早川書房創立70周年記念コミックアンソロジーのSF篇とミステリ篇を読んだ。


赤と青のエクスタシー。早川書房が創立70周年だとかでコミックアンソロジー2冊を刊行したのである。『Comic S』『Comic M』というタイトルから判るように、一方は「サディズム篇」、もう一方は「マゾヒズム篇」である。内容は『SMスナイパー』も真ッ青なムチと三角木馬と荒縄の踊る大倒錯大会であり、早川も70周年を迎え大きく舵を切って見せたわけで、内容はどうあれ、この英断には感嘆せずにいられない。
・・・というのはもちろん冗談で、『Comic S』はSF篇、『Comic M』はミステリー篇ということであり、内容はかつて「S-Fマガジン」「ミステリーマガジン」を飾ったコミック作品と書き下ろしで構成されている。収録作家も手塚治虫をはじめとするそうそうたる古参ベテラン漫画家から今現在人気を誇る新世代の漫画家まで網羅され、なかなかに豪華である。詳しい収録作家と作品タイトルは下に記載しておいた。
さてざっくりした感想を書くと、雑誌既出作家の作品は今読むとさすがに古臭いなあ・・・と思うし、書き下ろし作家の作品は「アックス」や「コミックビーム」みたいなオルタナティブ志向の作品が多くて、これは好みが分かれるよなあ・・・と思ってしまった。正直に言うと自分はこういった新世代の漫画家作品を殆ど読まないので結構微妙だった。最近の漫画家って実はよく知らないんです・・・。それと4ページ程度の短い作品が多くて、なんだか物足りないんだよな。なんかこー全体的に「有名作家も書いている薄い本」って雰囲気が残念なんだよなあ。
そんな中でよかったのは〔SF篇〕では宮崎夏次系「と、ある日の僕のひも」で、これはなんと〔ミステリ篇〕の同作家による「と、ある日のわたしとタケル」と連動していて、読んでいて驚いた。coco「俺の夢の妹 Sister of My Dreams」は端正なグラフィックが美しい上に馴染み深いキーワードが多くアップトゥデイトな作品としてまとまっていた。〔ミステリ篇〕オカヤイヅミ「そしてみんないる」は素人探偵の顛末を描いたスラップスティックだが、16ページできちんと練られた物語が展開しておりこれは読み応えがあった。

○「Comic S──早川書房創立70周年記念コミックアンソロジー〔SF篇〕」収録作品(収録順)

手塚治虫「熟れた星」(S-Fマガジン1971年2月号掲載)
松本零士「衛星2連独房」(S-Fマガジン1972年2月号掲載)
石森章太郎「7P(2) ― H・G・ウエルズに」(S-Fマガジン1969年10月号掲載)※(2)は、2に○が正式表記
永井豪「キャプテンパースト」(S-Fマガジン1970年11月臨時増刊号掲載)
萩尾望都「ラーギニー」(S-Fマガジン1980年2月号掲載)/小学館文庫「半神」収録
ふくやまけいこ「ドロシー」(S-Fマガジン1984年8月号掲載)
吾妻ひでお「水人(みづびと)」(描き下ろし)
とり・みき「SF小僧の幽霊 THE GHOST OF SF KID」(描き下ろし)
横山えいじ「並行ウォーズ」(描き下ろし)
今井哲也「おじいちゃんの書斎/宇宙」(描き下ろし)
ツナミノユウ「眼鏡を買いに」(描き下ろし)
つばな「不登校」(描き下ろし)
西島大介「ミスターどーなつ」(原案:北野勇作)(S-Fマガジン2002年6月号掲載)
吉富昭仁魔法少女タイムちゃん その1 お姉ちゃんは階段を落ちる夢を見るのか」(描き下ろし)
宮崎夏次系「と、ある日の僕のひも」(描き下ろし)
coco「俺の夢の妹 Sister of My Dreams」(描き下ろし)

○「Comic M──早川書房創立70周年記念コミックアンソロジー〔ミステリ篇〕」収録作品(収録順)

高橋葉介「夢幻紳士〔出張篇〕座敷鬼(ざしきおに)」(ミステリマガジン2011年4月号掲載)
高橋葉介「顔」(ミステリマガジン2011年4月号掲載)
小道迷子「ホームズくんの秘密」(ミステリマガジン1987年9月号掲載)
安西水丸「ホームズ君の一日」(ミステリマガジン1987年9月号掲載)
古川タク「ソーイウキミハ」(ミステリマガジン1987年9月号掲載)
横山えいじ「ホームズ君の依頼人をさがせ!」(ミステリマガジン1995年2月号掲載)
いしかわじゅん「彼ら」(ミステリマガジン1994年7月号掲載)
たがみよしひさ「壊れているか...」(ミステリマガジン2001年8 月臨時増刊号掲載)
坂田靖子「幽霊執事 番外編 そして誰もいなくなったりしない」(描き下ろし)
オカヤイヅミ「そしてみんないる」(描き下ろし)
腹肉ツヤ子「愛の街角」(ミステリマガジン2007年7月号掲載)
小原愼司「そして誰か居なくなった」(描き下ろし)
地下沢中也「犬は勘定しきれません」(描き下ろし)
矢寺圭太「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」(描き下ろし)
シモダアサミ「心地よい場所」(描き下ろし)
石黒正数「性なる侵入」(描き下ろし)
吉富昭仁魔法少女タイムちゃん その2 時流家の怪事件」(描き下ろし)
宮崎夏次系「と、ある日のわたしとタケル」(描き下ろし)
高橋葉介「夢幻紳士〔営業篇〕Come Mad and Go ―さぁ気ちがいになりなさい―」(描き下ろし)