・ストーリー「オーロラ」。魔術的リアリズムと現代都市文学を見事に融合した自伝的作品10編。
ドミニカ生まれのアメリカ人作家、ジュノ・ディアスはオレのとても大好きな作家だ。ジュノ・ディアスの長編小説『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』はタイトル通り凄まじい、驚くべき物語だった。これについての感想はここに書いた。続いて読んだ彼の短編集『こうしてお前は彼女にフラれる』は胸にザクザク刺さる恋愛小説集だった。これについてはここで感想を書いた。ジュノ・ディアスの小説の主人公はどれもドミニカで生まれドミニカで生活し、あるいはアメリカに渡った人々の、貧しい生活と野放図な恋愛、そして野放図であるばかりに訪れるドタバタと悲哀を描いたものだ。そんな彼らの生き方がとてもナイーブな筆致で描かれるところが胸にグッとくるのだ。
そのジュノ・ディアスのデビューとなった処女短編集がこの『ハイウェイとゴミ溜め』になる。本国での出版が1996年で、日本でも1998年に翻訳が出ている。当時もそこそこに注目を浴びていたようだが、その後の2冊と比べるとデビュー前後の作品だからか若干あっさりしている。だが読み進むにつれてその後のディアスの片鱗がじわじわと頭をもたげてきていて、読むのが楽しかった。短編集という体裁になっているが、内容はある一つのドミニカ人家族が中心になっており、全体的な統一感がある。その家族というのはパピーとマミー、そして二人の兄弟であり、ほとんどは小さな弟である"ボク"の視点によって描かれている。
"ボク"とその兄ラファの頭の中にあるのは、たいてい、女の子のことばかりだ。だから物語はラブ・ストーリーなんだとも言えるんだけれど、ませてはいるが二人はまだ少年であり、女の子とのやりとりは拙くぎこちなく、ただヤりたいだけだから思慮もなくぶっきらぼうで、だから結果として訪れる破局にただなすすべもなく呆然としている。そして呆然としつつウジウジと傷心する。この、熱帯生まれでただヤりたい盛りの少年たちが、にもかかわらず奇妙にナイーブである、という対比がジュノ・ディアス小説の醍醐味だ。
彼らは後先を考えないお馬鹿な連中ではあるけれども、孤独であることの惨めさにもストンと入ってしまう。誤魔化したり、代償行為に走ったりしない。そんなややこしい精神分析的な部分の無い、ストレートな感情しか持ち合わせていないから、孤独に対しても素直に対峙してしまうのだ。だからこそ彼らの孤独さ遣る瀬無さが、読んでいる側にもストレートに伝わってくる。そんな不器用さが、読んでいてなんだか妙に愛おしくなってくるのだ。ジュノ・ディアスの『ハイウェイとゴミ溜め』はまだ試行錯誤の途中である作品が並ぶが、『オスカー・ワオ』『こうしてお前は彼女にフラれる』に続いて読むならきっとディアスの筆致に心和むだろう。
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