南インドへようこそ!恋あり笑いありアクションありの娯楽作『Chennai Express』

■Chennai Express (監督:ローヒト・シェッティー 2013年インド映画)


親の決めた結婚から逃げ出した娘を偶然助けた主人公が、実はドンである彼女の父親の配下に追い掛け回されてさあタイヘン!というインドのロマンチック・コメディです。主演男女がインドを代表する二大俳優シャールク・カーンディーピカー・パードゥコーンという、大変豪華な組み合わせで、インドでも大ヒットしたという作品です。ヒンディー語DVDを英語字幕で鑑賞しました。

主人公の名前はラーフルシャールク・カーン)。北インド・ムンバイ在住の彼は、とある理由から間違って南インド行の電車、チェンナイ・エクスプレスに乗ってしまい、そこで親の決めた結婚から逃げ出した南インド・タミル出身の女の子、ミーナー(ディーピカー・パードゥコーン)と出会います。しかしミーナーは追ってきた男たちにラーフルともども捕まってしまい、そこでラーフルはミーナーがなんと地元を支配するドンの娘だということを知るんですね。かくしてドンである父親の前に突き出される二人ですが、結婚したくないミーナ―はラーフルのことを「この人、私の彼氏なの!」と父に紹介してしまうんです。「結婚前のドンの娘に手を出したなんて思われたら殺される!」逃げるが勝ちと判断したラーフル、ミーナ―を巻き添えにして逃げ出し、遠い静かな村に隠れ住んだ二人には、次第に愛が芽生えてゆくんです。しかし、ドンの追跡の手は決して緩んではいなかったのでした!

映画を観て勉強になった、ということはよくありますが、この『Chennai Express』も、今まで知らなかったインドの側面を、とても楽しみながら知ることが出来た作品でした。この物語、まず発端がインド西部の大都市ムンバイ。そして主人公二人が「チェンナイ鉄道」に乗って辿り着いたのがインド南部、タミル・ナードゥ州。この距離ざっと一千キロメートル、日本だと東京から釧路、または東京から種子島ぐらいの距離になるんですね。そしてムンバイは北インド、タミルは南インドというふうに区分けされるんですが、実はこの南北インドで言語・人種・文化が全く違うんです。とても大雑把に説明すると、北インドはアーリア系民族でヒンディー語が主流とされ、一般的な「インド」のイメージを持つ文化はこちらが占めます。しかし南インドはドラヴィダ系民族でタミル語をはじめとする様々な言語が使われています。ボリウッド映画ではこの南インドを割と「田舎」って感じで表現することが多いようです。ちなみにカレーを食べるときは北がナンで南がご飯*1

説明が長くなっちゃいましたがこの作品、北インド人男性と南インド人女性の障壁と恋を通して、この二つの文化の差異と融合を描こうとした作品なんですね。それをややこしい人間ドラマではなく、コメディとして描いているので、そういったインド南北の違いを知らなかった日本人のオレですらも、「あ、インドの中でもこんなに違うものなのか」と理解できる分り易さがあるんですよ。例えば前半シーンでは、主人公ラーフルと彼を拉致したタミル人の間で、言葉が通じないがためのチンプンカンプンのやり取りが描かれ、それが笑いを生んでいるんですね。そして言葉が分からないばかりに、ラーフルにとんでもない危機が襲ったりもするんです。南北の人種の違い、文化の違いも映像を見ると一目瞭然に比較できるし、それと併せ、風光明媚な南インドの自然、驚くような絶景が、「こういう場所って本当にあるんだ…」と目を見張らせるんですね。

映画そのものもコメディらしく非常にテンポがよく、合間合間に「チェンナイアイアイエクスプレース♪」なんていうノリのいい歌が入ってポンポンとシーンが移り変わっていくんですね。主人公ラーフルはいつも途方に暮れているかジタバタしているかのどちらかで、ミーナーはいかにも気の強い娘さんという感じで、二人は最初ツンツンしあっていますが次第に打ち解けていくんです。そしてこの二人を気持の高まりを象徴するかのように劇中挿入される南インドの極彩色の祭りが、これがもう、もんの凄く美しく、そしてエキゾチシズムたっぷりなんですね!こうして主人公ラーフルの目を通し、最初「南インドこええ!南インド野蛮!南インド田舎!」と描かれていたものが、「南インド綺麗だなあ。南インドの人たち優しいなあ。南インド素朴でいいところだなあ」と変わってゆく様子、それを観客が追体験してゆくんですよ。恋あり笑いありアクションあり、観ていたオレですら「南インド行ってみたい…」と思わすような素敵な映画でありましたよ。

そして観よ!この極彩色の祝祭空間を!