おいらはコイラ!言葉の不自由な野生児なのら!〜映画『Koyla (コイラ〜愛と復讐の炎)』

■Koyla (コイラ〜愛と復讐の炎)(監督:ラーケーシュ・ローシャン 1997年インド映画)


おいらはコイラ!(ホントの名前はシャンカー!)
ズタ袋着て荒縄腰に締めた野生児なのら!(バンダナがオシャレポイント!)
おいらの仕事はワンコの調教!(他にも横笛吹いたりします)
おいらは言葉を喋れない!(子供の頃いろいろあったから)
おいらの親分悪いヤツ!(美人な姐さんイジメてる)
もうこんなヤツ許せない!(おまけにこいつ親の仇)
おいらの怒りが爆発する!(もう全身火だるまで走っちゃうよ)

■野生児コイラ参上!(ホントの名前はシャンカー!)

野生児コイラことシャー・ルク・カーン、難儀なお姐さんことマードゥリー・ディクシトの主演による1997年インド公開のボンクラ・アクション大作、『Koyla』でございます。彼らの人生を翻弄し危機に至らしめるスンゴイ悪いオッサンを『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』(1984)、『Mr.India』(1987)の名悪役アムリーシュ・プリーが演じているのがなにしろ見所です。ジョニー・"ジャガイモ顔"・リーヴァル、アショーク・"トルネコの大冒険"・サラーフといったコミック・リリーフの掛け合いも見逃せません。

監督は超絶カルトアクション『karan Arjun』(1995)、さらに『クリッシュ』(2013)などクリッシュ・シリーズを手掛けたラーケーシュ・ローシャンといいますからこれは期待値大でありましょう!また、この作品は日本劇場未公開作品ながら1999年に『KOYLA(コイラ)〜愛と復讐の炎〜』というタイトルでDVD発売(現在廃盤)されており、全国のブックオフを行脚したら案外発見できるかもしれません。しかもこのDVD、日本語・英語字幕以外に中国語字幕もついているらしいです。なんで中国語なんだ?

お話は大領主ラージャー(アムリーシュ)とその情婦(ディープシカー)の狩りの様子から始まります。ラージャーの撃ち落とした鳥を探すため犬の鎖を解き放った青年、彼こそが本作の主人公シャンカー(シャー・ルク)なのです。シャンカーは言葉が不自由で「あーうー」しか言えない野生児のような男でした。さてラージャーはきったない顔の上に白髪頭のクソジジイなのですが、村娘ガウリー(マードゥリー)に年甲斐もなく惚れてしまい、カッコいいシャンカーの写真を「これボクです(はあと)」と偽ってガウリ―に渡しまんまと結婚に漕ぎ着けます。「結婚した以上お前はわしのもんじゃあ!」とラージャーはヨダレを垂らしながら泣き叫ぶガウリーに迫ります。

ラージャーを毎夜拒むばかりに折檻され、絶望の底にいるガウリ―をシャンカーは不憫に思い、いたわるうちにいつしか二人に思慕の念が生まれてゆきます。そして遂に二人は大脱走を決意しますが、ラージャーと追手たちの執拗な追跡の挙句、シャンカーは喉を切り裂かれ崖下に転落、捕まったガウリ―は娼館に押し込められ男たちの慰み者にされようとしていました。しかし死んだと思われていたシャンカーは生きていました。しかもラージャーがかつて自分の両親を殺した男であるという記憶も蘇ったのです。シャンカーはガウリ―を救い、親の仇を取るため"コイラ"と名乗ってラージャーへと近付きます。

■ここがスゴイ(というか変だ)よ映画『Koyla』!

ラーケーシュ・ローシャン監督の『karan Arjun』も相当モノスゴイ、なんか変な映画でしたが、例によってこの『Koyla』もとってもモノスゴイ、そしてなんか変な映画です。ちょっと箇条書きにしてみましょう。

