「女性の気持ちになってみろ!」神様に女に変えられたプレイボーイを描くドタバタコメディ〜映画『Mr Ya Miss』

■Mr Ya Miss (監督:アンタラー・マーリー、サトチト・プラーニク 2005年インド映画)


手の付けられない女たらしの男が、あまりの品行の悪さに神様に戒められ、女性の姿に変えられて大変な思いをしちゃう!?というドタバタコメディです。

プレイボーイのサンジャイ(アーフターブ・シヴダーサーニー)は今日も見境なく女性に色目を使って勝手気ままに過ごしていました。しかし悪いことはできないもの、ガールフレンドの一人ラヴリーンはそんなサンジャイに遂にブチ切れ、言い争いの末サンジャイを鈍器のようなもので殴り昇天させてしまいます。そして…魂となったサンジャイはシヴァとパールヴァティーの前に引き出され「お前は一度女性の苦労を味わうべきだな?」と言い渡されます。暫くして目が覚めたサンジャイはびっくり仰天、なんと彼は女性の体で転生させられていたのです。

サンジャイは親友のシェーカル(リテーシュ・デーシュムク)を頼り、サンジャイの妹サンジャナー(アンタラー・マーリー)と名乗って元の会社に復帰しますが、男たちは女の彼に色目を使うわ痴漢はするわでたまったもんじゃありません。「ううう…女でいるって大変だ…」へとへとになったサンジャナー(サンジャイ)は親友シェーカルとへべれけに痛飲し、はずみで二人は一夜を共にしてしまい、あろうことか妊娠までしてしまうのです!?サンジャイの明日はどっちだ!?

女の気持ちを踏みにじって生きてきた男が、女にされて気持ちを踏みにじりまくられる!というこの物語、男性なら頭が痛いし女性なら溜飲が下がる作品となっていることでしょう。女性に転生しサンジャナーとなったサンジャイは、慣れないハイヒールでよたよたと歩き、ワンピースを変な形に着こなし、長い髪がいつも鬱陶しくてたまりません。しかし心は男のままなので、歩くときは肩をいからせ、苛立ちで顔を歪ませ、ぶっきらぼうな声で喋るんです。まあ元が男ですから、女らしくなんてそうそうできるものではないでしょうが、このどうにも醜悪なちぐはぐさを見せることで、元のサンジャイがどれだけ無神経な男だったのかが分かる仕組みになってるんですね。

この、いかにも無様な「心が男の女」を、女優のアンタラー・マーリーが演じます。こうした不細工ともいえる華の無い役柄をあえて演じる意気込みにまず驚かされましたが、実はこの彼女が本作の監督・脚本も務めていることを知りもう一度驚かされました。一応後半はサンジャナーもすっきりしたショートカットでパンツスーツ姿となり、なんとか落ち着くのですが、アンタラー・マーリーさん自体がこういったファッションのほうが似合う方のように感じました。そしてこのアンタラー・マーリーさん、踊りともなるとキビキビと体が動くダンスの上手さを見せてくれるんですね。決して美人ではないのですが、インド映画界の才女といってもよろしい方なのではないでしょうか。

そして心の千々に乱れるサンジャナーを温かく受け止める親友のシェーカルを演じるのがリテーシュ・デーシュムク君なんですね。これまで自分が何本か観たリテーシュ君映画は、割と情けない男やハチャメチャなお調子者を演じていることが多かったのですが、この作品ではもっと地に足の着いた信頼感のある役どころでしたね。リテーシュ君も決してイケメンというわけではないのですが、もともと気易くて心和ませる男優であるのも確かで、だからこその女性監督からの抜擢だったのかもしれませんね。まあしかし、いくら女になったとはいえ、元の親友とコトを行ってしまう、というのも考えようによっちゃ鬼畜展開ではありますが!

さてこの『Mr Ya Miss』、神様からの戒めで転生させられる、というお話の流れから、実にインド的であると同時に、ある意味教訓的な物語ということもできますが、決して押しつけがましくなく、ドタバタのギャグを通して男女がお互いを思いやる気持ちの大切さを描く、という部分に秀逸さを感じました。自分でやってる時は気付かない、自分がやられて初めて気付く、って実はよくあることですもんね。インドはどちらかというと男性主義的な国といった印象がありますが、製作年である2005年という段階で女性の立場からこういった映画が作られていたこともちょっと感心しました。

http://www.youtube.com/watch?v=Od5fW_fWMw8:movie:W620