幾多の危機を乗り越えながら固く結びあう友情を描く秀作映画『Kai Po Che』

■Kai Po Che (監督:アビシェーク・カプール 2013年インド映画)


この作品は3人の青年たちの「様々な困難を乗り越えてなお固く結びつく友情」を描いています。しかしその困難は一筋縄のものではありません。そしてその中で主人公たちの友情は何度も危機を迎え、各々もまた自分自身の問題を抱えているんです。

主人公となるのはまず一人目、ゴーヴィンド(ラージ・クマール)。彼はクリケットの商品を扱うスポーツ店を経営しようと考えています。性格は真面目で頭もよく、家庭教師のアルバイトもしており、教え子の少女と恋に落ちる、なんて展開もあります。二人目はイシャーン(スシャント・シン・ラージプート)。元花形クリケット選手でしたが今はぶらぶらして過ごしています。熱血タイプの性格ですが、時に行きすぎて激高し、様々なトラブルをおこしてしまいます。しかしまた、その真っ直ぐで情熱的な性格が周りを引っ張ってゆくんです。三人目はオーミー(アミト・サード)。ヒンドゥー教司祭の息子である彼は、中庸でおっとりした性格です。いわば三人の中でのムードメーカーといったところでしょうか。資産の潤沢な親戚を持ち、ゴーヴィンドの起業に資金提供をします。しかし後半、この彼の豹変が物語を悲劇的な方向へと導いてしまうんです。

この物語ではクリケット競技が大きく取り上げられますが、これはクリケットが、インドで最も人気のあるスポーツだからということなんです。かつてインドが大英帝国の植民地だった時代に、クリケットは紳士のスポーツとして大いに浸透したらしいんですね。その熱狂ぶりといったら、日本におけるサッカーや野球と同等かそれ以上といってもいいでしょう。だからこの作品に限らず、インド映画を観ているとクリケット観戦をしている様子をたまに目にすることがあります。自分はクリケットのルールは知らないんですが、映画を観賞するのにはそれほど支障ありませんでした。ただオレ、基本的にスポーツに興味が無いので、この作品の内容とか完成度以前にちょっと醒めて観ていた部分はなきにしもあらずでした。

物語は前半までクリケット店の起業、経営、拡張、さらにクリケット学校の運営に対する3人の青年たちの悪戦苦闘の様子が描かれます。しかし軌道に乗ってきた彼らの仕事が、あることで突然の崩壊を迎えます。それは2001年に物語の舞台となっているグジャラート州で実際に起こったインド西部地震です。死者2万人、負傷者16万6千人を出したというこの地震で、3人は多くのものを失います。その絶望の中から再び立ち上がろうと様々な苦労を重ねる3人でしたが、不幸はまたしても彼らを襲います。2002年、宗教的対立によりヒンドゥー教徒が1000人を超えるイスラム教徒を一方的に虐殺したというグジャラート暴動がそれです。これにより3人の友情は大きく引き裂かれていくのです。このようにこの物語は現代インド史に残る大事件をいくつも取り上げながら、その中で翻弄されてゆく人々の姿を描いているんですね。

物語、映像とも全体を通して非常に端正できめ細やかに描かれています。構成も実にしっかりしており破綻がありません。また、主人公となる3人の青年のキャラクターや背景は掘り下げ方が深く、各々の個性も際立っています。これはこの作品がインドの人気作家による原作小説を持つことからなのでしょう。反面、その生真面目さ、はったりの無さから、若干退屈に思えた部分があったことは否めません。それにしても、主人公3人のキャラクターは、それぞれビジネス、クリケット・スポーツ、宗教/政治と、これに映画が加われば現代インドの象徴的な存在であることに気づかされます。彼らは皆インドの現在であり未来なのでしょう。つまりこの作品は、インドが様々な障壁や危機を乗り越えながら、それらを希望ある未来に繋いでいこうとする様子を、3人の青年たちの姿に託して描いたものだということもできるのではないでしょうか。