■マッキー (監督:S・S・ラージャマウリ 2012年インド映画)
「人間の魂が転生したハエ」、それがマッキー!嫉妬に狂った悪徳社長に殺された青年ジャニ!しかしジャニの魂はハエ=マッキーに転生した!?愛する人を守るため、そして悪徳社長に復讐を果たすため、マッキーは今日も飛ぶ!ブーンブーン!
いやあ笑った笑った!そのあまりにとんがった「有り得なさ」具合に笑い転げて観ていました。人間から転生したハエの復讐劇、というお話だけでも「なんじゃそりゃ?」というキワモノ感満載なんですが、これを本当に成り立たせちゃってるところが凄いんですよ。「いやしかし、ハエでしょ?しかもたった一匹で、いったいどうやって復讐するの?」と思われるでしょうが、そこがこの映画の見所なんです。ブンブンまとわりついて鬱陶しがらせ、夜も眠れないほど消耗させるなんてまだ序の口。商談中の社長の邪魔をして破談に持ち込んだり、運転中の社長を苛立たせて大事故に持ち込んだり、しまいにはブチキレた社長が部屋中で銃をぶっ放し部屋をメチャクチャにさせたりするんだからオソロシイ!
それだけじゃない!このマッキー、力を付けるためになんと筋トレするんですよ!ハエが筋トレってオイ…。さらに秘密兵器まで装着しちゃう!「いやちょっと待って!ハエだし!ハエだから!」と突っ込む間もあらばこそ、お話はどんどん有り得ない方向へと突き進むんですよ!しかも、インド映画お得意の踊りまで見せちゃう!「いやいやいや!ハエの踊りって!ハエが踊るって!」と、もう観ているほうはすっかりカオスの中に放り込まれ、笑いの坩堝状態です!そもそも「マッキー」というのがヒンドゥー語で「ハエ」という意味で、映画では「マッキー!マッキー!マッキー!」と主題歌が歌われるんだけど、これ要するに「ハエ!ハエ!ハエ!」と歌ってるってことじゃん!?この主題歌自体もスゲエよ!
「人間の魂が転生したハエ」ってヒンドゥー教の輪廻転生思想ってことで、この辺がインド映画らしいですね。しかしコレ、生前ハエみたいにしつこかったからその業を受けて生まれ変わったのもしつこいハエだった!ってことになるんですよ。確かに人間だった頃のマッキーことジャニ君、ヒロイン・ビンドゥちゃんへの恋のアタックはほとんどストーカー並みにしつこかったからうなずけるわ!あのアタック攻勢、観ていてちょっと引いたもの!で、ハエに生まれ変わった後のジャニ=マッキー君も、悪徳社長スディープへの絡み方がハンパなくしつこいんですよ!このしつこさが面白いんだけど、いくら復讐とはいえ、そもそもジャニ君自体がもともとアブナイヤツだったんではないか!?とも思えてしまって、だからゲラゲラ笑いながらちょっぴり「コエーこいつ…」とも思えるんですよ。
この映画、マッキーのこんなしつこさ熾烈さが笑いを生んでるんだけれども、この笑いというのが、ほとんどホラーと紙一重なんですね。この映画はそもそものテーマが「虫に生まれ変わった青年の復讐劇」である上に、描かれているのが「虫に取り憑かれて消耗し錯乱し、自滅してゆく男の物語」なわけで、そこだけ取り出すとこりゃもう全然ホラーじゃないですか。だけどそんな物語でありながら、暗さや怨念を描くのではなく、それらを全て奇妙奇天烈なアクションと、それが生む笑いに転化している。笑いと暴力は表裏一体だという話があるけれど、この映画ではその暴力をあろうことかちっぽけなハエが行使している(!)からこそ、復讐や暴力の陰惨さを微塵も感じさせることなく、どこまでも滑稽な笑いへと昇華しているんですね。
そしてマッキーことハエはCGで描かれているんですが、そのCG造形が普通にハエ!これがハリウッドのCGアニメだとなんだかふにゃふにゃとファンシーに可愛らしくデフォルメされ、グッズにもなり易いキャラに作るんでしょうが、マッキーは何の可愛げもなくハエ!そこはかとなくババッちさの漂うハエ!グッズになんか絶対ならねえ!という潔さもまたいい!そういった部分でこの『マッキー』、たかが一匹のハエでここまで話を大きく膨らませる、ここまで話を作り込んじゃう、そのぶっ飛び具合がなにしろ感心しちゃうほど面白い、楽しい、素晴らしい、そして大笑いできる、破格の映画として完成しているんですよ!是非ご鑑賞あれ!
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