顔を変えられた男の二つの復讐譚〜映画『Yevadu』

■Yevadu (監督:ヴァムシー・パイディパッリ 2014年インド映画)


物語性重視のボリウッドムービーが続いたので、物語があんまり面倒臭く無い、単純明快なB級なアクションが観たくなり、テルグ語映画のこの作品を選んでみた。

物語の発端はインド南東の街ヴァイザーグ。サティヤ(Allu Arjun)とディープティ(Kajal Agarwal)は相思相愛の仲だったが、地元のヤクザ、ヴィール・バーイ(Rahul Dev)に因縁を付けられ、彼の手下に追われていた。ハイダラーバードに逃れようと深夜バスに乗り込んだ二人だったが、ヴィール・バーイの手下どもに発見され、二人ともどもナイフの餌食にされたのちバスには火がつけられる。しかしサティヤだけは顔面に大火傷を追いながらも生きながらえていた。女外科医シャイラジャ(Jayasudha)はそんなサティヤに大掛かりな整形手術を施すが、その顔はなぜか別人のものだった。

顔を変えられた理由が分からないままサティヤは病院を抜け出し、ヴィール・バーイとその一味への復讐を開始する。そんなある日、サティヤの姿を見かけたある男がその顔に驚愕し、サティヤに襲いかかる。その男はハイダラーバードのマフィアの親分ダルマ(Sai Kumar)の手下だった。実は変えられたサティヤの顔の正体はチャラン(Ramcharan Teja)という男のものだった。チャランはかつて、スラムの住民に暴力的な立ち退きを要求していたダルマの一派に先頭となって争っていた男だった。そしてそのチャランの母が、サティヤに整形手術を施した医師シャイラジャだったのだ。チャランの身に何があったのか。そしてチャランの母はサティヤに何をさせようとしているのか。

この物語の面白い部分は、まず一つが九死に一生を得た男が、別の男の顔を得て復讐に乗り出す、といったところ、もう一つは、もともとのその顔の持ち主になにがあったのか、という謎に迫るところ、そしてもう一つが、新たな顔を得た男が、もともとの顔の持ち主の復讐にも乗り出す、というところだ。顔を変えられた男の復讐譚、というのはハリウッド映画を探せばありそうな気もするが、ちょっと自分では思い出せない。顔を取り替えらえた者同士の『フェイス/オフ』というアクションもあったが、この物語とはちょっと流れが違う。どちらにしろ、ありえないシチュエーションの物語ではあるが、その有り得なさが逆にこの物語をユニークなものにしているのは間違いない。

物語の流れは以前観たインド映画、『Rowdy Rathore』に似ていなくもない。『Rowdy Rathore』では主人公が同じ顔の別人と間違われ、その別人の男に成り替わって復讐を成し遂げる、という物語だった。調べると『Rowdy Rathore』自体、とあるテルグ映画のリメイクだというから、この『Yevadu』もテルグ映画ではお馴染みのシチュエーションを、換骨奪胎して描かれたものだということもできるかもしれない。それにしても、一つの映画の中で自分の復讐と他人の復讐の二つを成し遂げる、という構成になっている部分がなにしろ面白い。こんな物語だからアクションもたっぷり、テルグ映画らしい非常に残酷でバイオレンス描写の濃厚な映画として仕上がっている。

また、バイオレンス映画ではあるが、極彩色で実に楽しげな歌と踊りはきちんと盛り込まれており、物語の緊張を一気に昇華し楽しませることも忘れていない作品だ。一見水と油のように思われるかもしれないが、意外とこのバイオレンスの中の歌と踊りというのは、殺伐としがちな物語を豊かなエンターティンメントに変える力を持っているのだ。これはインド映画が、映画を最初から「絵空事」と認識しているからこそなのだろう。下手なリアリズムなど退屈で面白味の無いものであることが分かっているのだ。それと併せこの物語、顔が変わる前、変わった後、さらにその顔の本当の持ち主、という3人の男にそれぞれヒロインがいる、というのがなんだか面白い。

それにしても、別人の顔に成り替わりながら、その別人の人生にあった無念を果たすべく復讐を開始する、というのは、その別人の人生を生き直す、すなわち、この物語が、ひとつの転生の物語である、ということができはしないだろうか。つまりこの物語はヒンドゥー教の輪廻転生思想に基づくものである、という見方ができるのだ。そしてインド映画における勧善懲悪というのは、それが物語として単純明快な楽しさがあるからというのと同時に、因果応報の法則に則られたものであるからという言い方もできるのだ。そういった部分で、痛快なアクション映画ながら、インドの心象も見え隠れする作品としてこの『Yevadu』は面白かった。

http://www.youtube.com/watch?v=Fh0UmGbHsII:movie:W620