11歳で結婚。度重なる差別と虐待の未に女盗賊へ。実話を基にした恐るべきインド映画『Bandit Queen (女盗賊プーラン)』

■Bandit Queen (女盗賊プーラン)/ (監督:シェカール・カプール 1994年イギリス/インド映画)

■どこまでも凄惨な実話映画

凄まじい映画を観た。インド映画である。しかもこの凄惨な物語は実話なのだという。

プーラン・デーヴィー。1963年インド北部ウッタル・プラデーシュ州の寒村に生まれる。カーストは最低位のシュードラ。口減らしのために11歳で幼児婚。度重なる差別と虐待、性的暴行。その後山賊団に誘拐され、紆余曲折を経てその女首領となる。人々から「盗賊の女王」と呼ばれ、略奪と殺戮を繰り返し、遂に警察に逮捕される。11年間の刑期の後、出所して政界に進出、政治家として活躍中、2001年、暗殺。享年38歳。

なんという数奇な人生だろう。しかもこれが、それほど遠くない過去のインドにあったことなのだ。映画『Bandit Queen』は、そんなプーラン・デーヴィーの波乱に満ちた半生を描いた実話映画である。

物語は一人の少女が親ほども年の離れた男と結婚させられるシーンから始まる。少女の名はプーラン。父母から引き離される悲しみに泣き叫ぶ彼女を引き留める者は誰もいない。夫となった男は幼いプーランを無理矢理犯し、虐待と重労働を課した挙句、物心つくころには彼女を追い出してしまう。出戻りしたプーランに対する村人たちの目は冷たい。謂れのない侮蔑と迫害の末、村人たちはプーランを集団で辱め、さらに警官たちですら彼女を慰み物にする。そんな彼女を今度は山賊がさらう。山賊の首領もまた彼女を性具として扱う。しかしプーランを哀れに思った山賊の男ヴィクラムが首領を射殺、そしてヴィクラムとプーランは結ばれる。だがその幸福も束の間だった。ヴィクラムが裏切りにより暗殺されたのだ。怒りと悲しみから鬼神となったプーランは、盗賊の女王となり、血塗れの復讐を開始する。

■苛烈を極める映像表現

それにしても凄惨な物語だ。前半などは度重なるレイプ描写に、最初「インド映画でもここまで描くのか」と思っていたものが、段々と「ハリウッド作品だってここまで陰惨に描きはしない」と思えてしまったぐらいだ。極め付けはプーランが辱めの為に丸裸にひんむかれ、白昼の町中をヘア丸出しで歩かされ、そして住人たちは誰も彼女を助けない、というシーンだ。これがまさに、ヘア丸出しの丸裸で演じられる。この年代でインド映画がここまでやってしまっていたとは、と愕然とさせられるシーンだ。しかしこれは、そこまであからさまに描かないと、プーランが実際にこうむった悲惨を表現できない、まさに必然的なシーンなのだ。そこにあるのは丸裸の女性だが、エロスでも何でもない、あるのはただただ恐怖であり、屈辱であり、観る者は街中で裸で歩くプーランとなってそれを体験させられてしまうのだ。それはなんと恐ろしいことなのだろう。これら全てはインドのカースト差別と女性差別から引き起こされているのだ。

また、女盗賊となってからの中盤以降は荒野と山岳地帯を舞台とし、その荒涼とした光景の中で展開する銃による殺戮劇はどこか西部劇的ですらある。復讐のためプーラン一派によって惨殺された村人たちの血が川のように流れ、その血潮の上を裸の幼子が歩いてゆく、といった描写には、アレハンドロ・ホドロフスキーを思わせる陰鬱な詩情を感じることすらできる。映画全編を凌辱と暴力と死とが覆い、その中で己の自由と平等と尊厳のために駆け抜ける女プーランが描かれてゆくのだ。その描写は苛烈を極め、目を背けたくなるほどであるが、しかし苛烈であるからこそ、プーランの自由への渇望がより一層赤々と燃え滾る様を観ることができるのだ。

このように過激な描写に満ち溢れた作品だが、こういった描写の多くは、実は作品がイギリス資本が入って製作されたものだという理由もあるのかもしれない。まあ、自分が知らないだけで、こういった過激なインド映画は撮られていたのかもしれない。どちらにしろ、こういった他国の資本が入れば、1990年代前後のインドですらこのような作品を洋々として作ることが可能であり、そしてまた作り出す事の才気とテクニックを持っていた、ということでもあると思う。インド映画監督は別にマサラ映画しか作れない・知らないのではなく、観客がマサラ映画を求めるからそれを作っていただけということなのだろう。この作品はその凄まじい描写とプーランの恐ろしい運命にのみ目が行きがちだが、むしろ「インド映画に何ができるのか・できたのか」の指標の一つとして観ることもできる作品であると思う。

■女盗賊プーランの生涯

映画は山賊となったプーランが逮捕されるまでが描かれ、その人生全てを描くものではない。この作品は文盲のプーランが口述筆記した自伝『女盗賊プーラン』(翻訳あり)を元にしているが、映画作品のほうは勝手な脚色が成されていると原作者プーランの逆鱗に触れ、一時インドで公開差し止めされていたという。このような"実話"映画には監督による脚色が入るのは常であり、だからこの作品が真実のプーラン物語である、と受け止めるのは控え、少々割り引いてみるのが正解かもしれない。

プーランは金持ちから金を奪う義賊としてもてはやされ民衆の支持を得、その投降の際には1万人に上る観衆が集まったという。プーランは11年の獄中生活の後恩赦により釈放され、国会議員に立候補、見事当選を果たした。これは下位カーストの人間が社会に進出する象徴的な出来事のひとつだったという。ただ、彼女が盗賊時代に復讐と称して22人の村人を惨殺した「ベヘマイー村虐殺事件」(本人は関わっていないと否定)の責任が果たして解決したのかという議論もあり、グレーな部分のあることは否めないらしい。政治家と活躍していた頃、彼女は2度日本に来たことがあるという。

監督のシェカール・カプールはインド映画では『Mr.India』の監督、『Dil Se..』の製作として有名だ。だがこの『Bandit Queen』を撮った後に認められ、イギリスで『エリザベス』(1998)、『エリザベス:ゴールデン・エイジ』(2007)を監督している。また、サウンド・トラックは日本でも有名なパキスタンの音楽家、ヌスラト・ファテー・アリー・ハーンが担当していることも見所の一つとなるだろう。映画はカンヌ他各国で絶賛され、米TIME誌のベスト10作品にも選ばれたという。また、映画は『女盗賊プーラン』というタイトルで日本でも1997年にVHS販売されていた。

文庫 女盗賊プーラン 上 (草思社文庫)

文庫 女盗賊プーラン 上 (草思社文庫)

文庫 女盗賊プーラン 下 (草思社文庫)

文庫 女盗賊プーラン 下 (草思社文庫)

インド盗賊の女王 プーラン・デヴィの真実

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Bandit Queen

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