惚れた彼女は親の決めた相手と婚約済み!〜映画『Humpty Sharma Ki Dulhania』

■Humpty Sharma Ki Dulhania (監督:シャシャンク・カイタン 2014年インド映画)


惚れた彼女は親の決めた相手と婚約済み、そんな彼女との結婚をなんとか認めさせようと奮戦するいたいけな男子を描くラブ・コメディです。主演はヴァルン・ダワンとアーリヤー・バット、当代インド映画界のフレッシュな二人が『スチューデント・オブ・ザ・イヤー』に続き共演したことでも話題になった映画ですね。さらにこの映画、SRKが主演した伝説の名作『Dilwale Dulhania Le Jayenge』(DDLJ)をその設定に生かした作品でもあるんですよ。

主人公カヴヤ(アーリヤー・バット)は自分の結婚式で着る高級デザイナーズ・ドレスを探しにデリーに訪れていた。カヴヤはそこでハンプティ(ヴァルン・ダワン)という青年と知り合う。ハンプティは高価な結婚衣装を欲しがるカヴヤを笑ったが、資金集めに協力し、いつしか二人は恋に落ちる。しかしカヴヤの結婚は間近、そこでハンプティはカヴヤの父(アストーシュ・ラーナー)を説得しようと試みるが、かえって逆麟に触れ、挙句の果てにボコられてしまう。それでも懸命に取り入るハンプティに、カヴヤの父は「結婚までの5日間に何か一つでも優れたところを見せろ」と命令する。しかしそこに現れたカヴヤの結婚相手は、なにからなにまで抜群のスキルをもった男だった!

親の決めた結婚相手のいる女性と恋におち、その彼女と結ばれるために大奮闘する主人公、という物語はインドの恋愛映画の基本中の基本ともいえるもので、多くの傑作や名作が生み出されています。こんなにテーマとして取り上げられるということは、あちらの国では相当多くの結婚が「親の決めた相手とするもの」という慣習によって行われているということなのでしょう。それによる悲恋や別れがあるからこそ、このようなテーマの映画に共感が生み出されているのかもしれませんが、この慣習に対して不満がないとしても、「自由恋愛」というものに対する憧れがあったりもするのでしょう。

しかし個人的には、映画のテーマとしてはそろそろ食傷気味で、よっぽどひねってくれないと、なんだか「ああまたか…」としか思えなくなってきてるんですよねえ。そういった部分でこの『Humpty Sharma Ki Dulhania』、いったいどういうひねりを見せてくれるのか、と思っていたんですが、まずこの作品で打ち出した新機軸と思しき点は、SRKの傑作恋愛ドラマ『DDLJ』の持つモチーフを作品のあちこちに盛り込み、または換骨奪胎して、『DDLJ』を観ていないわけがないインドの観客に大いにくすぐりを入れる、ということだったようなんですね。

そういった前評判があったものですから、実はこの作品を観る前に、まだ観ていなかった『DDLJ』を先に観て予習していたぐらいでした(いやー『DDLJ』、噂通りの大傑作でした)。でまあ、感想はといいますと、「あーハイハイ確かに『DDLJ』しているねえ、あーここなんかは設定逆にしてるんだねえ、ナルホドナルホド」などと確認はできたにせよ、じゃあそれが物語を画期的なものにしていたかというと、これはさほどって感じで…。

まずこの映画、前半の、主人公二人が恋に落ちるまでエピソードがあまり面白くありません。いったい何がやりたいの?と思えたぐらいで、もうこの辺からシナリオの拙さが浮き上がってしまってるんですよ。中盤からは「完全無欠の恋の強敵登場!」ということでやっと盛り上がってくるんですが、これをどうやりこめるのか?という部分でひとひねりあるのかと思ったら、これがまた芸のない落とし方で、なんだか拍子抜けしてしまいました。結局「『DDLJ』ぽい」という部分しか見どころの無い新鮮さに乏しいシナリオの作品だったんですが、主演のヴァルン・ダワンとアーリヤー・バットは大健闘していて、ここにこそ見所のある映画だったといえるでしょう。