■Bol Bachchan (監督:ローヒト・シェッティー 2012年インド映画)
インド映画を観ていてたまに目にするのがイスラム教徒とヒンドゥー教徒との対立です。暴動まで発展する事件はあるものの、普段は気の置けない隣人同士として、案外普通に平和に共存しあっているそうなのですが、それでも越えられない一線は確かにあるようです。この映画『Bol Bachchan』はイスラム教徒の青年が、ある事情からその信教を隠し、ヒンドゥー教徒と偽って仕事をしなければならなくなったことから起こるドタバタを描いたコメディ映画です。
主人公の名はイスラム教徒のアッバース・アリー(アビシェーク・バッチャン)。親戚との裁判に負け全財産を失った彼は、住んでいたデリーを離れてラーナクプルに移り住み、地元を治めるプリトヴィーラージ(アジャイ・デーヴガン)の元で働くことになる。このプリトヴィーラージ、大変実直な男で、嘘つきには過激な制裁も辞さないという大の嘘つき嫌い。しかしアッバースはある事件が理由で、自分がイスラム教徒であることを隠さねばならず、自分はヒンドゥー教徒でアビシェーク・バッチャンという名だ、と嘘をついてしまう。最初こそ上手く行っていたアッバースだったが、次から次にボロが出て、その度に嘘に嘘を重ねて行くようになり、次第に事態は収拾がつかない方向に行ってしまう。果たしてアッバースの嘘はバレてしまうのか!?
うーむ、こうして粗筋を書いてみたけれど、日本人にはやはり伝わり難い部分がありますよね。主人公の名前アッバース・アリーは、もうそれだけでイスラム教徒だって分かってしまう名前で、だからそれがバレないようにヒンドゥー教徒の名前であるアビシェーク・バッチャンを名乗った、ということらしいのですね。
しかし解り難いのはここぐらいで、その後は結構分り易いムスリムネタが続きます。まずムスリムの断食、ラマダーンをしていたアッバースがプリトヴィーラージに「なんでお前メシ食わんの?」とつっこまれ、「いやいや実は病気の母親の看病してまして!」と嘘ついちゃいます。しかし「ほうほう感心感心、じゃあ君のお母さんのお見舞い行っちゃる!」なんて言われたもんですから大慌て、母親の代役を探すために街中駆けずり回ります。さらにムスリムの礼拝をしていた所を見られたアッバースが追及され、「いやいやあれはオカマダンサーの兄なんです!」と訳の分かんない嘘をついたばっかりに、「じゃあ俺の妹にダンス教えてくれるよう兄さんに言ってくれ!」なーんて事態になり、アッバースは泣く泣くオカマの兄の振りしながらクネクネとプリトヴィーラージのもとを訪ね、「あらいや〜ん」とか言ったりしてるんですな!しかしオカマダンサーを演じるアビシェーク・バッチャン、結構板についていたような気が…ッ!?
いやいやそんな嘘すぐバレるだろ!と思いますがさにあらず、嘘をつかれているプリトヴィーラージ本人が、バカが付くほど素直な男なもんですから、簡単に信じちゃうんですね。いつも怖い顔しているくせに、ちょっぴり頭の構造がシンプルなプリトヴィーラージの信じやすさがまたお話を面白くしているんですね。プリトヴィーラージの側近は「親方、こんなもん嘘に決まってますよ!?」と進言するんですが、そんな側近に「てめえこの野郎、真面目で働きもんのアビシェークが嘘つくわけないだろ!?」と逆に側近をその都度ボコにしちゃったりするのがまたまた可笑しいんです。
しかもアッバースはプリトヴィーラージの妹に惚れてしまい、おまけにプリトヴィーラージもアッバースの妹に惚れてしまうもんですから、お話はなお一層ややここしくなっていきます。ギャグだけではなく監督であるローヒト・シェッティーらしい派手なアクションも随所に盛り込まれ、非常に楽しめる娯楽作として仕上がっていましたよ。