・主人公シャンカー登場時の、黒いズタ袋かぶったような服と腰を荒縄で締めたルックスが宮下あきら漫画みたいでワイルド
・喋れないはずの主人公なのに時々喋る。?と思ってたら実はジョニー・リーヴァル扮する腹話術師の仕業だったが、特に深い意味がない
・カッコいいシャンカーの写真に騙されて結婚するガウリーも随分だが、そのガウリ―に「あんたのせいだ!」と逆ギレされるシャンカーが哀れ
・ラージャーはドスケベな大悪党なのだが、情婦がエロっぽく迫ってもいつもすぐ寝てしまう。気ばかり大きいがやっぱりジジイ
・シャンカーに真実を知らされ妹を助けようとはせ参じるガウリ―の兄があっさり殺されるのが不憫。で、結局言い出しっぺのシャンカーが助ける。兄さん殺され損だよ…
・今作中盤の山場はシャンカーとガウリ―のジャングル大逃避行。ヘリを出し山探しするラージャー一味を出し抜き、シャンカーはトラップを使って悪党どもを一人また一人と屠ってゆく。おお、このジャングルにおけるゲリラ戦法は『ランボー』そのものじゃないか!もしも『Koyla 2』があったらやっぱり敵の軍隊一個師団を一人で壊滅させるのか!?ってかワンコの調教係だったはずなのになんでこんなゲリラ戦に長けているんだシャンカー!?
・追いつめられ滝つぼへと飛び降りるシャンカーとガウリ―!いくらなんでもシャー・ルクとマドゥリーがスタント無しでこんなアクションやらないよね?特撮だよね?と思いつつ、「インド映画じゃやらせるかもなあ」と一瞬思ったオレをお許しください
・「殺すな!生きて捕まえろ!」と言ってたくせにマシンガンバリバリ撃ちまくるラージャー一味、アクション映画のお約束です
・やっと追手から逃れたシャンカーとガウリ―は、その喜びと恋のときめきを歌って踊って表現します。しかしそんなことやってたばかりにやっぱり追手に追いつかれます。おいおい!?
・遂に捕まったシャンカーは刃物で喉を切り裂かれ谷底に落ちた!でも谷底の住人に発見され命を救ってもらう!ってか喉切り裂かれて生きてるヤツなんて映画でゾンビ以外観たことないよ!?きっと傷が浅かったんだよね…。
・喉の傷を縫ってもらったらなんとついでに喋ることまでできるようになったシャンカーなんだが、なんだかわかんないけどヨカッタヨカッタ
・この時満身創痍のシャンカーの体に薬草のようなものが貼り付けられていたが、これがどう見てもサラダ菜
・一方捕まったガウリ―は色街の通りで肉奴隷として競りにかけられます!おいおいなんだこの鬼畜展開!?
・いろいろあってクライマックス、全身火だるまになったシャンカーが全力疾走しながらラージャーを追いつめる!このシーン、スタント無し合成無しという話もあるんだが、それよりも、そんな火の付いた服さっさと脱いじゃえよ

■汲めど尽きせぬ魅力に溢れたボンクラアクション作品

あれこれ書きましたが、しかしこれでもまだ紹介しきれない位に盛り沢山の展開を迎える作品です。かといってとっ散らかったりハチャメチャになってしまわない部分にラーケーシュ・ローシャン監督の手腕を感じます。無茶な部分はあるにせよ、お話の構造がしっかりしているんですね。確かにこの時代のインド映画らしい泥臭くもっさりした感じはあるんですが、ちょっと覚えたら癖になりそうな、独特の臭いと味わいを持った珍味といったところでしょうか。この辺、日本の70年代頃のボンクラな少年漫画・青年漫画のエグ味と通じるものがありますね。
登場人物でいいますと、なにしろ今回のシャー・ルクがドロドロに汗臭くて、さらに出生はドロドロ・血まみれでドロドロ・煤まみれでドロドロと、全編に渡って徹底してドロドロしているドロドロキャラだったというのがいいですね。でも最後はなにしろ火だるまなんですけどね。というかシャー・ルクって実はそもそもがドロドロキャラですよね。そしてヒロインのマードゥリー、いやーやっぱり美人ちゃんだわ。オレ最近のインド女優さんも素敵だなあとは思いますが、このマードゥリーとかちょっと古くてナルギスとか「往年の大女優」さんのほうがなんだか気になりますね。しかしこのマードゥリー、今作では監禁されたり人肉市場に立たされたりと散々だったけど、意外と他の作品でも刑務所入れられたり頭がおかしくなりかけたりとか酷い扱いなんですよね…苛めたくなるキャラなのかしらん…。