栄光を掴むため戦いに挑む負け犬コーチと新人女子ボクサーのスポ根ムービー『Saala Khadoos』

■Saala Khadoos (監督:スダー・コーンガー 2016年インド映画)


負け犬ボクシングコーチと彼が見出した女子ボクサーとが、様々な困難を経ながら勝利への階段を上ってゆくというスポ根映画『Saala Khadoos』です。

主演となるコーチ役に『きっと、うまくいく』で眼鏡をかけた丸顔の青年ファラン・クレイシーを演じたR. マーダヴァン。でもその彼が大変身しているんですよ!そして女子ボクサー役にリティカー・シン。実は彼女、本当に総合格闘技とキックボクシングで戦うファイターで、今回オーディションにより主演女優に抜擢されたというわけです。だから格闘シーンはお手ものですね!それと今作、製作に『pk』『きっと、うまくいく』のラージクマール・ヒラニーが参加しているのも注目ですね。

《物語》デリーに住むアディ(R. マーダヴァン)は実力のあるボクサーだったが、ボクシング協会の腐敗した政治体質により選手生命を絶たれていた。10年後、女子ボクシングチームのコーチとなった彼だが、またしても協会の横槍が入り、チェンナイに飛ばされてしまう。しかしアディはその地で、素晴らしいボクシング素質を持った漁師の娘マディ(リティカー・シン)を見出す。始めはやる気を見せなかったマディだが、いつしかボクシングの魅力に目覚め、実力を開花させてゆく。しかし、陰湿なデリーのボクシング協会はそんな二人を見逃してはいなかった。

インド映画で女子プロボクシングというとプリヤンカー・チョープラー出演の『Mary Kom』(2014)という作品がありました。これは「インドボクシング界で最も成功した選手のひとり」と呼ばれる女性、マリー・コンの半生を描くスポーツ伝記ドラマで、「女性が格闘スポーツと家庭を両立させ、さらに社会から認められること」という女性映画的な側面がありました。

プリヤンカー・チョープラーが実在の女性ボクサーを演じる伝記映画『Mary Kom』 - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ (監督:オムング・クマール 2014年インド映画)

一方この『Saala Khadoos』は「事実からインスパイアされた」とありますが、基本的にスポ根モノの王道を行く作品ということが出来るでしょう。

まずなにしろマディのキャラがいい。負けん気が強く試合では闘志剥き出しの表情を見せる彼女ですが、普段はとても素直であっけらかんとした素顔を持つ陽性キャラ。余計な情念を持っていない部分もいいですね。コーチに恋心を抱いちゃうなんてエピソードも可愛らしいじゃないですか。もちろん試合中の動きは流石本物のファイターだけあって遜色在りません。演じるリティカー・シンは十分魅力的で今後彼女をどんな映画で生かすことが出来るか楽しみです。

そんなリティカーさんが本職のキックボクシング試合をしている映像はこちら!(映画じゃないですよ)

一方アディは見た目通りどこまでも男臭く逞しく、有無を言わせぬ鬼コーチぶりを見せますが、ふと見せる包容力に溢れた態度に惚れそうです。そんな二人の共通点はかっとなり易くすぐ暴れ出すところ!まあなにしろ王道スポ根ムービーなので展開は定番通りに進みますが、やっぱりクライマックスに向かうにつれ物語はどんどん熱くなり試合は熾烈を極め、観ているこっちもすっかり物語にのめり込んで二人に歓声を送ることになります。途中「絶対あしたのジョー読んでるだろ!?」という展開があってニヤリとさせられますよ!

それと主な舞台となるのが南インド、チェンナイというのがいいですね。主人公マディはチェンナイの貧しい人々の住む地域で暮らし魚を獲ったり売ったりして生活していましたが、貧しいとはいえこの生活感がなんだか観ていて馴染むんですよ。チェンナイという場所の開放感溢れるロケーションがそう思わせるのかもしれません。最初はマディのボクシング生活に関心を持たなかった彼女の父親が、試合を経るにつれ娘に大歓声を送るようになる様は泣かせます。

それにしても何故チェンナイなのでしょう?Webサイト「THE HINDU」の「Rolling with the punches」という記事を読んだところ(英文)、もともと北チェンナイでは女子ボクシングが非常に盛んなのだそうなんですね。それは世界の様々なゲットーから生まれるボクサーと同じように、プロボクサーになることが、貧困から抜け出すことのできる大きなチャンスの一つだからだというのです。北チェンナイのボクシングはモハメド・アリ人気が手伝って70年代から盛んになり始めましたが、90年代後半から女子選手が現れるようになり、政府もそれに助成を行っているようなんですね。

そして最後に言いたいのは、なにしろ主演のR・マーダヴァンの変わりようですよ!『きっと、うまくいく』や『Tanu Weds Manu』の時はこんなだったのに、
 
今回なんかこんな髭もじゃガチムチな上に、探したらこんな色男写真までありましたよ!?これホントにマーダヴァンなんですか?固太り体型のオレもこんな髭生やせば色男になれますかね……?