フランス・コミック界伝説のアンチ・ヒーロー・スペースオペラ〜『ローン・スローン』

■ローン・スローン / フィリップ・ドリュイエ

ローン・スローン (ShoPro Books)

フランス漫画界最大のカルト作家、フィリップ・ドリュイエがついに日本上陸! 70年代のフランス漫画界において、鬼才中の鬼才と称され、その大胆な構図・色彩感覚にはメビウスも影響を受けたとされるフィリップ・ドリュイエ。アール・ヌーヴォー、インド建築、ゴシック様式などを取り入れた、宇宙空間における建築物の描写に定評があり、欧米では“スペース・アーキテクト"の異名で呼ばれています。いまなおカルト的人気を誇るフィリップ・ドリュイエが1972年に連載を開始し、2012年、ようやく完結を迎えた壮大なSF叙事詩『ローン・スローン』が初邦訳でいよいよ登場です!

この『ローン・スローン』はあのメビウスにも影響を与えたというフランスのカルトBD作家、フィリップ・ドリュイエの代表作を収めたものだ。『ローン・スローン』シリーズは1972年から2012年まで40年に渡って書き続けられた作品で、この単行本はその集大成的な作品集となっている。物語は深宇宙の暗黒神によって超絶的なパワーを得た一人の男、ローン・スローンが、星々を経めぐりながら凄まじい破壊と戦闘と死をもたらしてゆく、というアンチ・ヒーロー物のスペースオペラだ。禍々しく輝く殺人マシン、忘れ去られた古代神殿のような巨大建造物、野獣と化したクリーチャーが画面一杯に躍り、それらがサイケデリックなコマ割りの中で地獄の祝祭の如き大戦争を繰り広げてゆくのがこのコミックなのだ。狂熱と混沌が支配するこの物語は神話的であると同時に暗いゴシック趣味に彩られたヒロイック・ファンタジーであり、そしてピカレスクSF冒険譚としてはアルフレッド・ベスタ―の『虎よ!虎よ!』を想起させる。ただし『ローン・スローン』が発表された時は革命的な作品であったようだけれども、このような"伝説"を知らずに読むとグラフィックやストーリーテリングが現在進行形の他のBDと比べてさすがに古臭さと拙さを感じるのも確かだ。そういった意味で楽しめたかというと実は微妙なのだが、BDとSFコミックの資料的な意味合いとして一読するにはいいかもしれない。

ローン・スローン (ShoPro Books)

ローン・スローン (ShoPro Books)