兄弟同士の因縁が炸裂する格闘競技ドラマ『Brothers』!

■Brothers (監督:カラン・マルホートラ 2015年インド映画)

■『Agneepath』のカラン・マルホートラ監督作品

熱い。火傷しそうなほど熱い。格闘競技大会でぶつかり合う兄弟を描いた『Brothers』はとても熱い映画だ。主演のアクシャイ・クマールが熱い。シッダールト・マルホートラが熱い。ジャッキー・シュロフは渋い。ジャクリーン・フェルナンデスはボディがホット。アイテム・ガールのカリーナー・カプールは目張りの化粧が厚い。そして監督は灼熱のように熱い映画『Agneepath』(2012)のカラン・マルホートラ。そりゃあ熱いのも納得だ。そしてこの作品、トム・ハーディ主演による2011年公開のアメリカ映画『ウォリアー』のボリウッド・リメイク作で、そちらのファンも気になるんじゃないかな。

《物語》ガリー・フェルナンデス(ジャッキー・シュロフ)は酒にも女にもだらしないクズ男だった。彼には妻と一人息子ダヴィドがいたが、よその女と作った男の子モンティを預かり妻に育てさせた。ある日へべれけに酔った彼は妻と言い合いになり、勢い余って妻を殺してしまう。それから幾年月、刑務所を出所したガリーを迎えたのはモンティ(シッダールト・マルホートラ)だけだった。ダヴィド(アクシャイ・クマール)には母を死に至らしめた父も、腹違いの弟も、憤怒の対象でしかなかったのだ。そしてダヴィドとモンティは二人とも格闘家となっており、おりしも開催されることになった世界格闘競技大会で因縁の顔合わせをすることが決まっていたのだ。

いやーなにしろ熱い映画だった。親子兄弟の因縁と確執が溶岩のようにどろどろとくすぶりながら、それとは裏腹になけなしの愛と尽きせぬ悔恨とが哀切に満ちた描写で語られてゆくのだ。愛と憎しみは表裏一体とは言うが、まさしくそんな物語だ。様々な感情が混沌と混じり合い、むせかえるような情念の渦となって奔出する様は、同じカラン・マルホートラ監督による『Agneepath』を思いださせずにはいられない。愛と憎しみに彩られた大復讐譚『Agneepath』も、この『Brothers』のように悲しい運命に立ち向かおうとする男の物語だった。

■親子兄弟の確執


父であるガリーは誤って妻を殺めたことに深い悔恨と自責の念を覚えている。しかもそれにより二人の息子は仲違いしている。こうしてガリーは過去と現在の二重の苦しみの中で文字通りボロボロになりながら悶え苦む。このガリーを演じるジャッキー・シュロフ、『Parinda』(1989)や『Khalnayak』(1993)といった古い映画での印象が強かったのだが、調べたら『チェイス!』(2013)や『Happy New Year』(2014)にも出ていた。若い頃と今のオジサマの顔が結びつかなくて気付いていなかった!

フェルナンデス家の長男ダヴィドはそれまで格闘家を引退し、学校教師となっていた。彼は母の命を奪った父を決して許さず、子供の頃仲が良かった腹違いの弟モンティとも父憎しの心が勢い余り絶縁するのだ。実はダヴィドは格闘家を引退していたのが、難病の娘の治療費のために再び闘いの世界に戻る。しかし長いインターバルからコンディションはベストとは言えず、それでもボロボロになりながらも戦いを続けてゆく。今年アクシャイが主演した『Baby』も『Gabbar Is Back』もあまり楽しめなかったが、この作品での満身創痍で戦う姿には流石に見惚れてしまい、今年一番好きなアクシャイ映画となった。

そんな彼を支えるのが妻のジェニー。個人的にはジェニー演じるジャクリーン・フェルナンデスは、モデル顔の美人であるという以外たいして面白味のない女優だと感じていたが、この作品での彼女は一味違う。マルホートラ監督の演出の良さだろう、非常に生活感があり表情が豊かで、実に地に足がついた演技を見せる。夫ダヴィドの暴力的な試合なんか見たくない!と最初TVさえつけなかった彼女が、2回目にはきゃあきゃあ言いながらTVに釘付けになって応援し、3回目では試合会場にまで赴いて観戦する、といった描写がとっても可愛らしい!

そして弟のモンティ。若々しく強力さを備えた彼はストリートファイターから格闘競技大会へと選抜される。不幸な事件があったとはいえ、彼は父も、兄のことも愛している。だからこそ彼は兄が父と自分を絶縁したことに心悩ませる。そして否応なしに兄との対決は迫ってくるのだ。モンティを演じるシッダールト・マルホトラは『スチューデント・オブ・ザ・イヤー 狙え!No.1!!』(2012)でイケメン俳優としてデビューしながら『Ek Villain』(2013)でどす黒い復讐鬼を演じ、そしてこの『Brothers』では混乱に満ちた生をやはりボロボロなって生きる男として登場する。

■戦いの向こうに


このように、この作品に登場する男たちは皆が皆ボロボロなのだ。それは彼らの人生の中心にあるのが苦痛に満ちた思い出だからだ。その苦痛に父ガリーは成すすべもなく苛まれ、兄ダヴィドは苦痛そのものが存在しなかったと思いこもうとし、ただ弟モンティだけが苦痛と向かい合いそれを乗り越えようとしている。ただどちらにしろ、彼らは、一人ではその苦痛をどうしようもできないでいる。なぜなら、バラバラのままなら相手も自分も赦されず、そして赦さないからなのだ。こうして、どちらが勝とうが負けようが何も解決されない戦いだけが刻一刻と近付いてゆくのである。

映画は前半を家族の葛藤のあらましとその現在とをエモーショナルに物語り、そして後半で格闘競技大会での戦いを迫真の描写で見せてゆく。出場者は誰もが血に飢えたような猛者ばかりだ。この格闘競技の様子は各試合ごとに流れを変え見せ場を作り、十分格闘競技の興奮を伝えるものになっている。これが大いに盛り上がるものだから、逆にもっと見せて欲しい、これだと短い、とすら感じさせるぐらいだ。長いインド映画に慣れてしまい「もっと長くしてくれ」と感じるとは難儀なものである。さて宿命の対決の結果は、その勝利は兄弟どちらにもたらされるのか。果たして彼ら家族に和解と赦しの時はやってくるのか。終局に向けて怒涛の展開を迎える映画『Brothers』、これは魅了されること必至の作品だろう。