驚異の超展開〜『プリムローズ・レーンの男(上)(下)』 / ジェイムズ・レナー

オハイオの田舎町で「プリムローズ・レーンの男」と呼ばれてきた世捨て人が殺された。なぜか一年じゅうミトンをはめていたその老人は、殺害時、すべての指が切り落とされミキサーで粉々にされていた。ノンフィクション作家のデイヴィッドは、編集者にこの事件を調べるよう求められた。愛妻の死後、断筆を続けていたが、この事件には何か特別なものを感じる。作家は調査の乗り出すが、信じがたい事実が次々と明かされ…。
デイヴィッドは「プリムローズ・レーンの男」殺害の第一容疑者として警察にマークされていた。地元のゴシップ紙がそれを報じ、彼は好奇の目に晒される。やがて殺された男と死んだ妻の関係を示唆する証拠が発見されると、デイヴィッドへの疑念はさらに高まった。挙句の果てに、彼は妻の殺害容疑まで着せられて窮地に追いこまれる。だが、あまりに意外な人物が彼の救出に現れるのだ!怒涛、衝撃、唖然、驚愕!圧倒的スリラー。

物語は奇妙な殺人事件から始まる。一軒家に一人で暮らす老人が拳銃で撃たれ、その老人の全ての指は切り落とされミキサーにより粉々にされていた。物取りの犯行ではなかった。生前の老人は他人と殆ど接触を持たぬ隠遁者で、常にミトンをはめている変わり者として近所で知られていた。そして調べると老人の身元は偽りであり、銀行には多額の預金が存在していた。この謎だらけの事件を著作にするため、主人公である犯罪ドキュメンタリー作家は調査を開始する。しかしその謎も解明されないまま、調査の途上にある連続幼女誘拐殺人事件が浮かび上がり、さらに主人公の死んだ妻との関連性までが疑われはじめたのである。

この『プリムローズ・レーンの男』、帯の惹句に「二転、三転、四転、五転!?この物語はどこへ向かうの?」「予想の斜め上を行く展開に目が点になり続ける!!!」などとあるように、とにかくとことん予想を裏切りまくる物語展開を見せる小説である。そしてその意外な展開は、物語の真相が明らかになるにつれ、「意外」どころか「とんでもない超展開」へと発展するのだ。冒頭の殺人事件からは政府やマフィアがらみの陰謀か…と思わせながら、なぜかそのあと延々と主人公とその家族、亡くなった妻との出会いの場面が続く。これはいったいどうなっているんだ?と思わせておいて、過去に起こった連続幼女誘拐殺人事件が唐突に浮かび上がり、さらに「死んだ妻とよく似た女性」の影がちらつき、しまいにはその妻を殺した嫌疑が主人公にかけられてしまうのである。

それだけではない。上巻の中盤で、「え??」と呆気にとられるような異様な出来事が起こり、それがなんなのか、物語の本筋とどうかかわるのか何の説明もないまま物語は続いてゆく。この「え??」と思わせる出来事がまさにこの物語後半の「とんでもない超展開」の予兆となるのだが、次々に投げ出され膨らみ続けてゆく謎、予断を許さぬ展開、それらと合せて読者は大いに翻弄されながら物語を読み進めてゆくことになるのだ。そして、それがこの物語の最大の面白さということができるだろう。

この物語のキモとなるのはこの「超展開」の真相であり、その驚天動地ともいえる真実が読者に突き付けられた瞬間であるが、ここでその「真相」をどう受け止めるかで評価は変わってくるだろう。しかもこの物語はその「真相」が明かされて終わりになるのではなく、その「真相」をアクセルとして、物語がそれまでと全く違う次元へとさらに加速し展開してゆくのだ。膨大な謎を投げかけその伏線をパズルを解くように回収しつつ思いもよらぬラストを組み立ててゆく手腕にも唸らされる。まさしくあっと驚く”奇想”サスペンス、『プリムローズ・レーンの男』は今までにないスリラーを読みたい方に大いにお勧めしたい。そして、呆然とするがいい。

プリムローズ・レーンの男〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

プリムローズ・レーンの男〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

プリムローズ・レーンの男 下 (ハヤカワ文庫NV)

プリムローズ・レーンの男 下 (ハヤカワ文庫NV)