全篇結婚式だらけのインド版結婚狂想曲!〜サルマーン・カーン主演映画『Hum Aapke Hain Koun…!』

■Hum Aapke Hain Koun…! (監督:スーラジ・バルジャーティヤ 1994年インド映画)


インド映画も名作良作凡作駄作とあれこれ観てきましたが、この作品はそんな中で「なんかよく分かんないけどスゲエ…」と唖然とさせられた作品なのでありますよ。

サルマーン・カーンとマードゥリー・ディークシトが主演した1994年公開の映画なんですが、その「スゲエ」は「スゲエ面白い」の「スゲエ」というよりは「こんなもん作ってあまつさえ大好評大ヒットしてしまうというインド人の国民性がスゲエ、おまけにヤヴァい」であり、日本人であるオレとしては内容の面白さよりもそんなインド人のヤヴァいメンタリティに気圧されまくってしまう、そういった「スゲエ」なんですな。

で、どういう内容なのかというと、全部で3時間以上あるインドらしい長い映画なんですが、その3分の2から4分の3ぐらいは殆ど結婚式シーンという映画なんですよ。つまり上映時間3時間のうち2時間ぐらいが結婚式シーンということなんですね。いやまあインド人が結婚式大好きというのは心得ているつもりだし、実際の結婚式も1週間も続いちゃうとか相当なことも聞いてますが、まさか映画でここまでやっちゃうのか、という感じなんですよ。

そしてもちろんただ結婚式やってるわけじゃない。そこにインド映画十八番の歌と踊りがこれでもかこれでもかと盛り込まれているんですよ。幾らインド映画とはいえ通常なら物語の合間に歌と踊りが盛り込まれるものですが、この映画は歌と踊りが延々と続き、その合間に思い出したかのように物語が挟まれるんです。というか物語なんて殆ど無い!一応製作者もこれじゃあアカンと思ったのか、最後の30分ぐらいで思いっきり駆け足で物語が展開します。起承転結で言うと「起」が2時間半ぐらいあって、残りの「承転結」が30分で語られるというあり得ない構造をしているということなんですよ。

あんまり歌と踊りだらけなので調べてみたら、この作品のサントラ収録曲は全14曲71分というインド映画サントラでも破格の長さで、要するに映画の3分の1は歌ってるか踊ってるかその両方かということになるんですよ。しかもこのサントラは大ヒットを飛ばし1000万枚も売れた…というデータを読んだんですが100万枚の間違いじゃないのか!?オレの見方が間違ってるのか!?本当に1000万枚なのか!?(こちらの1994年参照)

これだけスゴイ映画なものですから、インド映画史的にも破格の存在となっています。それまでボリウッド作品はTVに押されて凋落傾向にあったらしいのですが、この作品と翌年公開されたあの『DDLJ』で観客数が40%もUPしたのだそうです。さらに10万ルピーの売り上げで「ブロックバスター」と呼ばれていたボリウッド作品でしたが、この映画の驚異的な売り上げにより興行成績20万ルピーでブロックバスターであると底上げされたのだとか。またインド映画監督カラン・ジョハールはこの作品が彼の人生を変えた映画作品の一本であると述べ、『Kismet(1943)』『Mother India(1957)』『Mughal-e-Azam(1960)』『Sholay(1975)』と並ぶインド映画作品であると絶賛しています。

これ、要するに「徹底的な多幸感をどこまでも徹底的に描く」作品だと思うんですね。しかも”結婚式”というインド人なら老若男女誰でも楽しめるテーマでそれを可能にしているんですね。つまりこの映画は「最大多数の最大幸福」を映画の中で実現してしまったともいえるわけなんですよ。それがインド人ならではのメンタリティに負うものであるとはいえ、やはりこういう作品を生み出しそれを圧倒的に大勢の人が観て大好評で迎い入れる、そういったインド映画の独特さに、やっぱりインド映画スゲエ、としみじみ思わざるを得ないんですよね。なにしろ日本人が観て楽しめるかどうかは別なんですが、「物凄いインド映画を観てみたい」と思われた方は一度お試しされてもよろしいのではないでしょうか。